顧客の体験を一から捉え直し、新たなサービスのかたちへと落とし込んでいく。野村證券株式会社で取り組んだ今回のプロジェクトは、野村證券のサービスにとって本丸にあたる株注文を含めた顧客向けオンラインサービスの再定義となりました。
そのためには、これまでの経験に基づく決め打ちではなく、仮説を立て検証を行いながら、アジャイルに進めていくサービス作りに挑む必要があります。発想の転換から組織運営、人材育成に至るまで、多くの課題を抱えながら新たなサービス開発に取り組まれた、営業企画部の安中様にお話をうかがいました。
(聞き手:レッドジャーニー市谷)
ユーザー目線へシフトすれば、まだまだ改善の余地がある。
この1年、安中さんと野村證券における新たなオンラインサービス作りに取り組んできました。私は主に仮説検証およびアジャイルのメンターとして関わったわけですが、オンライン上での株注文周辺の顧客体験を一から捉え直し、モダンなサービスへと落とし込むのは、前例がなくチャレンジな取り組みだったと感じます。今回のインタビューではここまでのことをふりかえり、目下始まりつつある次の展開に繋げていきたいと思います。
はい、宜しくお願いします。
まず、安中さんが感じていた従来のオンラインサービス群の課題とはどのようなことでしょうか。
現行のオンラインサービスは、証券取引の上でやりたいことを果たすという観点で見れば、非常によく出来ているのですが、この先もこのままで良いのかというとそうもいかないと感じています。私たち自身が、今まで以上にお客様の目線に立ってサービスを提供していく必要があると考えています。「野村證券としてやりたいこと」ではなく、「お客様が必要としていること」により視点を置くイメージです。
ただし、お客様の目線に立つと言っても、単に見た目のデザインや動線を変えれば良いというわけでもありません。そもそも現行のオンラインサービスは、元々あった商品をオンラインで注文できるようにしたものです。ですから、扱う商品の前提が対面による取引を想定している部分が多いため、これらをオンラインで扱うにはその最適化がまだ足りていないのです。
例えば、現在の取引ルールのなかでは海外の株取引に関する制約があります。これを解消するためにはシステムだけではなく、ルールを変えなくてはなりません。つまり、発想やサービス体系から抜本的に変える必要があるということです。もちろん、急にすべてを組み替えるには無理がありますから、出来る範囲で取り組みを進めていこうとしています。
オンライン取引のあり方を、より顧客体験に適した形で落とし込んでいく段階にいるということでしょうか。オンラインサービスの改善というよりは、まず「あるべき姿」から捉えようとされているのですね。
どのように進めていこうと考えていらっしゃるのでしょうか。
投資信託を例にお話しします。オンラインサービスを構想するときには「使いやすい」、特に「購入する銘柄を見つけやすい」という発想になります。これは重要な観点だとは思います。
しかし、投資信託は保有期間が相対的に長い商品です。つまり、購入時の使いやすさ以上に、保有期間中のフォローに付加価値を持たせる必要があるわけです。
ところが、これを想定して作られているサイトやサービスは国内ではあまり見かけません。海外でもそういう事例は聞きません。
今後は、お客様の購入時のみフォーカスするのではなく、その後のお客様の状況も含めて、長いスパンでサービスを丁寧に作っていく必要があると思います。購入時の使いやすさとは別の付加価値が必要なわけです。「ユーザー(お客様)が本来どのように商品と付き合っているのか」というところから紐解いて、そこからサービスを考え直す必要があります。こうなると力を入れるところも発想がかなり変わりますし、変えた方がいいと思います。
なるほど。まさしく顧客体験に基づくサービスの再定義という段階に移行するわけですね。顧客の体験と同時に、何が価値なのか自体を捉え直す。自ずとビジネスモデルとの整合性も問われることになり、トランスフォーメーションに値する取り組みと感じます。