とにかく時間がとれない

新井:
プロダクトオーナーが役職者や事業責任者などで、他の責務に時間を取られてチームに関わる時間が取れないという話もよく聞きます。

中村:
「ちゃんとプロダクトに集中してください!」といいたいところですが…”とはいえ”ですよね。

新井:
これにはキャパシティ・プランニングが有効だと思います。
例えば1週間の労働時間が40時間あるとして、このプロダクト作りやスクラムチームの活動に何時間使えるかということを、スプリントプランニングのたびに合わせられるといいですね。
2時間しかないということなら他の人にバトンタッチした方がいいかもしれないし、実稼働時間を出して判断するというのもありだと思います。

中村:
キャパシティ・プランニングって開発者たちの間ではわりと熱心にするのですが、プロダクトオーナーについては忘れがちです。「プロダクトオーナーは孤独に頑張る」といったパターンはスクラムに取り組み始めた序盤に多い風景の1つかもしれません。

新井:
開発者には生産性やパフォーマンス、工数といった感覚があるからなのかな?

中村:
さきほど新井さんがお話したような見える化するアプローチで、プロダクトオーナーの作業を委任していければいいですよね。もともとプロダクトオーナーが全部を担うことはできません。開発者やスクラムマスターが一緒に担ったり、代わりにやることでプロダクトオーナーの手も空くし、プロダクトチーム、スクラムチームとしてのプロダクトへの理解も深まり、できることが増えると思います。

新井:
チームでどれだけカバーできるかといった話しもしていけるといいですね。

中村:
スクラムガイドにも、プロダクトオーナーの役割を果たすための作業は”他の⼈に委任することもできる”と解説されています。この委任できるという部分も、割とみなさん忘れがちかなと思います。プロダクトオーナーは1人で開発者は数人いるのですから、できることは変わってあげたらいいですよね。

新井:
たしかに、意思決定はビジネス的な視点をもつプロダクトオーナーがして、まわりの作業的なことは開発者が協力してチームで担えるときれいですよね。

Message from coaches

  • キャパシティ・プランニングでプロダクトオーナーとしての活動に割ける労働時間を見える化して、スプリントプランニングの場でメンバーとすり合わせをしよう。
  • プロダクトオーナーが全てを担うことは不可能。作業をメンバーに委任することで、時間も作れる上に、チーム全体のプロダクトへの理解が深まりできることが増える。
  • ビジネス的な視点をもつプロダクトオーナーが意思決定を、まわりの作業的なことは開発者が協力して担うことができると、チームとしても美しい。

他の役割と兼任になってしまう

新井:
プロダクトオーナーと他の役割を兼任している人も多いようです。
どうしても専任で行うことが難しいようであれば、この場合もプロダクトオーナーとしての活動時間はどのくらい取れそうか、7〜8割取るにはどうすればよいか確認することをおすすめします。

中村:
正直、「兼任はダメ!」といいたいところなのですが、できないのであれば一度やってみて、何が起きるのか見てみましょう
その結果、例えば100点満点ではないけれど、スクラムチームやステークホルダーがよしとするのであればそれもあり。もしそれでは何にもならなかったり、期待していたスピードと違うのなら、専任にする必要があるのかもしれない。

新井:
プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発者それぞれが、自分たちの役割もゴールも期限も分かりつつ、ある程度の成果も出せているようなレベルの高い組織なら、洋さんの方法もできそうですよね。

中村:
残念ながら、そこまで現状を把握しつつ、兼任で上手くいなしながらできるチームはあまり見ないですけどね。

新井:
2つのスクラムチームのプロダクトオーナーを担うことになったというお悩みも聞きます。これも「ひとつにしましょう」といいたいところですが。

中村:
せめてフェーズはずらさないと難しいと思います。
例えばふたつの別々のプロダクトだとして、どちらも立ち上げ期だとか、アクセルを踏み込む期だった場合、どう考えても時間が足りません。ですからひとつがアクセル踏み込む期なら、もうひとつは順行期というような、山と谷が逆になっている状態にしましょう。

また、それぞれのチームの開発者たちからプロダクトオーナーが何をしているかが見えやすいようにすることも必要です。例えば「月水金はAチーム、火木はBチームを見るからね。」といった話ができているといいですね。

どちらも”ひよっこスクラムチーム”だと大変かな。どちらかはスクラムやプロダクトが理解できていて自分たちである程度できるベテランチームで、落ち着いてきたらそちらの作業は移譲しつつ、新しいチームを見ていくということならできるかもしれません。

新井:
それは大事ですね。どちらも駆け出しのチームだといろいろなインシデントが発生するので、なかなかタフになります。

中村:
技術的な問題だけなら何とかなるかもしれませんが、ステークホルダーとのコミュニケーションには確実にプロダクトオーナーの力が必要になりますからね。

新井:
そこはパワーを使いますからね。でもやっぱり理想はひとつかな。ひとつでも精一杯だと思いますよ。

Message from coaches

  • 理想はひとつのプロダクトを1人のプロダクトオーナーが専任で担当できること。
  • どうしても兼任するなら、一度試してみて、スクラムチームやステークホルダーの納得できる結果になるか確認してみてみよう。
  • ふたつのスクラムチームのプロダクトオーナーを兼任しなければならない場合、それぞれのチームのプロダクトのフェーズやメンバーのレベルをしっかり考慮しよう。

後編に続きます。

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