2024年7月10日(水)、オンラインイベント「ウェルビーイング X アジャイル 〜アジャイルとウェルビーイングの共通点、相違、その関係について明らかにする〜」を開催しました。
ウェルビーイング(Well-being)は、「well」(よい)と「being」(あり方・状態)が結びついた、「よく生きるあり方」や「よい状態」を意味する言葉です。もちろん、「よい状態」の捉え方は、人によって異なります。また、個人にとっての「よい状態」だけではなく、組織や社会全体にとっての「よい状態」を重視し追及する視点は、チームと回転を軸とするアジャイルの価値観にも通じます。
イベントでは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 上席特別研究員の渡邊淳司様をお迎えし、ウェルビーイングについてご講演いただきました。また、レッドジャーニー代表の市谷より、アジャイルの概要と、ウェルビーイングとアジャイルとの関連性についてお話させていただき、「アジャイルとウェルビーイングの共通性、相違、その関係」をテーマに二人で対談を行いました。概要をご紹介いたします。
目次
- 講演「ウェルビーイングとは何か、ウェルビーイングはアジャイルにつくられる」:渡邊淳司 様
- ウェルビーイングを軸に重なり合う、様々な活動
- ウェルビーイングとは
- 講演「アジャイルはウェルビーイングの夢をみるか」:市谷聡啓
- アジャイルとは何か?
- アジャイルから見た「ウェルビーイング」
- ウェルビーイングなあり方を、アジャイルに
- 対談「ウェルビーイング X アジャイル ~アジャイルとウェルビーイングの共通性、相違、その関係」:渡邊様×市谷
- 「われわれとしての自己」(Self-as-We)の感覚が欠落しがちなのはなぜだろう?
- 時間的な広がりと、「一人称的自分」と「俯瞰の自分」の併存
講演「ウェルビーイングとは何か、ウェルビーイングはアジャイルにつくられる」
渡邊 淳司 様
プロフィールサイト
触覚でつなぐウェルビーイング 渡邊淳司 研究サイト
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
人間情報研究部 上席特別研究員
《専⾨領域》
ソーシャルウェルビーイング論|個人それぞれのウェルビーイングとチーム全体のウェルビーイングをどのように捉え、充足していくのかを探求する領域。
ポジティブコンピューティング|人の心理的ウェルビーイングと人間の潜在力を高めるテクノロジーの設計・開発を探求する心理学とHCIの融合領域。
触覚情報学|触れる感覚の特性に基づき、人と人をつなげる触覚コミュニケーションの原理の探求やそのためのテクノロジーを研究する領域。
スポーツの身体的翻訳|スポーツの動きの本質を別の動きに変換(“翻訳”)し、手軽にスポーツを体験したり、目の見えない人と一緒にスポーツ観戦を楽しむ方法論。
《著書》 「情報を生み出す触覚の知性 情報社会をいきるための感覚のリテラシー」、「情報環世界 身体とAIの間であそぶガイドブック」、「わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために その思想、実践、技術」、「見えないスポーツ図鑑」、「表現する認知科学」、「ウェルビーイングのつくりかた 「わたし」と「わたしたち」をつなぐデザインガイド」
《訳書》 「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」
ウェルビーイングを軸に重なり合う、様々な活動
私の専門分野は、身体性の情報通信技術(ICT)と多様性・人の心です。これまで、触れる感覚(=触覚)の基礎研究や、視覚障害のある方と一緒にスポーツを見ることなど、いろいろなことに取り組んできました。様々な活動が「ウェルビーイング」という言葉を軸として繋がっています。そして、その方法論としては、情動や行動と深く結びつき誰もが持つ「触/身体感覚(技術)」があります。
触覚伝送
例えば、映像や音声をやり取りするだけではなく机上の振動を遠隔地と相互通信し、触覚的つながりを実現する取り組みがあります。触覚による人と人の関わり方の可能性を探る活動です。
ここで見られるのは、初対面であっても言葉だけでなく触覚的なコミュニケーションを取ろうとする様子です。対面の身体的で直接的な関わりでも、映像だけでの記号的な関わりでもなく、ある種の存在感覚を感じながらやり取りをする場は、人と人の関わり方に新たな選択肢をもたらします。
鼓動触覚化体験
聴診器を胸に当てると、手に持った小型の箱が自身の鼓動に同期して振動する装置があります。鼓動を自分の手のひらで直接感じているような感覚です。
2010年から、この装置を使って自分の鼓動を手の上の触感として感じるワークショップ「⼼臓ピクニック」を行ってきました。これは遠隔でも行うことが可能で、2023年には、東京の子どもの鼓動を、ニューヨーク国連本部にいる子どもが感じてコミュニケーションをするという取り組みを実施しました。この時、ニューヨークの子どもが「距離は遠いが心は近い」と感じたのは、触感を通してその奥にあるその人の存在や「いのち」を感じていたからではないかと思います。
情動可視化体験
私たちの身体はいろいろなことを感じ伝えていますが、中には言葉で表せないことも多くあると思います。そういう言葉にならない気持ちを可視化し、シェアするのに使えるのが「フィーリングキャラクターズ」というイラスト群です。「いきいき」「わくわく」等の気持ちを表す感性表現語をもとに、40種類ほどのキャラクターを作成しました。
これを、例えば気持ちの言語化がまだうまくできない就学前の子どもたちの表現手段として使うと、ゲーム感覚で気持ちを伝えるきっかけをつくることができます。また、働く場での 1 on 1 面談でのアイスブレイクとして使うこともできるでしょう。
内在的価値を感じ合う体験
ここまで紹介してきた取り組みに共通するのは、遠隔の人の存在だったり、そのいのちや気持ちを別の体験として「感じられる」ようにすることです。直接触れることのできないものを実感することで、自分や他人の存在やその大切さを感じることができます。
「何かができる」ということを価値とする道具的価値ではなく、「その人やものが存在していること自体を価値とする」(=内在的価値)を感じ合い、受け入れ、協働する関わりのきっかけになることをめざしています。