Monthly Red Journeyは、毎月発刊のトピックレターです。
これまでのレッドジャーニーの発信の中から、特定のテーマに基づいてトピックを集め、紹介します。
今回のテーマは「両利きのアジャイル」です。
目次
事業と組織の変革に必要なのは「両利きのアジャイル」
レッドジャーニーとして様々な組織のDX支援や組織変革支援に取り組む中で見えてきたのは、現代の日本組織が直面する「最適化の呪縛」です。
1980年代から連綿と培われてきた「効率への最適化」路線のもと、選択肢は絞られ、標準化が進み、やがて「非効率での安定化」へと行き着きます。
より良くなろうとするほどに「最適化」に嵌る、「最適化のモメンタム」があらゆる組織で起こっています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、こうした「最適化への最適化」路線を止めることと言えます。
企業は環境の変化に適応し、顧客や社会のニーズに応えるべく「提供価値の変革」と同時に「組織の変革」を進めていかなくてはなりません。
「提供価値の変革」と「組織の変革」を同時に進めるには、「両利きのアジャイル」が必要です。
「両利き」とは、右と左の両方をうまく使えること。「両利きのアジャイル」とは、「正しいものを正しくつくる」(仮説検証型アジャイル開発)と、「組織を芯からアジャイルにする」(組織アジャイル)を並行して進めていくことです。
「仮説検証型アジャイル開発」でプロダクト作りに取り組みながら、「芯からアジャイルな組織」へと変革していく。「両利きのアジャイル」を実現するには、何から取り組めば良いのでしょうか?
次からの項目で解説していきます。
われわれはなぜここにいるのか? 組織の「芯」を探しに行こう
事業創出、プロダクト作り、DX・組織変革など、現代の組織が直面しているのはいずれも難題ばかりです。
これらの難題をさらに難しくさせているのが、組織内の「分断」です。
経営×マネージャー×現場間で起こる「縦」の分断、部門間・チーム間で起こる「横」の分断。大きな伝統的組織だけではなく、あらゆるところで分断が起こっています。
分断は、最初から深刻なわけではありません。
決して排他の意図があるわけではなく、それぞれが真摯に目の前のことに集中しているだけにもかかわらず、互いの融通の利かなさや不透明性が疑心暗鬼をもたらし、生じた分断は深刻化していきます。
そこに不足しているのは、組織の「芯」です。「芯」=われわれはなぜここにいるのか? ということ。
「Why」がない組織はあてるべき「焦点」を見失い、結果として顧客やユーザーとの間にも分断を招きます。
では、組織の「芯」とはどのようにして見つければ良いでしょうか?
手がかりは「プロダクト作り」にあります。
「プロダクト作り」の過程で、「自分たちにとって何が大事なのか」=自分たちの「芯」を知り直しましょう。
自分たちだけでは、分断を乗り越える手がかりが足りません。顧客やユーザー(社会)の力を借りましょう。
まずは顧客インタビューを行い、自分たちが「いかに分かっていないか」を分かるところから始めます。
そこからアンラーンし、自分たちの方向性を決め直すことが大事です。
固定概念を手放し、あらためて自分たちの存在意義を何で獲得していくのかを決めていきます。
新たな方向性を決めたら、それに基づいて「具体」を実現します。
仮説を立て、プロダクトや事業で小さく形にしてみましょう。
小さく形にしたら、再度顧客やユーザーとの対話へ向かいます。
「モノ」を通じて顧客やユーザーと対話を行うことで、自分たちの「芯」を確かにしていきましょう。
次からの項目では、「両利きのアジャイル」の右手=「正しいものを正しくつくる」と、左手=「組織を芯からアジャイルにする」のそれぞれについて、より詳しく解説していきます。
「正しいものを正しくつくる」仮説検証型アジャイル開発と、アジャイル型の仕事の進め方とは
まずは、「正しいものを正しくつくる」(仮説検証型アジャイル開発)についてご説明します。
何が価値となりうるか? 価値探索を始めよう
「正しいものを正しくつくる」とは、どういうことでしょうか。
その問いに先行して向き合ってきたソフトウェア開発の世界から手がかりを得るべく、まずは「ソフトウェア」と「プロダクト」の違いを紐解いてみましょう。
期待(仕様)通りに作ることが求められる「ソフトウェア作り」と異なり、「プロダクト作り」では利用目的を果たしユーザーに価値をもたらすことが求められます。したがって、取り組みの順番は次のようになります。
▼STEP1 ニーズの明確化
どんな状況にいる、どんな人の、どんなニーズに応えるものを作ろうとしているのか?不明確の場合は、まずその特定から始める。
▼STEP2 「価値探索」の取り組み
何が価値となりうるか?大抵の場合は最初から正解が明確化されていないため、「仮説」を自分たちで置く「価値探索」の取り組みが必要。
「価値探索」を進めるには、「価値自体と価値となる条件」「価値にならない条件」の見分けをつけられるように、様々な観点から光を当てて少しずつ解像度を上げていきます。
見るべき観点は無数にありますが、リソースは限られていますから、最小限の観点から本質を見分ける必要があります。
少なくともここさえ見ておけば「価値がある」と判断できる観点を持っておかなくてはなりません。
だからこそ、「仮説検証」が重要なのです。
「仮説検証」への取り組み方
どのようにして「仮説検証」に取り組めば良いでしょうか?
