インクリメントは、必ずプロダクトゴールに直接関係する必要がある?

中村:
プロダクトバックログアイテムが変化したものがインクリメントであるはずなので、この質問は、プロダクトバックログアイテムが必ずプロダクトゴールに直結する必要があるのか? とも言い換えられると思うんです。

そう考えると、答えとしては「必ずしもそうではない」ですよね。

例えば、古くなったライブラリをアップデートするとか、リファクタリングするとか、そういうプロダクトゴールを直接的に達成するものではなくて、達成するための下ごしらえみたいなプロダクトバックログアイテムもあります。

ただ、その割合があまりに多い場合は、集中を阻害する原因になるので、注意が必要かな。

新井:
直接的には結び付かなくても、全体の中の一部分としてたしかに必要なことはありますよね

中村:
プロダクトゴールはスクラムチームが目指す最終的な目標地点なので、自分たちの活動やインクリメントがプロダクトゴールにどう影響するのか、どんなときでも関心を持っていてほしいです。

新井:
日々の活動の中では「虫の目」になりやすく、手元のタスクだけに思考が偏りがちです。
プロダクトゴールに一歩でも近づいているか? と「鳥の目」で全体を見る視点を持たなくてはなりません

「鳥の目」で見るのは、プロダクトゴールやミッション、ビジョン、あるいはプロジェクトの概念でもいいのですが、少なくともプロダクトゴールはスクラムガイドに書かれているものなので、見落とさないようにしていきたいですね。

※虫の目、鳥の目とは
異なる視点やアプローチを意味する比喩表現。虫の目は、物事を細かく詳細に捉える視点。鳥の目は、物事を広く全体像で捉える視点のこと。両方を状況に応じてバランスよく活用することで、詳細な問題点を見落とさず、かつ全体の方向性を見失うことなく取り組みを進めることができる。

参加者コメント:
プロダクトゴールに間接的に関係のあるものが、ステークホルダーの価値を著しく下げるものがある可能性もあるので、スプリントレビューで早めにお披露目して認識を合わせておく必要がありそうですね。

中村:
そうですね。

Message from coaches

  • プロダクトゴールに直接は関係せず、全体の中で間接的に影響を及ぼすようなインクリメントもある。
  • プロダクトゴールの達成に間接的に関わる(直結はしない)インクリメントは、割合が大きすぎるとチームの集中を阻害してしまう可能性があるので気をつけよう。
  • プロダクトゴールはスクラムチームが目指す最終目標。自分たちの活動やインクリメントがプロダクトゴールにどう影響するのか、常に関心を持つようにしよう。
  • チームが的を射た活動をしていくために、日々の活動にフォーカスする「虫の目」に偏らないよう、プロダクトゴールに近づいているかを「鳥の目」で見るようにしよう。

仮説検証に取り組むスプリントでは、何をインクリメントと呼べばいい?

中村:
何をつくるか探索することをメインとしてスクラムで取り組んでいる場合、インクリメントは必ずしも動くものとは限りません。

仮説検証では、分からなかったことが分かったという成果がインクリメントになるとも言えそうです。

ちょっとしたプロトタイプだったり、まだ使えないけれど触ることはできる検証用として動くものをつくることもありますが、ユーザーインタビューをして分かったことをまとめたものというのも、それが次の判断につながるわけですから、インクリメントと呼んでいいんじゃないでしょうか。

新井:
仮説検証では、ある程度理論や理由に基づいた予測を事前に立てることが必要ですよね。

予測の当たり外れはどちらでも良くて、外れても新たな気づきが得られるような予測を立てて実験をすることが大事です。

そうじゃないと、次のスプリントにつながる十分な学習ができません。

それができたかどうか、スプリントレビューで確かめられることが、すなわちインクリメントということになるのかな。

中村:
インクリメントという概念はスクラムの中でも難しいと思いますし、議論になることも結構あります。

スクラムを理解することはもちろん大事ですが、それに振り回されずに、自分たちが取り組んでいる仮説検証において「前進」と呼べるものは何なのかを話し合い、それを成果とすればいいんじゃないでしょうか。

「インクリメントか否か?」という話に終始するよりも、もっと大事なことがあるように思います。

新井:
言葉の定義に引っ張られすぎて、本質を忘れてしまわないようにしようということですね。

Message from coaches

  • 仮説検証がメインのスクラムでは、インクリメントは動くものとは限らない。ユーザーインタビューの結果、分かったことをまとめたものも、次の判断につながるならインクリメントと呼んでOK。
  • 仮説検証では、論理的に予測を立てて実験することで、次のスプリントにつながる学習の成果が得られる。スプリントレビューでは、その成果をインクリメントとして確認しよう。
  • スクラムを理解することは大事。でも、インクリメントの概念や言葉の定義に振り回されすぎないようにしよう。
  • 自分たちが取り組んでいる仮説検証において「前進」と言える成果は何か? に焦点を当てて、チームで話し合おう。

スプリントごとにインクリメントができあがらないときはどうすればいい?

新井:
プロダクトバックログの分解のしかた、スプリントの期間、メンバーのキャパシティ…いろんな要因があるでしょうね。

それを考えるのがスプリントレビューだし、成果が出ていないということをベースにみんなで議論することが大事です。

中村:
スプリントごとにインクリメントができないというとき、そもそもの腕前が足りていない場合があります

自分たちがつくろうとしているプロダクトのドメインや技術に、あまりにも馴染みがなさすぎて、スピードが出ないことは結構あるかな。

打ち手としては、スクラムガイドに書いてあるように「経験主義」を活かすということでしょうか。

例えば、Mサイズ3個くらいのインクリメントができると思ってやってみたところ、幾つかの理由でSサイズ2個しかできなかった、という場合、次のスプリントではSサイズ2個をまずちゃんとやりきろう、と考えていくのが王道だと思います。

もちろん、それだけでいいというわけではないですよね。

Sサイズ2個が今の自分たちの力量なら、それをSサイズ3個とかMサイズ1個まで成長させるためには何をしたらいいか
「バックログが大きすぎたから小さく分解しよう」「力量が足りていないからペアプログラミングをやってみよう」「兼務で時間が取れていないから兼務を減らそう」と話すことも必要です。

新井:
現場によって要因は違いますから、スプリントレビューとスプリントレトロスペクティブで、きちんと考えるきっかけにしていけるといいですね

嘘をつかず真摯に、そして真剣に考えることが大事です。あとは、実験を繰り返していけばいいんじゃないでしょうか。

一つごまかすと、どんどんズレていきますから、そこは厳しく、自分たちに正直になってほしいです。

中村:
曖昧にしてしまうと、大事な問題が隠れてしまうこともありますからね。

Message from coaches

  • まずは自分たちの力量を見極めて、スプリントごとにインクリメントを生み出せるように、プロダクトバックログを見直そう。
  • チームによって様々な要因が考えられる。プロダクトバックログが大きすぎるなら小さく分解する、力量が不足しているならペアプログラミングを導入する、兼務で時間が不足しているなら兼務を減らす、などの打ち手がある。
  • インクリメントができていない状況について曖昧にごまかすと、大事な問題を見落としてしまう。自分たちの問題がどこにあるのか、スプリントレビューとスプリントレトロスペクティブの場で、真摯に、真剣に考えることが大事。

後編に続きます。

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