Monthly Red Journeyは、毎月発刊のトピックレターです。
これまでのレッドジャーニーの発信の中から、特定のテーマに基づいてトピックを集め、紹介します。
今回のテーマは「両利きの変革」です。

これからのDX、組織変革に求められる「両利きの変革」

「両利きの変革」という言葉は、2022年7月刊行の市谷聡啓による著書『組織を芯からアジャイルにする』の中で提示されました。
その意味するところは、組織が外部に向かって提案する価値を変えていくことと、それを持続可能、再現可能とするために組織内部のあり方も変えていくことを、両輪で進めていくことです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)という文脈においては、どちらか一方ではなく、両者が相互に伴う必要があり、且つそれがほぼ同時に求められています。

両利きの変革とは、二つの変革を両輪で持続的に進めていくこと

  • 新たな技術を適用した新規事業創出=提供価値の変革
    (顧客体験価値向上)
  • 社内のプリミティブな業務のデジタル化=組織内部の変革
    (従業員体験価値向上)

これらはいずれも組織にとって新たな取り組みとなります。
実現するためには、「段階設計(ジャーニー)」をイメージする必要があるでしょう。
単に「やるべきこと」を数珠つなぎするのではなく、変革の取り組みを「重層的」にとらえます。
つまり、最小限の入り口からスタートし、徐々に取り組みを重ねながら厚みを増していきます。

理想は、業務のデジタル化(組織内部の変革)により得られた効率性(余裕)を足掛かりに、新たな取り組み(提供価値の変革)が始められること。
そして、それらの変革をアップデートしながら持続させることです。

この段階設計の狙いは、「傾き」(一度にどの程度の変化を起こすか)を調節し、機能性を組織内に担保することです。
※参照:書籍『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー

今、あらゆる組織において人材は希少であり、体制は常に脆弱と言えます。
そんな中、いかにして組織の強みを発揮していけば良いのでしょうか。
そもそも、組織という形態をとる意義とは何でしょうか。
行き着く先には、やはり二つの観点があるように思います。

  • 組織として何ができるのか(提供価値/顧客体験価値)
  • どんな組織でありたいのか(組織内部/従業員体験価値)

これらに組織として継続して向き合うには、個人任せではなく「仕組み」が必要です。
体制作りから始め、見えない「価値」を言語化し共有、発展させるための取り組みをしましょう。

次の項目からは、それぞれの変革についてより具体的に解説していきます。

▼参照

提供価値の変革
~シン・正しいものを正しくつくる~

提供価値の変革(顧客体験価値の向上)について、「正しいものを正しくつくる」を軸に考えてみましょう。
「正しいものを正しくつくる」ために、どのような取り組みが必要でしょうか。

「正しいものを正しくつくる」とは、世界の中で整合を取ることです。
整合先と整合元が一致することで「価値」が生まれます。

みなさんが生み出したい「価値」とは何でしょうか。
その「価値」を生み出すため、整合先と整合元には何を置けば良いでしょうか。

もし、目指していることが「ユーザーに価値があると感じてもらえる」プロダクトを作りだすことならば、整合元は「プロダクト」ということになるでしょう。
では、整合先はどうでしょうか。
(そもそも誰のこと?どんな状況?困りごとの解消?今までにない楽しさや面白さ?)
分からないとしたら、その特定から始める必要があります。

様々な角度(観点)から光をあてることで、少しずつ解像度を上げていきましょう。
価値自体と価値となる条件、価値にならない条件の見分けをつけられるようにすることが重要です。
見るべき観点は多々ありますから、「少なくともここを見ておけば価値の有無を判断できる」という観点を持てるようにしましょう。
観るべき対象や状況を可視化するために、「仮説キャンバス」を活用すると良いでしょう。

仮説検証とは、「仮説が合っていることを確認する」だけの活動ではありません。
新しいことを試みるのであれば「検証によって新たな切り口と出会う」活動でもあります。
検証によって仮説を育てていくイメージです。

仮説検証を経て、「整合先」に置く仮説(ユーザー像)がある程度明確になったら、次に「整合元」となるプロダクトについて、より深く捉えていきます。
そこではユーザーの反応を見ることが不可欠となりますが、実際にユーザーをスプリント活動に巻き込むことは難しい場合が多いでしょう。
どのように取り組めば良いでしょうか。

プロダクトオーナー(PO)がユーザーの代弁者となり、整合が取れているかどうかをスプリント活動において捉えていきます。スプリントレビューでは持つべき論点が2つあります。

「正しいものを正しくつくる」について、あらためてまとめてみます。

皆さんのチームや組織では、正しいものを正しくつくれているでしょうか。

「正しいものを正しくつくる」活動においては、活動主体となる「チーム」の健全性を保つことも欠かせません。
「ユーザー」「プロダクト」「チーム」の三者のうち、いずれかが欠ければ価値創出は持続できませんから、三者の健全性を保つ運営が大前提となります。
次の項目では、チーム・組織づくりについて考えてみます。