まずは仮説を立てます。「仮説キャンバス」を使い、プロダクトの本質となる「課題」と、実体となる「機能」、具体となる「形態」を描くことで、「価値」を導き出しましょう。
「仮説キャンバス」は、観るべき対象や状況に光を当てて可視化する手段です。
プロダクト作りの主体である「われわれ」と、ユーザーである「顧客」について、それぞれ考えておくべき重要なポイントを言語化しフレームに入れていきます。
仮説を立てたら、検証を行います。仮説の「確からしさ」を得るための活動が「仮説検証」です。
顧客インタビューやプロトタイプ、MVPなどによって、プロダクトの「価値」(仮説)が成立するかどうかを検証しましょう。
期待するビジネス規模に到達するためには、「価値」が成り立つ領域を充分に広げられるか? も大事なポイントです。チャネルや利用体験向上に関する検証も合わせて行いましょう。
これらの「仮説検証」は段階的に進める必要があります。
また、仮説検証は「仮説が合っていることを確認する」だけの活動ではありません。「検証によって新たな切り口と出会う」活動でもあります。
「検証」によって「仮説」を育てていきましょう。
仮説検証型アジャイル開発
仮説の「確からしさ」が⼀定程度得られたところで、実⽤的で最⼩限範囲のプロダクト(Minimum Viable Product)作りに取りかかります。
事業開発チームとしてプロダクト作りに取り組むためのプロセスが「仮説検証型アジャイル開発」です。
選択肢を十分に広げた後で絞る「仮説検証」と、構想を早く形にしてフィードバックを得る「アジャイル開発」を、反復的に繰り返しながらプロダクト作りを進めます。
※仮説検証型アジャイル開発については、レッドジャーニーの特設ページをぜひご参照ください。
プロダクト作りにとどまらない、アジャイルがもたらす可能性
1980年代のように「勝ち筋」が明確だった時代と異なり、今、そしてこれからの時代は何が価値となるのか誰も正解を持っていません。
そんな環境において、価値の探索と適応を繰り返す「アジャイル」型の仕事の進め方は適していると言えるでしょう。
あらかじめの正解が⾒通せない中でできることとは、適応の判断、その機会を頻度よく設けることです。
▼これからの仕事に求められること
「アジャイル」の基本である「ふりかえり」と「むきなおり」を一定のサイクルで「回転」させながらチームで取り組みを進めること。
※「From」によって「To」までの「Gap」が全く異なるため、「どこを目指すか」(To)以上に「どこから始めるか」(From)を認識することが重要。外部の力を借りつつも、⾃分たち⾃⾝で実地に模索して⾒出していく必要がある。
「知⾏合⼀」(ちこうごういつ)という言葉が示す通り、知ることは始まりに過ぎず、事を成すには実践が不可欠です。
「アジャイル」もまた実践の中でこそ磨かれていくものです。正しいものを正しくつくれているか? の問いを手掛かりに、前に進んでいきましょう。
▼参照
「組織を芯からアジャイルにする」組織そのものを変えていくアジャイルのアプローチ
続いて、「組織を芯からアジャイルにする」(組織アジャイル)についてご説明します。
「探索」と「適応」のサイクルを内包する「アジャイル」
「効率への最適化」に捉われた組織がDXを実現するためには、「探索」と「適応」の活動と能力が必要です。
つまり、DXの中核にあるのは「組織に”探索”と”適応”を宿すこと」と言えます。
状況をよく見て仮説を立て、思考や検証をしていく「探索」の活動から、得た学びを次に向けた判断と行動へ繋げていく「適応」へ。そのサイクルを反復的に繰り返すことで、外へ向けた提供価値の変革と組織内部の変革を可能にします。
「探索」と「適応」のサイクルを内包しているのが「アジャイル」です。少しずつ反復的に開発を進めることで、必要とする人(ユーザー)から必要なフィードバックを得て調整し続けられるのがアジャイルの特徴です。
アジャイルの基本は「回転」です。成果物をはやく作れることが強みと捉えられがちですが、アジャイルの「はやさ」とは開発の速さでも完成の早さでもなく「適応のはやさ」です。
