プロダクトオーナーが兼任兼務で忙しく、開発者との接点や会話がほとんどない。
中村:
兼任兼務でチームとの接点や会話がほとんどないという方は、プロダクトオーナーに限らないかもしれませんね。
新井:
アジャイルやスクラムのことがまだよく分かっていない状況だったり、社内で最初にスクラムに取り組むプロジェクトだったりすると特にですね。
中村:
プロダクトオーナーやスクラムマスターって、そんなにやることあるの? っていう感じで、なかなかチームと一緒に仕事ができなくなってしまうことは多いです。
新井:
そういうときは、「ふりかえり」で話題に取りあげたり、キャパシティプランニングというプラクティスを使って、プロダクトオーナーがチームと関われる時間を数字で表したりできるといいですね。
継続できそうか、それとも交代した方が良さそうか、具体的な対策を考えるきっかけにできます。
中村:
自分たちの持ち時間を把握した上で使い方を考えていく、キャパシティプランニングを愚直にやっていけば、ある程度のところまでは予測可能性を高められると思うんですよ。
ちゃんと予測を立てて、実際どうだったのかを計測して、また次のスプリントの計画に活かすっていう、言ったら当たり前のことなんですけど。
結局、そういうスプリントの営みを丁寧にやりましょうよ、っていう話に行き着くんじゃないかな(笑)
新井:
「うがい手洗い」みたいなシンプルなことを愚直にやるって、意外と難しいんですよね。
だからこそ、ガイドを見直すことはすごく大事です。みんなで学び合えるといいですね。
Message from coaches
- プロダクトオーナーがチームと関われる時間を数字で表し、「ふりかえり」やキャパシティプランニングで話し合ってみよう。
- スプリントの営みを丁寧に積み重ねよう。
- ガイドを見直しながら、みんなで学び合おう。
プロダクトオーナーだけが持つスプリント中止の権限って、どんな時に発動するの?
新井:
プロダクトオーナーの権限によるスプリント中止は、経験がある人の方が少ないかもしれませんね。
クオーターのタイミングや上司の命令、予算の関係で中止することはあると思いますが。
中村:
スプリント中止はこの数年で3回くらい経験していますが、いずれもプロダクトオーナーの権限というよりはチームの意志決定として最終的に中止に至った感じです。
例えば、使う予定だった外部APIの契約が、実はできていなかったことがスプリント開始後に発覚したケースや、ある競合プロダクトの機能を追いかけてスプリントを始めたのに、途中でその機能がガラッと変えられてしまったケースがあります。
後者のケースでは、競合側がなぜ機能を変えたのかを一旦落ち着いて分析したい、とプロダクトオーナーは言っていました。
新井:
素晴らしい判断ですね。
中村:
小さな会社だったということもあって、経営陣に近い立場のプロダクトオーナーだったので、もちろん悩みはあったでしょうけど、意思決定のハードルは少し低かったのかもしれません。
参加者コメント:
スプリントを中止してウォーターフォールに変えるようなケースもありますか?
新井:
アジャイルやスクラムをやってみようと経験は積んだけど、会社のゲートチェックと噛み合わなくなってきて、中止に至ったことはありますね。
大きい会社さんでしたけど、大きいゲートのところでちぐはぐになってしまって、フィードバックサイクルが回らなくなってしまい、ウォーターフォールに戻ったということは何回か経験があります。
中村:
私が見たのはまたちょっと違うケースで、予測可能性が高まっていった結果、比較的計画を立てられるようになったので、ウォーターフォールとまではいかないまでも、スプリント期間を長くしたことがありました。
最初は「一週間スプリント」だったけど、一回の計画で二週間から一ヶ月間くらいは走れそう、という。
新井:
予測可能性が高まった結果、マインドチェンジが起こるっていうのはおもしろいですね。
中村:
同じチームで同じプロダクトに向かっていると、チームとしてのコラボレーションやお互いの関係性が深まっていきますし、使っている技術や扱っているドメインについても理解が深まっていくことが多いでしょう。
そうして「分からないこと」が減り安定していくと、スプリント期間は長めに設けることができますが、外的要因によって予測可能性が崩れることは当然あります。そのときはまたイテレーティブにやっていくという判断も必要だろうと思います。
新井:
スクラムを止めて、カンバンを導入するようなパターンもあるかもしれません。プロダクトの背景によって変わってきそうですね。
中村:
スクラムを初めて導入してやってみた結果、自分たちには無理だということでウォーターフォールに戻すケースは結構あります。
スクラムの根底にはアジャイルの価値観があり、自己組織化や実験的な取り組み、失敗することを許容するためのマインドチェンジが必要です。
組織の上長がそこに強烈な壁を感じてしまい、ウォーターフォールに舵を切ったことがありました。
新井:
書籍『アジャイルサムライ』の一節にもあるように、誰しもがこの働き方を気に入るわけではないということですね。
中村:
これまでのやり方を明日から急に変えられるかというと、組織や人間ってそこまで柔軟ではないですからね。
新井:
慣れ親しんだ働き方を踏襲したい人もいるだろうし、自分の過去を否定されたと感じちゃう人もいると思うので、マインドに関わる部分は扱い方が難しいですよね。
中村:
はじめてスクラムに取り組むときは、いきなり本丸に切り込むとプレッシャーが強いので、ある程度学びを中心におけるといいですね。小さなプロジェクトの中でまずやってみて、そこで何が起こるかを見ていく。スクラムガイドにある「経験主義」です。
新井:
いいですね。
今日もありがとうございました。
中村:
ありがとうございました。
Message from coaches
- プロダクトやスプリントそのものの意義に疑問が生じた時は、プロダクトオーナーに限らずチームの判断でスプリントを中止してOK。
- 予測可能性が高まった結果、スプリント期間が長くなることもある。ただし、拠り所とする予測可能性が崩れた時は元に戻す判断が必要。
- 慣れ親しんだやり方や働き方、マインドを変えるのは難しい。はじめは「学び」を中心に据えて、小さなプロジェクトで経験を積めると◎。