デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性は理解していても、いざ自組織で取り組むとなると、「考えただけで大変そう」と感じられるかもしれません。取り組む前から眉間に皺寄せて苦しむようなDX、その先に広がるのはどんな未来の景色でしょうか。これまでの常識や価値観では計り知れない、新しい時代にフィットする働き方や考え方、組織のあり方が、今私たちには求められています。越境×DXをキーワードに、新しい未来の景色をともに描いてみませんか?ワークスタイル&組織開発専門家の沢渡あまね氏と、大企業を含む数多くの組織のDX最前線に立ち続けるレッドジャーニーの市谷聡啓が、「新時代を切り拓く、明るいDXの進め方」についてお伝えします。
新時代を生き抜く『越境思考』~越境×DXから広がる未来の景色
沢渡あまね氏
今日は、「DX」を中心に、「テレワーク」「ワーケーション」「業務改善」「パラレルキャリア(複業)」「選択的週休3日制」「ダイバーシティ」「採用・定着」「エンゲージメント」「イノベーション」「ビジネスモデル変革」「地域活性」等のテーマと立体的に繋げることで、組織の景色をどう明るくしていくか、という投げ込みができればと思います。皆さんの周りの方との「景色合わせ」に、今日のお話をぜひ使ってください。
従来型マネジメントは、そろそろ賞味期限切れ!
「従来型マネジメントはそろそろ賞味期限切れである」という認識に立つ必要があると思います。このメッセージをどう発信していくか、どう共感者を増やしていくかが大事です。
従来の勝ちパターンはものづくり型で、旧来製造業モデルと言えます。同質性の高い人たちが、長く顔を合わせて、決められたことをこなす(あるいは、こなさせる)モデルです。これが悪いと言っているわけではなく、決められた枠の中で成果を出すことにコミットするならば、これほど便利な方法はありません。
ところが、今の世の中は、異質な人たちとつながって、それぞれに最適な時間と場所で、前例踏襲ではなく過去に答えのないテーマに向き合って成果を出す、越境型、オープン型、イノベーション型、コラボレーション型のモデルに、徐々にでも慣れていかなくては勝てません。私はよくハイブリッド型と言っています。部分的にでも取り入れて、慣れていくための筋力トレーニングをしていく必要があります。
世の中はものづくり型からサービス提供型、ソフトウェア志向、あるいは価値創造志向のやり方にトランスフォームしていく必要があります。新たな収益を生んだり、地方都市においても、サービス型のビジネスモデルに転換することで地域の下請け構造から脱出しつつある企業が多々あります。
垣根を越えて新たな勝ちパターンを生み出すには
私の考えるDXは、花より団子ならぬDよりXです。つまり、垣根を越えて、新たな「勝ちパターン」を生み出すこと。今の時代、IT活用が垣根を越える最も早い近道です。だから、デジタルワークシフトが必要ですし、越境して成果を出すためのスキルシフト・マネジメントシフト、マインドシフトをする必要があります。
越境がもたらす景色の変化
固定化された環境から解き放たれることが、今私たちに求められています。同じメンバーで同じ景色の中、同じタイムラインで、同じ考え方の人が同じ仕事をしていて、イノベーションは生まれるでしょうか。既存に潜む問題や課題、無駄に気づけるかというと、限りなく難しいのではないでしょうか。
今日の午前中は、私が顧問をつとめるNOKIOOが提供する「育休スクラ」の修了式がありました。育休を機に越境することで、自分の考え方が変わったとか、自分に自信が持てたとか、一回組織を離れることで自組織の問題や課題が見つかったが、繋がる仲間ができたから今度は外の仲間と相談しながら解決していきたいとか、修了生からたくさんの嬉しいメッセージをいただきました。育休を機会と捉え、越境して外の世界と繋がることの価値。このような機会に対して組織は投資していくことが大事だと思います。
変革に向けて『3つの決別』を
変革に向けた私からの提言は、『3つの決別』をみんなでしましょうということです。1つ目は、事務間接業務との決別です。日本では事務作業や間接業務が多すぎます。それによってプロフェッショナルが正しく活躍できなかったり、地域で起業しようにも細かい事務作業や紙ベースの書類に阻まれることも多くあります。正しく法制度と照らし合わせれば、なくせる業務がたくさんありますから、私たち自身が、それぞれの事務間接業務について必要性を見直し、声をあげていくことが大事です。2つ目は、終身雇用に最適化された社会構造からの決別です。3つ目は、流動性のない組織からの決別です。ITを使って、IT×越境で新しい景色を見せていきながら新しい勝ちパターンを実現していくことが大事です。様々な越境学習の機会も提供されています。会社に投資を促し、一緒に変わっていく体験をしていただけたらと思います。
Influence others. 他者を巻き込める人、影響を及ぼす人に
今日のキーメッセージは「Influence others.」です。皆さんには、他を巻き込める人、影響を及ぼす人になってほしいと思います。他人の意識(マインド)を変えることはできないと思われるかもしれませんが、変わるきっかけを作ることはできます。声をあげる。仲間を見つける。巻き込む。対話する。経営者と、役員と、管理職と、そして現場の仲間と、人事部門と、対話をしてください。
そして今は、人の成長や学習に投資することがその企業の価値を決める評価指標になる流れです。会社に投資させるのは無理だと思われるかもしれませんが、会社のお金を正しく使う/使わせる経験は、間違いなく私たちの視野を広げ、視座を高めます。また、相当な調整も仲間も必要になりますから、当然価値を出すコミットメントも伴います。それは何より説得力のあるあなたのキャリアになります。
まずは、皆さんの半径5m以内からの問題解決で構いません。越境して組織の景色を一緒に変えていきましょう。お互い影響し合いながら、日本を明るくしていけたらと思います。
