Web完結型クラウド電子契約サービス 『クラウドサイン』https://www.cloudsign.jp/)のプロダクト開発について、吉本さん、開さんのお二人にお話をうかがったインタビュー。前編では、新型コロナウイルスの感染拡大とそれによる社会の変化を機に起こったこと、開発現場の状況、仮説検証型アジャイル開発の取り組みについてお聞きしました。実際に取り組みを進めるなかで新たに見えてきた課題や展望とはどのようなものだったのでしょうか。プロダクト開発へ寄せる想い、意気込みについてもうかがいました。
(聞き手:レッドジャーニー市谷)

前編はこちらから

今のクラウドサインだからこそ、できることを。

例えば、ある組織ではUXリサーチの担当者が常にインタビューを重ねて結果を蓄積しているそうです。何か新しいことをやろうとするときにはUXリサーチャーに顧客の反応について問い合わせると、膨大な記録のなかからデータを引っ張り出してきて仮説を返してくれるのです。
ユーザーインタビューはラフに溜まっていくだけで再活用されないことも多いと思いますが、やり方を工夫して他のことにも活用できるようになると非常に強い仮説検証型組織ができるのではないでしょうか。

吉本さん:そうですね。お客様へのインタビュー(ヒアリング)には時間がかかりますから、「お客様シミュレーター」にあたるような部署が社内に持てればスピードが上がりそうです。

開さん:いいですね。今はロードマップで決めたものについて仮説検証していますが、「そもそも決まったものが本当に必要なのか?」という価値探索を前倒しで行い、それも蓄積していけたらいいのかもしれません。

そうですね。特に、カイゼンの範疇を超えて新しい業務のあり方を定義しようとする場合には、何かをトリガーとして検証を始めるというよりは、常に先回りして検証を重ね「どうあるべきなのか」を言語化していくということに取り組んでいくといいかもしれません。

吉本さん: 例えば、今は1つのチームが全行程を担っていますが、The Model(ザ・モデル。集客からカスタマーサクセスに至るまでの各段階で情報を可視化・数値化し、部門を越えた連携をベースに売上の増大を図っていこうとする考え方)みたいな型があるといいのかもしれません。常にヒアリングだけをする専門部署を作るなど、仮説検証におけるロール分けの仕組みが作れたら効率的で品質も上がるかもしれませんね。

そうですね。今のクラウドサインなら恐らくチャレンジできるのではないでしょうか。もっと大きな組織になると、部門を超えた連携というのは難しくなってくると思います。

吉本さん: たしかに、我々くらいの規模だからできるというのはあるかもしれませんね。考えてみようかな。

仮説検証の新しいあり方とも言えます。おもしろいですね。

エピックを自ら作れるようなプロダクト組織に。

今後の展望としてはどのようなことをお考えでしょうか?

吉本さん:エピックを自ら作れるようなプロダクト組織になりたいですね。現状は、「こういう機能があったほうがいいのでは?」というある程度の「ネタ」がお客様から与えられることが多く、純正の、かつゼロから考案した機能はまだ提供できていません。

開さん:やはり、完全に新しい契約の形をいかにプロダクトマネージャーが作っていけるかが、非常に重要になるのではないでしょうか。他社にある機能を追いかけるのではなく、クラウドサインとしての定義を作っていく。こういうところを価値探索としてやっていけると一番いいですね。

お客様から出てくるネタというのは、恐らく経験に基づいているのだと思います。となると、プロダクト部門のメンバーが経験する機会を持ち、蓄積することが必要なのではないでしょうか。全員は難しくても、プロダクトマネージャー一人だけではなく一定数のメンバーがデジタル化された契約を体験するというようなことです。「大体理解できている」というレベルにとどまらず、「もっとこうあるべき」というところまでレベルアップするには、相当使いこなさなくてはならないでしょうし、いろいろなパターンの経験を積んでいく必要があると思います。
そういった、プロダクトを実際に使った経験を意図的に蓄積するような取り組みはされているのでしょうか?

吉本さん: これから取り組んでいきたいことの一つですね。ただ、経験を蓄積するにしても、内外のバランスが重要です。電子契約の専門家を目指してしまうと、DXになるための重要なフックをキャッチできないかもしれません。大事なのは、電子契約以外の分野で業務改革した事例をどれだけ知っているかということではないでしょうか。つまり、他の一見関係のない分野での経験や知識をどれだけ持っているかがカギになると思います。

おっしゃる通りだと思います。今までの延長線上にある経験をいくら積んでいったとしても、やはり、違う観点や切り口を持っていないと新しい解釈は生まれてきませんよね。

吉本さん:市谷さんは電子契約の専門家ではないからこそ、ご指摘いただけたこともあったと思います。

また、「このネーミングでは価値を受ける側の立場としては違和感があるだろうから変える必要があるのではないか」といったように、途中で振り返りができるようになったところもおもしろいと感じています。直接的にプロダクトへ影響しなくても、目的やビジョンによってはより巨大な価値や課題が存在する可能性がありますから、もう少し小分けにして検討しなくてはならないテーマなのかどうかを議論する上で、後戻りをするためのチェックポイントを作ることができたのは好材料です。

言葉には認識が埋め込まれているので、ある言葉によって機能への認識が固定化してしまうことがあります。ネーミングよりも仮説キャンバスで表現されている本質や構造そのものが大切なのですが、機能についての表現が多くなるやり取りでは、本質を見誤りがちです。難しいコミュニケーションではありますが、特に初期の段階では注意して気にしていかなくてはならないところだと思います。下手な名前をつけてしまうと本質を見誤ってしまうこともあります。

吉本さん:名前は後でつければいいですものね。

開さん:たしかに、名前によるミスリードは多かったように思います(苦笑)。

新しく価値あるプロダクトを、よりスピーディーに。挑戦ははじまり、続いていく。

最後に、あらためてプロダクト作りへの意気込みを聞かせていただけますか。

吉本さん:僕は、クラウドサインの開発は挑戦だと思っています。体得したメソッドに安住することなく、改良していきたいです。要求定義フェーズのためのメソッドとして仮説検証を導入しましたが、まだまだスピードに関しては改良の余地がありますし、お客様に受け入れられる度合いも未知数です。だからこそ、ここからが本当の挑戦なのかなと。仮説検証のスピードアップをして、スピーディーにお客様に価値を提供していくことに挑戦していきたいです。

開さん:「発明者側」の組織になることを目指します。やはり、新しい契約の形を我々自身で発明し、マーケットに対して発見を提供していくことが大事だと考えます。価値の定義づけや、合意、意思決定の過程が言語化され定義されているかどうか。それらが蓄積された組織になることが必要です。

お二人のように、実際に仮説検証型アジャイル開発に取り組む方たちが取り組みのなかでどのような発見をし、それを踏まえて今後どうするのか、という話は、まだ世の中には多くないと感じます。だからこそ、このようなインタビューを記事として表現することで多くの方に読んでいただく機会を作っています。一歩ずつ歩みを進めた積み重ねの先に、よりよいプロダクトが生まれていく。今回のお話がそのきっかけになることを願っています。
今日はお時間をいただき、また大変いいお話を聞かせていただきありがとうございました。