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レッドジャーニーにとって初めての開催となるカンファレンス「Red Conference」が、2022年3月15日~17日の三日間にわたってオンラインで開催されました。”日本の組織をRe Designする”をテーマに、これまでのDX支援、アジャイル支援と組織変革の事例をご紹介するとともに、その変革の過程や成果についてクライアント企業のご担当者さまとの対談形式で語りました。3月15日に開催されたDAY1にご登壇いただいたのは、野村證券株式会社 営業企画部のおふたりです。お話しいただいた講演の内容と対談の模様を、前後編でお届けします。前編では、植森晴香様による講演「素人でもアジャイルに挑戦できた」と、市谷による講演「組織アジャイルをはじめる 組織をアジャイルに導く7つの原則」の概要をご紹介します。 アジャイルを組織運営に適用する「組織アジャイル」とは、実際どのようなものなのでしょうか。

組織アジャイルをはじめる 組織をアジャイルに導く7つの原則
株式会社レッドジャーニー 市谷聡啓

今日は、「組織アジャイル」についてお話します。あまり聞き慣れない言葉だと思いますが、元はソフトウェア開発の手法であった「アジャイル」を組織運営にも適用する手法、考え方が「組織アジャイル」です。スタートアップ等の新しい組織では、比較的取り組みやすいこともあり、広く導入されている一方で、伝統的な組織や大企業においては、いかにしてアジャイルに取り組むか、五里霧中に陥っています。

なぜ、組織の運営にもアジャイルが必要なのか?

アジャイルとは、元はソフトウェア開発の世界から始められた価値観であり、それを支えるプロセス方法論です。漸次的に進め、その結果から学びを得るという反復活動から本質を得ていくという「適応」理論に基づいています。自分たちを取り巻く状況の変化を見極め、方向感を探り捉え直しながら進めていくため、変化が大きく急速な今とこれからの時代にフィットしています。日本の組織は、1980年代以降の勝ちパターンとして深く定着した「最適化への最適化」の呪縛の中にいます。効率化と標準化を繰り返し、選択肢を絞る仕事の進め方は、扱う問題が複雑だったり正解がなかったりする仕事が大部分を占める現状下では通用しません。そこでは探索と適応を並行して行うことが求められており、探索と適応の術を適用する組織運営が「組織アジャイル」です。

組織アジャイルを始めるための7つの原則

(1)小さな勝利を手にする

新たな方法を適用するにあたって最初に求められるのは実績です。たとえ小さくとも最初の実績がなければ、取りかかりが見えません。まずは小さく始めます。「小さく始める」の本質は、早く結果が得られることにあります。それはつまり、早く次に活かせるということです。まずは3ヶ月で、一つの部署よりもさらに小さい、一つのチームからトライしましょう。成否にかかわらず、実績と経験になることが重要です。きれいな実績を目指していては、何年経っても始められません。

(2)相手の時間軸にあわせる

最初にプランを立てる際、直面する課題が、取り組む速度のギャップです。このとき、現場の当事者に合わせることが大事で、組織で「ふりかえり」をしながら、当事者の時間軸に合わせて調整します。一方で、長期的な時間軸も持つべきです。3ヶ月、半年経った時に客観的に見直すと、継続できるか、成果に繋がるかの見通しができます。

(3)傾きをゼロにしない

最初から思い通りにいくことはほとんどありません。諦めずに取り組みましょう。心の灯を消さないためには、傾きをゼロにしないことが大切です。「辞める」宣言をしない限り、ゼロにはなりません。行動の量や頻度をあえて下げること、時を待つことも必要です。

(4)アジャイルから始めない。仮説検証から始める

最初にやるのは、「何が出来ればいいのか」を決めに行くこと。例えば、今やっている仕事やプロジェクトで仮説を立てて小さく試行・検証し、ゴールを置けるように整えます。アジャイルから始めると、ゴールがぼんやりとしたままスタートせざるを得ず、不安に陥ります。

(5)その場に居る人達で始める

大企業では、人も部門も外部の関係者も多く、簡単にはまとまりません。取り組みやすくするためには、対立構造を作らないことです。成果に繋げるには、取り組みの狙いや目的を共有する必要がありますが、目の前の個別のことについて述べるのではなく、大義名分を見出し、まず大きく合意形成を図ります。

(6)勝てるところまで戻る

うまくいかなかったときは、勝てるところまで戻ること。勝てるところとは、やったことがあることや、今やっていることより難易度が下がることです。今まで得たことを学びとして、コンセプトに立ち戻り、考え直し、企画を再生します。うまくいくまで繰り返すのではなく、一旦立ち止まって、戻っていくのが現実的な進み方です。

