チームが自己管理型になるには、何から始めればいい?
新井:
スクラムマスターが、知らず知らずのうちにチームの成長を阻害してしまっていることが時々ありますね。自己管理型にならないようにするような動きを、無意識に取ってしまう。
スクラムマスターが本来の役割から遠ざかっているうちは、なかなか自己管理型のチームにはなれません。
中村:
メンバーも、それまでの経験やスキルによっては、指示される方がやりやすいと考える場合もありますよね。
なぜ自己管理型になった方が良いと思うのか、そうすることで何ができるようになるのか、といったことを話さないままに走り出してしまうと、どうしたらいいかわからなくなってしまうと思います。
自己管理型って、当然ですが何でもやっていいわけじゃないですよね。
自分たちで考えてやっていい範囲を、ちゃんと伝えてあげることは大事かな。
新井:
「Why」の部分はチームや組織で決まっていることが多いと思うので、「How」の部分で自分たちでコントロールできることが多々あるはずです。そこを、「コントロールしちゃいけない」と思い込んでいることがありますね。
実際にどれくらい自分たちでできるのか、その範囲をスクラムマスターや他のメンバーと話し合って理解しておくと、確かにやりやすいと思います。
わかっているようで、わかっていなかったりするんですよ。人によって解釈が違ったりして。デリゲーションポーカーをしてみるのもいいですね。
※デリゲーションポーカーとは…様々な権限について、管理者とメンバーが7枚のカードを使ってお互いの認識を示しながら、すり合わせていくゲーム。権限を委譲する/しないの二択ではなく、「相談する」(決定する前にチームからの意見を得る)や「同意する」(チームと一緒に決定を下す)など7段階のステップがあるのが特徴。
中村:
何を自分たちで決めたいと思っているのか、逆に一方的に決められると残念に感じちゃうことは何か、そういう対話やディスカッションができるといいですね。
また、トップダウンが強い組織から中途採用で入ってきた人の場合、アジャイルな組織の文化について言葉ではわかっているつもりでも、いざ自分がハンドルを握って決めていいとなると、どうしていいかわからないこともあると思います。
アジャイルに対して前向きな気持ちでいたとしても、アジャストに時間がかかってしまうことはありますよね。
新井:
中途採用の場合は社歴が浅い分、アジャストの感覚がつかみづらいですよね。遠慮や恐れが出てきてしまう。
中村:
新しくチームに加わるメンバーに対しては、スクラムマスターがフォローしてあげられるといいですね。
今までとは違った文化の中で仕事をしていくわけですから、慣れるまで時間がかかってもいいし、わからないことがあれば何でもきいてほしいと、声を掛けてあげることが大事だと思います。
他にも、暗黙知になっているような組織の文化を言語化して伝えたり。アジャイルのベーシックなトレーニングなんかも、新しいメンバーとチーム向けにやっていくと、だいぶ違うのではないでしょうか。
新井:
そういうことに少し時間をかけて取り組むことで、チームやメンバーの成長を加速させることができます。
探り探りよりは、都度発信してもらえるような空気を、スクラムマスターが作っていけたらいいですね。
Message from coaches
- スクラムマスターが本来の役割から遠ざかっていると、なかなか自己管理型のチームにはなれない。無意識のうちにチームの成長を阻害するような言動をとっていないか、見つめなおしてみよう。
- なぜ自己管理型を目指すのか、そうすることで何ができるようになるのか、まずはみんなで話し合ってみよう。
- チームが自分たちができること(権限)の範囲を知っておくことで、自発的に動きやすくなる。デリゲーションポーカーを使って認識を合わせるのもおすすめ。
- 新しいメンバーは、アジャイルな組織の文化になじめるようにスクラムマスターが積極的にフォローしよう。暗黙的になっているところを明文化、可視化することで、新しいメンバーだけでなく受け入れる側のチームにとっても、成長を加速させるきっかけになる。
スクラムマスターとして評価されるにはどうしたらいい?