沢渡あまね氏
作家/ワークスタイル&組織開発専門家。
あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOOアドバイザー/株式会社なないろのはな 浜松ワークスタイルLab所長/ワークフロー総研フェロー。
日産自動車、NTTデータなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。350以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演をおこなう。
著書は『バリューサイクル・マネジメント』『どこでも成果を出す技術』『職場の問題地図』『仕事の問題地図』『働き方の問題地図』『システムの問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務改善の問題地図』『職場の問題かるた』『仕事ごっこ』『業務デザインの発想法』『仕事は「徒然草」でうまくいく』(技術評論社)、『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』(翔泳社)、『はじめてのkintone』『新人ガールITIL使って業務プロセス改善します! 』(C&R研究所)ほか多数。最新刊は『新時代を生き抜く越境思考』。
趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング
デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー 組織のデジタル化から、分断を乗り越えて組織変革にたどりつくまで
市谷聡啓
組織に不足しているものは何か
国から発表されるレポートや現場を見る限りでは、日本のDXでは今、取り組みを進められている組織とほぼ手付かずの組織との間で格差が開いてきています。全体的にはまだまだこれからという印象です。何が起きるか分からない中では、組織を取り巻く環境や社会の方が動きが早く、組織には既存にはなかったものを探す「探索」の能力が求められます。仮説を立て検証し、筋のよさそうな選択肢を絞っていくという探索活動を進めていくと、いろんなことが分かってきます。分かったことに基づいて次の意思決定や行動を変えていくことを「適応」と言います。探索と適応、両方が必要であり、そのためには仮説を立て検証することが大事です。
仮説検証とアジャイル、両方が今の組織に欠けています。組織に備わっていない新しい能力なので、取り入れようとすると様々な問題が起こります。現場支援の経験から、「屏風のトラ DX」「裸の王様 DX」「大本営発表 DX」「眉間に皺寄せてやる DX」の四つのパターンが多く見られます。人類が膨大な時間を費やし進化してきたように、組織にもその形態進化の段階が必要です。段階を踏んで進むべきですが、残念ながら残された時間はそれほど多くありません。
変革の段階を表す「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」
変化の段階を示したのが「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」です。意識すべきは「From-To」、つまり、何処からきて何処へ行くのか。Fromは組織によって違うため、デジタルトランスフォーメーション・ジャーニーを指針として、各組織ごとに取り組みを進めていきましょう。それぞれの段階には大事にすべきポイントがあります。新刊『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』に詳しくまとめましたので、ぜひご一読ください。
組織の境界に位置する越境チーム「アジャイル・ブリゲード」
スキルのトランスフォーメーションからビジネスのトランスフォーメーションへ移行する段階で、DXの難易度は飛躍的に高まります。仮説検証やアジャイルなど新しいケイパビリティを持ったチームが既存の事業と混ざり合うとき、どうしても分断が起きやすいのです。その分断を繋ぎ、組織を変革するための仕組みが、DX推進部署と既存事業部門との境界に結成する越境チーム「アジャイル・ブリゲード」です。
日本の組織は変われるのか?
我々がDXで直面しているのは、1980年代から連綿と培われてきた”深化”の呪縛と言えます。組織の意思決定の基準や行動、体制が「効率化」への「最適化」にアジャストしているのがその特徴です。効率化は当然必要なものですが、過度の最適化は思考停止を生みます。組織の抱える40年分の負債を一気に解消することはできませんが、勝ち筋はあると私は思っています。なぜなら、今の状況は20年前のソフトウェア開発と同じだからです。ソフトウェア開発を変えてきたのがアジャイルという考え方です。20年かけてアジャイルが少しずつ広まり、近年では行政や大企業でも導入されるようになっています。組織に対しても、きっとアジャイルが解決の糸口になるはずです。組織運用にアジャイルを適用するには、構造として捉える視点が必要です。それを示したのが「アジャイル・ハウス」です。
アジャイルを家で例えると3階建てです。まずはチームで仕事をすることに慣れてから、仕事の仕方を覚え、組織の活動へ広めていきましょう。家には基礎が必要なように、アジャイルマインドの理解が前提として大事です。
組織アジャイルに向かうために大事なこと
アジャイルはプロセス、方法論でありながら価値観、あり方でもあります。大事なのは「誰が取り組むのか?」。手順だけではなく「From-To」が大切です。難しそうに感じるかもしれませんが、「何処かにたどり着かなくてはダメ」なんて思わなくて良いのです。何処かにたどり着くために、その方角へと踏み出そうとする限り、たとえ間違えていたとしても一歩一歩進んでいけるはずです。まずは越境することが必要です。越境とは、自分が居る場所や前提から踏み出すことです。変化は、何処かの誰かから始まるのではなくあなたから始まります。一緒にがんばってやっていきましょう。