(7)アジャイルを連鎖させる

組織のアジャイルを「多少経験した人」が増えることを狙いにし、そこを突破口として次の展開へ進みます。完全にやり遂げようとすると時間がかかりますし、先が見えなくなります。他の部門やプロジェクトで広げるためには、俯瞰的、意図的、持続的に連鎖させる意志と仕組みが必要です。ポイントは、経営陣など組織内で権限を持った人と一緒にやることです。「あの時よりも、できるようになっている」という期待が、組織のアジャイルを後押しします。他の組織ではなく、一年前の自分たちと比べましょう。

素人でもアジャイルに挑戦できた
野村證券株式会社 営業企画部 デジタルプラットフォーム企画課 課長代理 植森晴香 様

アジャイルどころか、プロジェクトの立ち上げ方さえも分からない状態から、アジャイルに取り組んだ一年間の経験についてお話します。まったくの素人でもプロジェクトを進めることができたのは、アジャイルだからこそだと感じています。同じように初心者で、DXを担当している方へ勇気をお届けできたら幸いです。

チームビルディングから仮説検証へ

最初に取り組んだのはチームビルディングです。各メンバーのスキルや経験をチームで共有するワークを通して、期待値のすり合わせができました。私自身、できることが少なかったので、自分の枠を知ってもらいたいという狙いもあり、有意義な取り組みになりました。

次に、社内の知見のある方や、お客様に最も近い営業メンバーから聞き取った内容をもとに、課題仮説を立てました。そもそも仮説を立てること自体が初めてでしたから、自分なりに本で調べ、仮説の組み立て方を勉強しました。特に参考になったのは、市谷さんの著書『カイゼン・ジャーニー』です。主人公やストーリーに共感しながら読みました。その後の課題仮説の検証でも、参考書を頼りに進めました。インタビューも初めてでしたから、準備に時間がかかってしまい大変でしたが、一通り経験できて良かったと感じています。プロジェクトに時間的余裕がないときは外部委託も選択肢に入れるなど、今後はよりスムーズに進められそうです。

次に取り組んだソリューション仮説の立案では、すっかり行き詰まってしまいました。課題仮説の検証で得られたお客様の課題に対して、もっとも価値のあるソリューションは何か、休みの日も必死に考えましたが答えが出ず、焦っていましたが、上司が大きく構えて理解してくれたことに救われました。組織内の理解者の存在は、大きな支えになります。続いて、ソリューション仮説の検証を行い、インタビューの結果を元にMVPバックログを作成しました。企画段階で出る新しいアイディアは魅力的ですが、おもしろいだけで顧客への価値のないものは省いた結果、顧客の課題に刺さるソリューションを検討することができました。

行き詰まったときの対処法

行き詰まったときに工夫したことを、3つご紹介します。1つ目はチーム運営の改善です。行き詰まったときの手入れの進め方を考えたり、空いた時間で議題をまとめたり、朝会を行ったりしました。2つ目はツールの利用です。使い慣れたオフィスソフトを使いたくなる気持ちを抑え、チームで即時共有できるオンラインボードを使って状況を見える化したところ、スピード感が上がりました。3つ目はフレームの利用です。「迷ったときは仮説キャンバスに戻って考えるといい」と市谷さんからもアドバイスをいただき、試してみると、今までとは違う観点から課題が見えてきました。今後も使っていきたいと考えています。

ワンチームでつくりあげたプロジェクト

開発では、チーム内の知見のあるメンバーやベンダー、開発チームのメンバーに助けてもらいながら作ることができました。開発も企画も、立場に関係なくワンチームで、プロダクトを大切に前向きに進められたのは、顧客視点でプロダクトを語れたからだと思います。仮説検証がしっかりできていたことで、ITの経験や知識が少なくても、開発チームと充実感のあるやり取りができました

今後の展望

プロジェクトはこれからが本番です。今後は、プロジェクトの進め方をより工夫し、チームを進化させたいと思います。リリース後もプロダクトをさらに検証し、より良くしていきたいですし、その中で出てくる新たな仮説のアップデートも進めていきたいです。今回、とてもよかったのは、開発をする人もしない人も、マーケティング、プロモーション、デザイン、IT部門など部門を問わず、みんなが同じチームで一つのプロジェクトとして取り組めたことです。この経験を、これから組織で活かしていきたいと考えています。特に、顧客視点で語りながら進めることについては、ディスカッションに時間はかかりますが、最終的に一番早いと経験から実感しています。

後編へ続きます。

※野村證券株式会社での仮説検証型アジャイル開発の取り組みについては、こちらの記事もご参照ください(2021年6月)。