人と人とのつながりがチームを回す

中村:
初期のメンバーが多くてどうしたらいいんだろうと思ったり、インタビューを体験できて良かったと言ってくれる方がいたり、最初から全員が参加していると作るスピードはこんなにも速くなるのかだとか、私にとっても良い体験がたくさんありました。

では、米山さんの心に残っているエピソードなどがあればお話しいただけますか?

米山様:
はい。これは自分たちだったらやらなかっただろうなと思うことなのですが、立ち上げ当初に2回ほどあった合宿です。

私たちは東京と京都でサテライト的に2拠点体制を敷いていて、コロナ禍を経たこともあり、みんなで集まることはあまり頻繁にはありませんでした。

さらに、これまでのチームはどちらかというと結論ファーストで、発散させずに課題をどんどん倒していこうというコミュニケーションでした。私自身もそういう思考だったので、実は、わざわざ集まって、自己紹介をして…ということが必要なのかな?と懐疑的になることもあったんです。

でも、中村さんに仕切っていただいて京都に集まって、例えば自己紹介で”たぶんみんなが知らないような自分自身のことを書く”といったアクティビティをしていなかったら、きっとそのあとの関係構築が大変だっただろうなと思います。

メンバーの人となりを知っているとか、この人はこういうことに価値を感じているんだなとか、自分たち自身への理解を深めるということが、あの局面では特に大事でした。

チーム名を決めましょうとか、みんなで写真を撮っておきましょうとか、必ずしも進めている仕事に直結することではなくても、みんなのウエット(感情的)な部分を引き出そうというアクティビティが、こうもチームを回すのに大事なんだなと気づいて。

だからいまでもチームのデイリースクラムのときに、チェックインを厚めにやっているんです。いまは人数も増えたのでちょっと長くなってしまうのですが、あえて関係構築の時間に投資をしているのはこの体験に紐づいていると思います。

中村:
そうですね。新規事業に慣れていない組織は、これは何のためにやっているのだろうとなりがちだなと思うんです。それをつなぎとめるものは明確なビジネスゴールなのですが、新規事業の場合それがなかなか見えません。

そこで人と人とのつながりや、このチームでやっていくぞという気持ちをどうつくろうかなと考えたとき、東京と京都と聞いていたので、では集まってやりましょうと提案しました。

みんなでアイディアを出しながらやると、「そういえばさ…」というコミュニケーションが複層的に出来上がる。京都オフィスの部屋を分けて、みんなでアクティビティに取り組んでは、集まって。カオスでしたがおもしろかったですよね。

また、社内の方のお話や既存事業のミーティングの様子から、いい意味でドライ(合理的)な組織だなと感じていました。とにかく全部言語化するし、結論ファーストだし、「この根拠は?」のようなことを前提とされている。

でも新規事業って「なんかいい感じがする。」とか、「なんか刺さっていない感じがする。」とか、この”なんか”の部分も大事だと思っていたので、このあたりが融合すると上手いことやれるのではないかと思っていました。

ウエットだなと感じながらも、やってみて良かったと思っていただけてうれしいです。

アジャイルコーチの上手な使い方

中村:
では改めて、アジャイルコーチが関わって良かったと思ったことを教えてください。

米山様:
自分たちの主観やバイアスで進めてしまうところにガードレール的に入ってもらって、ときに耳の痛い質問も投げかけてもらえたことですね。

正解がない世界ではあれど、正解を出すことができる確率が高い型や、気をつけた方がいいポイントなどは、やはりいくつかあるなと思っていて。今回でいうと仮説キャンバスや、仮説の型があるということ、半構造化インタビュー。

それから「もう一回、KA法(顧客の声や行動・体験を分析し、本質的なニーズを明らかにする手法)をしっかりやったら?」と水を向けていただいたのも、中村さんからだったと思うんですよね。

こういった名前がついている体系立ったものを、自分たちで調べてやってみるのはすごく難しかったと思うので、プラクティスを提案してフォローしてもらえたのはすごくありがたかったです。

あとは、自分たちだったらやらなかったであろうウエットなコミュニケーションとか、ここはじっくり、ここはちょっと飛ばしてといった緩急も、私たちだけだと意識できなかったところだなというのはありました。

中村:
ありがとうございます!

実は、はてなさんには顔見知りの方も多いので、今回お手伝いできることをとてもうれしく思っていました。でも私は新規事業より既存のプロダクトづくりを支援することが多いので、どれだけ手伝えるかな?と気にしながら関わらせていただきました。

プラクティスを取り入れてもらったり、お役に立てたということが分かって良かったなと思います。

米山様:

前半は既存事業、後半は新規事業をメインに支援していただきましたが、どちらにおいても中村さんが大事にしている考えは同じなんだなと感じています。

新規事業の立ち上げであろうが、既存事業の成長であろうが、やっぱり仮説なのだと。

分からないことを分かりにいく活動が骨子にあるからこそ、しっかり取り組んだプロセスが型としてチームにインストールできて、この先の事業として成長させていくタイミングでも同じことが使えるんだと思います。

中村:
では最後に、今回初めて外部のコーチを採用されたということですが、アジャイルコーチはこのように活用するといいよというアドバイスなどがあれば教えてください。

米山様:
そうですね、中村さんご自身も繰り返しおっしゃっていたことで、すごく大事だなと思っているのが、アジャイルコーチに”正解を教えてもらいにいってはいけない”ということですね。

正解はどこにもないじゃないですか。それぞれのケースに応じて、その時々で一番最適っぽいものがあるかもしれないというだけ。誰かが正解を知っているということではないし、経験が浅かった私たちでもそうだし、アジャイルコーチである中村さんからしてもそうだと思うんです。

ですから正解を教えてもらいにいくというスタンスよりは、正解を探しにいくときに気軽に相談できる一緒に動いていけるというのが、アジャイルコーチとのより良い関係だと思います。

さらに自分たちのチームとアジャイルコーチとの知識や経験の差をなるべく意識しない方がいいんだなと改めて思いました。

“先生”というよりは”悩んだ時に相談できる頼れる存在”といった感じにとらえていく方がきっと気軽に相談できる。やはり「ここで困っているんです。」とか「ここがしんどいんだよね。」ということを、自分たちから伝えないと助けようがないじゃないですか。

そういったことを、ぼやいて、拾ってもらうことがすごく大事だと思うので、アジャイルコーチとして変に神格化せずに、関わり方は少し違うけれど、同じところにいるメンバーの一人として上手く巻き込んでいくという姿勢が必要だと思います。

中村:
なるほど! おっしゃる通りだと思います。とても良いお話を伺えました。

といったところで残念ながらお時間がきてしまいましたので、このあたりまでとさせていただきます。

「toitta」はまさに”これからどう拡大していくか”というフェーズに入ったところだと思いますので、また良いお話が聞けるのを楽しみにしています。そしてまた機会があればぜひお手伝いできればと思っています。

米山さん、本日はどうもありがとうございました。

米山様:
ありがとうございました。