(少しだけ)速く、早く作れることで「何が望ましいのか」が早く分かり、次にとる判断や行動をより適切に近づけることができます。
アジャイルは「方法」であり「あり方」
ソフトウェア開発から始まった「アジャイル」を組織に適用するためには、段階的な視点を持つことが必要です。
それを階層で表した「アジャイル・ハウス」では、最下層である基礎部分に「アジャイルマインドの理解」(「協働」のメンタリティを得る)を置いています。
従来にはなかった新たな動き方だからこそ、チームや組織内の意思疎通や信頼関係が基盤となります。アジャイルとは方法であり「あり方」なのです。
組織アジャイルはスタートアップに限らず伝統的な大企業でも取り入れられており、社内コミュニティ作りや勉強会など様々な取り組みの事例が紹介されています。
正解や成功パターンがあるわけではなく、自組織の現状とビジョンに合った取り組みを、小さく始めて段階的に根気強く進めていくことが必要です。
レッドジャーニーのサイトでは、組織アジャイルや仮説検証型アジャイル開発に取り組まれたクライアント企業様の事例を数多くご紹介しています。実践の参考にぜひご覧ください。
▼参照
レッドジャーニーの組織支援
それぞれの組織・現場でともに取り組む、「仮説検証型アジャイル開発」
「仮説検証型アジャイル開発」の取り組みでは、それぞれの組織ごと、現場ごとに異なる「From」(どこから始めるか)、「To」(どこを目指すか)を捉え、「From-To」(どこからどこへ向かうのか)の道筋を描いていく必要があります。
絶対的な正解がありませんから、自分たちだけではなかなか突破口が見えないこともあるでしょう。
レッドジャーニーでは、経験豊富なアジャイルコーチ陣による「仮説検証型アジャイル開発」の導入支援、伴走支援を行っています。
組織外部から関わるアジャイルコーチという立場から越境することで、「支援する側」と「される側」とが「一つのチーム」としてともに取り組むのが、レッドジャーニーの組織支援の大きな特徴です。
今まで様々な方法を試したものの期待した成果に結びつかなかったという経験をお持ちの方は、ぜひご相談ください。
▼詳しくはこちらをご覧ください。
アジャイルから始める組織変革スタイル
「エナジャイル」は、数々の組織で変革の現場に立ち会ってきたレッドジャーニーがご提案する「アジャイルから始める」組織変革スタイルです。
組織改革の鍵を握るのは個々人の行動変容です。
行動変容の拠りどころとなる「小さな型」をもとに、変革の「足場づくり」からともに進めていきます。
▼詳しくはこちらをご覧ください。
関連書籍のご案内
仮説検証型アジャイル開発の原典、『正しいものを正しくつくる』
仮説検証型アジャイル開発についてより詳しく知りたい方は、ぜひ提唱者である市谷の著書『正しいものを正しくつくる』をご覧ください。
研修や社内勉強会などへの登壇依頼も承ります。
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『組織を芯からアジャイルにする』 アジャイルの回転を、あなたから始めよう
本書は、ソフトウェア開発におけるアジャイルのエッセンスを「組織づくり・組織変革」に適用するための指南書です。
ソフトウェア開発の現場で試行錯誤を繰り返しながら培われてきたアジャイルの本質的価値、すなわち「探索」と「適応」のためのすべを、DX推進部署や情報システム部門の方のみならず、非エンジニア/非IT系の職種の方にもわかりやすく解説しています。
アジャイル推進・DX支援を日本のさまざまな企業で手掛けてきた著者による、〈組織アジャイル〉の実践知が詰まった一冊です。ぜひご一読ください。
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レッドジャーニーへのお問い合わせ
多くの組織にとって、組織活動にアジャイルを適用していくという挑戦はまだこれからと言えます。
組織アジャイル、アジャイル開発の適用や課題、お困りごとについて、お問い合わせはこちらからお寄せください。
ともに考えていきましょう。