時間的な広がりと、「一人称的自分」と「俯瞰の自分」の併存

市谷:
瞬間の自分と、未来を含めた幅のある時間軸での自分たちを捉えることができるかどうか、これも、うまくできる人とそうじゃない人が分かれると思います。また、「一人称的自分」と「俯瞰の自分」という2つの感覚があるというのは、考えさせられました。

スプリントでふりかえりを行う際、過去2週間と今しか見えていない場合と、未来まで含めた全体が見えている場合とでは意味合いがだいぶ違ってきます。その違いはどこからくるのでしょうか。

(渡邊様 資料スライドより)

渡邊様:
うまくいっている時よりも、うまくいっていない時にその差が出るのだと思います。例えばトラブルが起こって、途中でプロジェクトをやめなくてはならないとき、どうやめたら次に活かせるかを考えられるかどうか。トラブルは意図せずとも生まれるものですから、全体を見通した上での、現時点での落としどころや仕舞い方が大事だと思います。

多くの場合、今、ココの自分を守ろうとしがちですが、ある程度開き直って、トラブルの終わり方をうまくすれば次の始まりに繋がると考えられるほうがいいですね。

今終わらせようとしていることを、次に価値を生み出せるような「リソース」に変えるにはスキルが必要だと思います。そのとっかかり(トランジション)を作ることが大事ですし、自分の中でその繋がりを見出し、表現していかなくてはなりません。

市谷:
ソフトウェア、プロダクト、事業、組織と領域を広げていく時にも、礎となる「とっかかり」を作りながら越境していかなくてはなりません。

渡邊様:
ウェルビーイングを机上の空論で終わらせないためには、経済的な仕組みも同時につくられていくようなデザインが必要だと思います。どうしたらいいのか、最近よく考えています。

市谷:
同じアジャイルでも適応する領域が変われば回転の軸が違ってきます。ソフトウェアづくりと事業づくりではポイントが異なりますから、そこに目を向けないと回転の意味を見失いかねません。

渡邊様:
ウェルビーイングは、個人の内的な主観評価を積み上げていくものと思われがちですが、そうではなくて、人と人との関わりの中でどう実現されるかを問うものなんですよね。そこが一般的になかなか伝わりにくいと感じます。

市谷:
そういう意味では、OECD (経済協力開発機構) の提言は良いところを突いていますよね。「現時点では想定されていない課題を解決」しなくてはならない。そのために「他者のアイディアや見方、価値観を尊重したり、その価値を認めることが求められる」っていう。

個人能力主義では到達できない領域が見えているにもかかわらず、うまく教育に融合できていない現実が浮き彫りにされたような気がします。

例えば、「地域包括ケアシステム」のようなテーマだと、様々な役割の人たちが複雑に関係し合っていて、個人や一行政組織など小さな単位では太刀打ちできないと感じます。行政や施設などの関係者が、それぞれ自分たちだけでできることの範囲で計画を立て、進捗通り進めるという方法に終始していては、とても出口に辿り着けません。では、どうやって巻き込んでいけばいいのか。概念としてのチームについて体系的に学ぶ機会がないと難しいと感じます。

お話したいことは尽きませんが、そろそろお時間となりますので、最後に一言ずつ今日の感想をお話できればと思います。

渡邊様:
ウェルビーイングとアジャイル、並べてみると非常に似た観点で話をしていると感じるときがあります。お互いにもっと関わりを持ち、知っていけたらいいと思います。それぞれの言葉や行動から、物事をプロジェクトとして進めること、ウェルビーイングに、ウェルビーイングをつくるための方法論を実証できたらよいなと思いました。

市谷:
ウェルビーイング・カードのお話で、まず直感的に選んでから、後付けで理由を言葉にするところがいいなと思いました。自分のことを顧みると、感情に突き動かされて動くような局面でも、アプローチとしては言葉に頼りがちです。何とも言えない感じ方がまず手掛かりとしてあって、そこからアプローチしていくことももっとできるんじゃないかと、可能性を感じました。取り入れていきたいですね。

おっしゃる通り、それぞれの領域が交わることでより深い学びが得られるのではないかと思います。

今日はありがとうございました。

渡邊様:
ありがとうございました。