▼参照

組織内部の変革
~組織をシンからアジャイルにする~

組織内部の変革(従業員体験価値の向上)について、「組織をシンからアジャイルにする」を軸に考えてみましょう。

まず、組織の基本構造として捉えたいのは「意図」「方針」「実行」の三層です。

この三層において整合を取ることが必要です。
整合が循環することで、組織は「一人の人間のように動ける体」を獲得します。
柔軟さと迅速さが求められるDX、組織変革の取り組みでは、この「動ける体」の獲得が重要なポイントです。

ところが、現代の組織の多くは「意図」を失った状態に陥っています。
その要因は、長年にわたり成功体験の礎となった「最適化」への方向性と、「最適化への最適化」を遂げた組織体制を手放せないでいることです。

それらを手放し、共通の「意図」を持つために、組織には新たな「芯」が必要です。
失った「芯」を見出すために、どんなことができるでしょうか。

「探索」と「適応」のケイパビリティが、その足掛かりとなります。
「アジャイル」は「探索」と「適応」の仕組みです。元々はソフトウェア開発の分野で取り組まれ確立されてきたました。
「アジャイル」を用いたプロダクト作りに取り組むことで、組織の「芯」を見つけていくことができるでしょう。

また、プロダクト作りは、そのこと自体が組織を変える足場となります。

組織に「芯」を見出すため、獲得した「探索」と「適応」のすべを組織全体へと広げるには、どうすればいいでしょうか。
私たちレッドジャーニーが数多くの組織で組織変革の支援を行ってきた経験から辿りついたのが「アジャイルCoE」と「アジャイルブリゲード」です。

アジャイルCoEについてはこちらを、アジャイルブリゲードについてはこちらをご参照ください。

「組織をシンからアジャイルにする」について、あらためてまとめてみます。

「より良くあること」と整合を取ろうとする箇所すべてが、組織の「芯」となりえます。
一人や小さなチームが「芯」となることで、「より良くある」ための取り組みは、やがて組織全体へと広がっていくでしょう。

▼参照

アジャイルで臨む「両利きの変革」がもたらした成果
~三菱重工業株式会社の事例~

新規プロダクト開発に臨みながら、より強い組織へと変革する、まさに「両利きの変革」に取り組まれている三菱重工業株式会社様の事例をご紹介します。
2022年7月、DX推進機能を集約的に担うデジタルイノベーション本部が新設され、レッドジャーニーは一年間アジャイル導入支援を行いました。

プロダクトづくりと組織運営、それぞれの観点でのアジャイルについて、どのような課題感をお持ちだったのでしょうか。

大きな組織に共通する課題として、ボトムアップで上がってくる情報を尊重することの難しさがあると思います。
実際にお客様の声を聞いたり、新しい技術を試して体感したり、そういう現場のリアルな情報は、伝わっていく過程でどうしても鮮度が落ちてしまいます。
それをできるだけ食いとめるために、ボトムアップの情報をできるだけ尊重するよう常に注意を払う必要がありますが、大きな組織で実行するには負荷が大きく、徹底するのは難しいのではないでしょうか。

とはいえ、効率を重視して多数決やリーダーの直感的判断に委ねてしまうと、組織は変化に適応できなくなってしまいます。

アジャイルの仕組みには、現場からあがってきた情報を丁寧に扱うためのアイデアが組み込まれていると思います。
意識的なふりかえりや、細かい単位でチームが主導的に検査する仕組みなどが、成果につながりつつあります。

ボトムアップの情報を反映させたプロダクトが、お客様に評価され、その成果をストーリーとして繰り返し語ることで、ボトムアップの情報を尊重しようという空気が広がってきていると思います。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

ビジネスやソフトウェアといった領域ではどのような点に気を付けていらっしゃるのでしょうか。また、アジャイルの仕組みを適用することで、どのような点がフィットしたのでしょうか。

今までも、機械や技術に関することでは、ボトムアップの情報を大事にするという文化は根づいていたと思います。
(中略)
一方、ビジネスやソフトウェアといった領域でそれが出来ているかどうか、少し気を付けなければならないと思っています。

変化が速い領域ですから、今まで蓄積したことが、既に前提から変わっているかもしれないという可能性を、経験豊富な人ほど肝に銘じておく必要があると思います。
そこに、アジャイルを適用する意味があるのかもしれません。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

デジタルと違ってものづくりにはある程度の時間がかかります。
物理法則のように変化しない前提の上では、長いスパンで取り組めるものもあると思います。

一方、短いスパンで変化するデジタルの世界では、より柔軟に適応することが求められます。
そのための仕組みづくりが組織の課題となってくるわけですが、そこにアジャイルはうまくフィットすると思います。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

実際にアジャイルの取り組みを通して、どんな成果を得られたのでしょうか。

最近、メンバーが自分たちの取り組みについて、他部門の幹部へ具体的に説明する機会がありましたが、実際にお客様のところで見聞きした状況や体験をもとに伝えることで、説得力のレベルが段違いに上がり、今まで以上に深い理解を得られたという実感がありました。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

我々から見て事業部の人たちは社内のお客様にあたりますが、受注・発注の関係性ではなく、アジャイル特有の水平で平等なスタイルのもとで協働することができたケースでは、成果が出やすいと実感しています。
一緒に取り組むことで、関わり方や主体性のレベルが変わるのだと思います。
この成功パターンをしっかり型にして広げていきたいところです。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

