2023年9月11日、ANAシステムズ株式会社で開催された社内勉強会にて、代表の市谷が講演させていただきました。

講演では「組織を芯からアジャイルにする」と題し、現代の組織が抱える課題とその要因について紐解いた上で、その突破口としてのアジャイルについて基本的な考え方や、組織にアジャイルを根付かせるための段階的な取り組み方についてお伝えしました。

講演の概要

「効率への最適化」の先にあるもの

「アジャイル」は元々ソフトウェア開発の手法として活用されてきましたが、現代の組織においてはより特別な意味を持ちます。
なぜ、アジャイルなのか? 昨今のDXという名の下に、至るところで進められている組織変革活動に伴走してきた渦中から垣間見えてきたことを、皆さんにお伝えしたいと思います。

どうも違う気がする。

同僚も先輩諸氏も特に疑いもなく、これまでどおりで仕事に邁進している。とにかく時間もないんだ、「どういうやり方がほかにあるのか」って考えている余裕もない。ただただ目の前の仕事、タスク、プロジェクトを片付けようと躍起になっている。

最初のうちはいい。でも、必ずといっていいほど、中盤あたりで雲行きが怪しくなってくる。進みが計画から遅れだす、正解と置いていたことが覆る。疲弊感は徐々に増して、現場を覆っていく。プロジェクトを終えるときに多少のふりかえりはおこなっているが、次に何かが活かされることはあまりない。やがて、新たな仕事に、同じやり方で取り組み始める……。

出典:市谷聡啓 著『これまでの仕事 これからの仕事』技術評論社

これは、2023年6月に刊行した著書これまでの仕事 これからの仕事からの一節です。
目の前の仕事に追われ、今のやり方とは違う選択肢を検討したり次へ活かしたりする余裕もないまま新たな仕事を迎え入れる。その繰り返しを続けた先には、何があるのでしょうか?

われわれが今直面しているのは、1980年代から連綿と培われてきた「最適化」の呪縛です。
組織の構造、体制、業務、技術、意思決定に至るまで「効率性」に最適化していった結果、行き過ぎた最適化はやがて「非効率での安定化」を招きます。
より良くなろうとするほどに最適化し、そして変われなくなる。最適化のモメンタムはあらゆる組織に宿ります。

正解や価値が明確だった「これまで」は、「予定通りにできたか?」が評価基準でした。
一方、あらかじめの「正解」がない「これから」の仕事においては、同じ評価基準ではまったく合いません。

評価基準が異なれば求められるアウトプットも違ってきます。そこへ至るプロセスやインプットも、「これまで」と同じものを適用し続けていたのでは、かえってムダを生じることにもなりかねません。

ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より
ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より

組織の中で何が壊れているのか?

本来、組織の活動は「組織や事業としてどうありたいか?」の「意図」(意志)があり、その実現のための「方針」を立て、方針に基づいて「実行」されていくことで形作られます。組織を「一人の人間」に例えるなら、次のように関連付けることができます。

  • 意図=感じる(こうありたい)
  • 方針=考える(こうしよう)
  • 実行=動く(こうする、こうした)

自組織を顧みたとき、どのくらい「組織として動けている」でしょうか?
「組織として動けている」とは、意図・方針・実行が整合し、かつ遅滞なく連動している状態です。

意図・方針・実行が整合していなければ、それは組織上のバグとなり、そのような組織は「方針」だけが生き残り強化される「最適化の呪縛」に陥っていきます。

ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より

「感じて、考えて、動く」が遅滞なく連動できているでしょうか?
何年も前に決めたことを、そのままにしていないでしょうか?

DXとは「効率への最適化」路線から立ち止まること

「最適化し続けた組織」に圧倒的に不足しているのは、「次の可能性」に遭遇するための「探索」の活動と能力です。
効率化、改善のための「深化」(最適化)だけでは外部環境の変化には適応できません。そもそも組織が取り得る選択の幅を広げる「探索」と「適応」が必要です
しかし現実には、あてのないコストとリスクを敬遠し、自組織の得意な領域で「深化」にフォーカスしてしまいがちです。

つまり、DXで取り組むことの中核は「組織に探索と適応を宿すこと」と言えます。あらかじめの正解が見通せない中では、適応の機会を頻度よく設ける必要があります。
「探索」と「適応」のサイクルを内包しているのが「アジャイル」です。アジャイルの回転の数だけ、意思決定と行動を変えるチャンスが生まれます

ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より

組織に「探索」と「適応」を宿すには

組織に「探索」と「適応」を宿すにはどうすれば良いでしょうか?
必要なのは「段階的に広げる」という視点です。

アジャイルの実践知を組織に広げる段階的イメージを表したのが「アジャイル・ハウス」です。「アジャイルマインドの理解」(「協働」のメンタリティを得る)を基礎とし、その上に1Fから3Fまでが積み重なっています。
自組織の現状と課題に照らし合わせて、今どの部分に取り組もうとしているのかを捉えましょう。

ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より

「アジャイル・ハウス」の1Fは「チームで仕事をするためのアジャイル」。状況を見える化し、チームで一緒に取り組めるようにします。
アジャイルの基本は「回転」であり「チーム」です。適応の回転を効率的に得ていくためには、自律性が期待されます。チームで取り組むことによって自律性を高めていきましょう。

2Fは「探索と適応のためのアジャイル」です。既存事業の質を向上させ新規事業を創出するために、「仮説検証」と「アジャイル」の能力を獲得しましょう。

3Fは「組織運営のためのアジャイル」です。業務や組織の運営に「アジャイル」を適用し、「探索」と「適応」の仕組みを組織に備えます。
「探索適応」は経営・戦略、マネジメント、現場のすべての組織レベルで必要です。「ふりかえり」「むきなおり」「かさねあわせ」を行い、方向を正す機会を常に設けましょう。

ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より

より具体的な組織への広げ方としては、以下に示す「はじめに取り組むべき6つのバックログ」を参照してください。

はじめに取り組むべき6つのバックログ

  1. 共通のガイドをつくる(経典)
  2. 全社教育コンテンツを備える
  3. 社内コミュニティを立ち上げる
  4. 社外への発信
  5. 組織理念との整合を取る
  6. 実践の伴走支援
ANAシステムズ様 講演資料より引用
講演資料より

アジャイルとは「方法」であり「あり方」

「アジャイル・ハウス」の基礎部分にある「アジャイルマインド」とは、どのようなものでしょうか?
2001年に公開された「アジャイルソフトウェア開発宣言」に、その価値観が示されています。

私たちは、ソフトウェア開発の実践
あるいは実践を手助けをする活動を通じて、
よりよい開発方法を見つけだそうとしている。
この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。

プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を、

価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。

出典:アジャイルソフトウェア開発宣言

ただでさえ慣れない動きだからこそ、チームや組織の中の意思疎通や信頼関係が基礎となります。アジャイルとは「方法」であり「あり方」なのです。

近年、国内でもDXのカギとして組織アジャイルが注目されており、伝統的な大企業でも取り組みが進められています。
「海外のアジャイル」のままでも「外のアジャイル」の押し付けでもなく、経営・戦略、マネジメント、現場といったすべての組織レベルで「自組織のアジャイル」を見出し取り組んでいく必要があります。
変化は「どこかの」「誰か」から始まるのではなく、「あなた」から始まります。
組織を芯からアジャイルにする、「芯」とは他でもない一人一人の「あなた」なのです。

参加された方のご感想

参加された方のご感想を、ご了承を得た上で一部ご紹介させていただきます。

システムを開発するにあたってのアジャイルのお話は聞いたことがありましたが、組織開発についてもアジャイルが使われているとのこと、具体例を含めたお話が聞けて大変勉強になりました。
自分が普段こなしている業務においても、「いままでこうしていたから…」ではなく違った目線で探索してみる事を心がけてみたいと思います。

大変興味深くお話を伺わせていただきました。契約、制度、要領、意識、いろいろな面でアジャイルへのハードルもありますが、先ずはチームの中で少しずつでも”変化”を生み出していきたいと思います。

これからアジャイルを始めようというところで今回の講演を伺えたため、どうしてアジャイルなのか、どういう風に変えていく必要があるのかなど、私にとっては非常に貴重かつ参考になるお話でした。ありがとうございました。

非常に参考になりました。部門管理職がどのようにアジャイルに向き合うのか、自分事として推進していくことの重要性を感じました。ありがとうございました。

組織アジャイルという新しい考え方にハッとさせられた。本来やるべき仮説探索活動になかなか手が回らないというジレンマはそのbacklogをまず作ろう、というところから始めるというのは、小さく始めるというところと共通したものを感じた。

最適化、効率化が行き過ぎると思考停止になる、衝撃的な言葉だった。最後の「みんなにはあなたもはいる」「変化はあなたからはじまる」とのメッセージが印象に残った。人が変わることが最も重要と再認識した。また、外から中へ知らせるとの手法はとても参考になった。

基本的なところからで恐縮ですが、これまでは「開発手法の一つ」という誤解をしていることに気づくことができました。
開発手法やプロジェクト運営だけにとどまらず「組織を正しく」という大事なことに気づき知ることができました。

市谷さんのお話の中で目的に対して進む方向を”向きなおす”という事が改めて大事なことだと気づきました。目標にまっすぐ向かうのではなく着地点をあえて変える必要がありそれには”向きなおす”ことをトリガーとしてより正確な着地点を見いだせるのではと思いました。

いままでアジャイルは、スクラムを作って、開発作業する。と、聞かされていたので目的がイメージできず腹落ちしづらかったのですが、経営含めアジャイルを説明いただき、かなり腹落ちできました。システム開発は、会社の中で行うアジャイルな仕事のやり方の一部とすることが必要なのかもしれない。

とても刺激的ですごく勉強になりました。
組織、全体の仕事をアジャイル化していくために必要なエッセンスが詰まっていました。
草の根活動、ボトムアップでは限界があるので、マネジメント層エグゼクティブ層で認識に認識していただき背中を押していただける状況を作り、加速していけるといいなと考えています。

関連情報のご案内

レッドジャーニーでは、業界や組織の規模を問わず多様な組織でDX支援、アジャイル支援を行っています。
これまでの支援事例をご紹介していますので、実践の参考にぜひご覧ください。

また、経験豊富なアジャイルコーチ陣による無料オンライン相談会など、様々なイベントも開催しています。
開催予定のイベントについては、こちらをご覧ください。

関連書籍のご案内

『組織を芯からアジャイルにする』
アジャイルの回転を、あなたから始めよう

本書は、ソフトウェア開発におけるアジャイルのエッセンスを「組織づくり・組織変革」に適用するための指南書です。
ソフトウェア開発の現場で試行錯誤を繰り返しながら培われてきたアジャイルの本質的価値、すなわち「探索」と「適応」のためのすべを、DX推進部署や情報システム部門の方のみならず、非エンジニア/非IT系の職種の方にもわかりやすく解説しています。

アジャイル推進・DX支援を日本のさまざまな企業で手掛けてきた著者による、〈組織アジャイル〉の実践知が詰まった一冊です。ぜひご一読ください。

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