中村:
これは、スクラムマスター本人からも、評価する側の管理職の方からも、いろんな現場でよく相談を受けますね。
新井:
チームが結果を出せる「いいチーム」に育っていれば、評価していいと思います。
360度評価(多面評価)という点では、チームメンバーに訊いてみてもいいですよね。
中村:
私は、3つの観点で見ることをお勧めしています。
1つ目は、新井さんの言うように、チームとして元々コミットメントしていたものへの到達度合いを見ること。
2つ目は、スクラムマスターとしてチームにどう貢献したかをチームメンバーに訊いてみる。そのフィードバックをもとにマネージャーが評価を考えればいいと思います。
3つ目は、少し難しいのですが、スクラムマスターとしてどう成長したか。
半年前と比べてどんなスキルや考え方を身につけられたのか、アジャイルの習熟度などを個人の成長として見ると良いのではないでしょうか。
ただ、この3つ目の観点は、評価者にも被評価者にもそれなりの知識が求められるのが難しいところです。
評価者である上司にスクラムマスターの経験があまりない場合もあると思います。
そんなときは、スクラムマスターが書いた自己PRを一緒に見ながら解釈の仕方をアドバイスするなど、アジャイルコーチがお手伝いすることもあります。
新井:
経験が浅いと、難しいですよね。
中村:
スクラムマスターとしての「キャリアラダー」を持っている組織も、最近は出てきています。
一方で、そもそもスクラムマスターという職種がない現場もまだまだ多いですから、戸惑う場面も多々あると思います。
新井:
チームのコミットメントに関しては、インセプションデッキの「トレードオフスライダー」も使えますよね。このチームで何を優先的に成し遂げたいんだっけ? っていうところにフォーカスする。
QCDS(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期、Service=サービス)だけじゃなくて、そういう観点でも話せると、チームのコミットメントに響いてくるんじゃないかな。
中村:
こういう評価の話を聞くようになったのって、この5年くらいのような気がするんですよ。
会社でスクラムを導入することになって、急にスクラムマスターを務めるように言われて…それで、どうしたら評価されるんだろう? という文脈になることが多いのかな。
それまでは、どちらかと言うと「良いチームづくり、プロダクトづくりがしたい」という思いで自分のできることをやっていって、後々にスクラムマスターやアジャイルコーチになっていくという流れが多かったですよね。
ナチュラルボーン・スクラムマスターじゃないけど(笑)、評価を気にするというよりは、好きだからとか、やった方がいいからとか、私が見てきた範囲だとそういうモチベーションで動いていた人が多いような印象があります。
新井:
それだけ裾野が広がっているということかな。
スキルマップなどの基準をもとに一元的にランク付けするような方法では、なかなかうまくいかないかもしれませんね。
中村:
スクラムマスターにとってのプロダクトって、スクラムチームそのものだと思うんですよね。
だから、スクラムマスターも含めたスクラムチームがちゃんと成長できるかどうかにコミットしてほしいです。
何かをしたから、チェックリストが付いたから、評価が上がるからそれをする、ということじゃなくて、志を持った人がスクラムマスターをするのが良いと思うし、組織もそういう人をスクラムマスターに集中できるようにしてあげるといいんじゃないかな。
新井:
そういう人たちが、まず道を作っていけるといいですよね。
中村:
さて、今日もありがとうございました。
「役割編」は今回で終わりですね。次回からは「作成物編」に入ります。
次回は「プロダクトバックログ編」です。プロダクトバックログの作り方や運用の仕方など、トピックはいろいろありそうです。
※次回の記事は、2024年10月に公開予定です。
今回も、お申し込み時にいろいろなお悩みを書いていただいて、できるだけ全部を取り上げたかったんですけど、取り上げられなかったものもあります。
結構踏み込んだ話題もあって、理由や経緯を詳しく聞かないと答えづらいものもあったりして。
そういうことを個別相談したい方に向けて、「無料オンライン相談会」として1時間程度の壁打ちの時間を定期的に設けています。
何か売りつけられるみたいなことはないので(笑)、お気軽に申し込んでいただけたらと思います。
新井:
お待ちしてます。
今日もありがとうございました。
Message from coaches
- 基準をもとに一元的に評価してもうまくいかないことが多い。チームが優先的に成し遂げたいことに対する達成度、スクラムマスターとしてのチームへの貢献度、スクラムマスター個人としての成長度といった観点から、多面的に見るのがおすすめ。
- スクラムマスターにとってのプロダクトはスクラムチームそのもの。スクラムマスター自身も含め、チームがどれくらい成長できたかにコミットしよう。
- チームの成長を見据えて行動できる「志」を持った人が、スクラムマスターとして力を発揮できると理想的。