事業部を巻き込みながらアジャイルに取り組むことで、我々との接点を中心としてアジャイルが広まっていくのを感じています。
さらに、アジャイルの取り組みについて事業部の人たちが評価を宣伝してくれたことで、事業部内での知名度が上がり、「こんなにいい取り組みをやっているんだ」「自分もやってみたい」と言った声が聞こえてきたことはうれしいですね。

事業部さんの声が潜在的な課題感に働きかけ引き出す役割をしてくれました。
非常にいい流れができていると思います。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

実際のプロジェクトでも、ペーパープロトの段階からお客様と一緒に開発していくスタイルを提案し採用されたことがあります。
結果として、お客様のニーズにフィットしたプロダクトを作ることができました。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

開発の前の仮説検証のところをお客様と一緒にしている感覚ですよね。
これは我々DPI部の大きな特徴ですし、価値あることだと思っています。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

成果のまとめ

  • 他部門へのアウトプットの質が向上し、取り組みについて今まで以上に深い理解を得られるようになった
  • 他事業部へアジャイルを展開する際、一方通行ではなく一緒に取り組むことで、相手の関わり方や主体性のレベルが変わり、より成果が出やすいという成功パターンが得られた
  • 取り組みの主体である事業部が取り組みの内容や成功事例を発信することで、他の事業部の潜在的な課題感が引き出され関心を高められた
  • 社外の顧客とも一緒に開発に取り組むことで、より顧客のニーズに合ったプロダクトを作ることができた
  • 自分たちのアジャイルの取り組みについて価値や成功パターンが明確になった

大きな手応えを感じられていることが伝わってきます。
取り組みを経て、どのようなことが大切だとお考えなのでしょうか。

2年半取り組んできて感じるのは、いきなり正解や結果につながるとは限らないということです。
小さく試して、失敗しても繰り返しやっていくことが大事だと思います。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

私は、アジャイルについて言葉でしか知らなかったところから参加して9ヶ月になります。
自分の周りから、小さくでもいいから始めてみることが大事で、決して大上段に構えてやるものではないというのが特徴だと感じています。
やることを決めて、やってみて、何が分かったかを確認して、次に進んでいく。
そんな風にポイントを決めてやっていくことが大事です。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

アジャイルの本質は、我々が直感的に知っていることのような気がします。
経験や環境による様々な思い込みのせいで見えなくなっているけれど、建前ではなく本音で考えてみると、見えてくる答えがあるのではないかと思います。
胸に手を当てて、本当はどう思っているのかを考えてみることが大事です。

それを引き出すきっかけとしてアジャイルに取り組んでみるのもいいんじゃないでしょうか。
大きな組織や伝統ある組織では特に、そういう自然な状態にリセットする仕組みを持っておくといいと思います。

アジャイルは、複雑化した組織を自然な状態にリセットするための仕組み。大上段に構えず小さく始めよう:三菱重工業株式会社(後編) – Red Journey

「両利きの変革」を進める上では様々な難しい課題に直面すると思います。
そんな中、「大上段に構えず小さく始める」「失敗しても繰り返し試す」「直感や違和感を見逃さない」といった視点は大きなヒントになりそうです。

▼参照

レッドジャーニーのサイトでは、他にも数多くの事例をご紹介しています。
実践の参考にぜひご覧ください。

両利きの変革に挑む皆様へ

両利きの変革に挑む皆様へ、レッドジャーニーは「仮説検証型アジャイル開発」を提案します。
仮説検証型アジャイル開発について、詳しくはこちらの特設ページをご参照ください。

仮説検証型アジャイル開発

両利きの変革を成果につなげるための仕組み

レッドジャーニーがご提供する「エナジャイル」は、「両利きの変革」を段階的に進め成果につなげるための仕組みです。
詳しくはこちらの特設ページをご覧ください。

『正しいものを正しくつくる』
プロダクトをつくるとはどういうことなのか、
あるいはアジャイルのその先について

市谷聡啓による著書『正しいものを正しくつくる』では、仮説検証型アジャイル開発について、本質から具体的な実践方法まで詳しく解説しています。
これからアジャイルに取り組もうとする方への入門編として、また取り組みの過程で壁を感じている方へのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

書籍『正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について』

『組織を芯からアジャイルにする』
~アジャイルの回転を、あなたから始めよう。~

ソフトウェア開発におけるアジャイル、
その可能性の中心を「組織づくり」「組織変革」に適用するための実践の手引きとして、
市谷による著作『組織を芯からアジャイルにする』をおすすめします。ぜひご活用ください。

書籍『組織を芯からアジャイルにする ~アジャイルの回転を、あなたから始めよう~』

レッドジャーニーへのお問い合わせ

多くの組織にとって、組織活動にアジャイルを適用していくという挑戦はまだこれからと言えます。
組織アジャイル、アジャイル開発の適用や課題、お困りごとについて、お問い合わせはこちらからお寄せください。
ともに考えていきましょう。