”「知る」 「つながる」 「表現する」で新しい体験を提供し、人の生活を豊かにする” を企業ミッションに、さまざまなインターネットサービスを提供している 株式会社はてな 様。昨年10月には、生成AIを活用した発話分析ソリューションである「toitta」がリリースされました。
今回のインタビューでは、このゼロから始めた新規事業のソリューション開発で、チームのみなさんが歩んだジャーニーについてお話を伺いました。
前編では、立ち上げメンバーがまず初めに取り組んだことや、多彩なアイディアの中からお客様の”切実な課題”を掴んだきっかけ、手ごたえのあるプロダクトを作り上げるまでの過程について語っていただきます。
スピーカー
【話し手】
株式会社はてな 米山 弘恭様
【聞き手】
株式会社レッドジャーニー 中村 洋
※内容や肩書は、対談を行った2024年10月時点の情報です。
目次
ゼロから始める新規事業で、まず取り組んだこと
中村:
米山さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。ではまず簡単にご自身の自己紹介からお願いします。
米山様:
はい、よろしくお願いします。
私は株式会社はてなのコンテンツ本部 第一グループのプロデューサーをしております。新規事業チームとして開発を続けてきた「toitta」というソリューションをリリースして、いまはその事業責任者兼プロダクトマネージャーを担っています。
中村:
ありがとうございます。このたびは御社の別の既存事業で関わりのあった方から、新しく始まる事業も手伝ってもらえないかとお話をいただいたのをきっかけに、ご支援させていただくことになりました。
米山さんは「toiita」には立ち上げ当初から関わっていらっしゃいましたが、当時の悩みや困りごとなど、どのような感覚があったのかお話いただけますか?
米山様:
そうですね。まず新規事業を始める前の既存サービスの開発がメインの業務であった際には、チームの中で主にプロダクトマネジメントなどに悩みがありました。その頃に中村さんを紹介してもらいお話しさせてもらったら、これは心強いなと。
そこから何か月かは既存サービスの支援で入ってもらい、新しい事業を立ち上げるというミッションが始まったタイミングで引き続きのご支援をお願いしました。
当時困っていたことですか…当時はすべてに困っていたので(笑)。事業の立ち上げもそうですし、世間一般における仮説・検証・探索のような活動そのもののありようや、UXデザイン(User Experience:顧客体験)の方法論など、そういったものが全く分からない状態でした。
社内でのプロセスも確立された状態ではなかったので、書籍や世に公開されている資料から、取り入れられそうなプラクティスなどを吸収しようとしていました。しかし本当にこれが正解なのか、自分たちにあっているのかというところが分からなかった。
だから客観視してもらえたり、いろいろなチームや組織を見てきた経験からアドバイスをくれる方が、ぜひ欲しいというモチベーションがあったと思います。
中村:
確かに、私が最初に新規事業チームのみなさんとお会いしたとき感じたのは「よく勉強しようとしているな。」ということでした。読書会をされたりもしていたので。
”分からない”ということを分かったうえで、インプットしようとしているのが印象的でした。
米山様:
そうですね。とにかく書籍を読んで共通認識を作るくらいしか、自分たちの進め方や考え方に、自信が持てなかったということもありました。
ちょうど『Running Lean(ランニング・リーン)第3版』が発刊されたタイミングだったので、一つの本をみんながじっくり読んで、ディスカッションしながら咀嚼していきました。この活動によって、新規事業立ち上げチームの初期の共通認識醸成につながったことは大きかったなと思います。
中村:
スピードが大事といわれますが、知識や言葉をそろえずに進めていくと上手くいかないことも多いんです。そんな中、米山さんのチームはとても丁寧に進めているなという印象でした。
米山様:
一方で私たちだけでやろうとすると、教科書通りに進めてしまったり、すごく細かいところで立ち止まってしまったりということが起きたかもしれない。
そんなとき少し距離を置いたところから「そこではないんじゃない?」といった投げかけをもらえたことで、「確かに、ここはちょっとスピード優先で行こう。」とか、「ここはゆっくり考えよう。」とか、ポイントを見極める一つの材料になったのはありがたかったなと思います。
中村:
なるほど。確かに私としても組織との関わり方や距離感はいろいろ考えるところなのですが、今回の「toitta」に関していうと、最初の段階では、ほかにもたくさんの事業アイディアやプロダクトの候補があったので、どうしていくのかなと見ていました。
でもアドバイスできる時間は限られているので、基本的には違和感のあったところをピンポイントでお伝えしようと思っていたことが良かったのかな。
課題の切実さを見極める
中村:
次に、アジャイルコーチとの関わりの中で印象的だったことを教えていただけますか?
米山様:
はい。これは何回もあったことなのですが、みんなでディスカッションしているときに、よく中村さんが「本当に?」と問いかけていたことですね。
人が何人か集まって一つのことに向かっていくと、どうしても見落としてしまう部分だったり、詳細まで吟味せずにいったんこの結論でいってしまおうということが起きてしまいます。例えば「本当にこの仮説で合っているのだろうか?」とか、「本当にこのお客さんはこれで困っているんだろうか?」といったところですね。
特にこの事業の立ち上げ初期、たくさんの事業アイディアを出してそこから選んでいこうというフェーズで、リーンキャンバスを書いて、仮説を洗い出して、「これでいけるんじゃない?」と思ったときに、中村さんからの「本当に?」の投げかけで、もう一度リサーチしてみようと問い直すきっかけをもらえました。
その後も、実はいまでもそうなのですが、日々仮説を立てては検証していく日々の中で、いつも脳内に中村さんがいて「本当に?」と言ってくれている気がして(笑)。形には見えないことだけれど、とても印象的でしたし、チームの資産になっていると思います。
中村:
なるほど。確かに「それ本当かな?」って言ってましたね。
米山様:
そうですよね。特に”課題の切実さ”のようなところを問われる機会が多かったと思います。
世の中を見渡せば課題はいっぱいあるじゃないですか。それには大小とか程度といったものがあるはずなんです。だから課題があるかないかで進めるのではなく、それは0から100の中では何点の課題なのか、これを解消できたらお相手も幸せになれるような強い課題なのか、ということをちゃんと評価する目を養ってもらったと思います。
中村:
それを受け取ってもらえたのはとてもうれしいです! 「切実な課題って、なかなか見つからないな…。」という実感もあったのではないでしょうか。
課題は、あるかないかでいうとある。でもそれが実際に多くのユーザーがお金を払ってでも何とかしたいと思う切実な課題なのかどうか。多くの場合、それほどではないですからね。
米山様:
どれだけソリューションが優れているかとか、競合に対しての優位性を説明できるかとか、市場が大きそうだ、といった周辺の影響は変数としてはあると思います。
でも一番の根源は”いままさに困っている人がどのくらい困っていて、その困りごとが解消されると対価をいただけるレベルのものなのか”ということだと思うので、そういった部分に目をむけられるチームになれたのは良かったですね。