ニッセイ情報テクノロジー株式会社様では、2022年4月に「Insurtech 推進室」(インシュアテック・ラボ)が新設され、アジャイルの推進に組織で取り組まれています。レッドジャーニーは同年より支援を行ってきました。新たに設立された組織として、どんなことに取り組んでこられたのでしょうか。レッドジャーニー主催のカンファレンス「Red Conference 2023 October」(2023年10月開催)でお話いただいた講演の概要をご紹介します。
※肩書、部署名などはイベント開催当時の情報です。

話し手

小泉 岳人 様

ニッセイ情報テクノロジー株式会社
保険インフラ事業部 Insurtech 推進室 室長

2004年ニッセイ情報テクノロジー入社。生命保険領域の開発を10年以上経験。 新会社設立や新チャネル開発、アジャイル導入等のプロジェクト推進を実施。 近年では新規ビジネスの企画・開発を実施。

目次

アジャイルの実践へ、一歩踏み出すきっかけに

私たちニッセイ情報テクノロジーは、保険・共済、年金、ヘルスケアといった社会保障領域のマーケットに対して、ITサービスやコンサルティングを提供しています。

私が室長を務めている「インシュアテック・ラボ」(Insurtech 推進室)は、2022年4月に設立されました。
ミッションは『理解しやすい保険体験が「優しい世界」を創る』。30名ほどの出島組織で、アジャイルを適用することで「小さく」「はやく」「アジリティ高く」プロダクト作りに取り組んでいくことが狙いです。

具体的には、アジャイル開発を実施するための研究開発(R&D)からユーザー分析、仮説検証、ローコード、ノーコードを活用したアジャイル開発、運用/サービスまでを担っています。「エンドユーザーに新たな価値を提供する」「新たな技術を価値に結びつける」「同じ目標を持つ仲間を増やす」の3つのテーマで、仮説検証とアジャイルを軸とした「共創」の場を展開しています。

アジャイルを組織に広げていくために本やコミュニティ、セミナーで学んでも、具体的な一歩がなかなか踏み出せないという課題感をお持ちの方は多いのではないかと思います。
今日は、私たちが本を参考にしながら実際に適用してみた事例をご紹介したいと思います。
アジャイルの実践のために、一歩踏み出す勇気が出るようなお話ができれば幸いです。

▼参考にした本

アジャイル開発の「3つの難しさ」への取り組みとは

はじめに、『いちばんやさしいアジャイル開発の教本』より「アジャイル開発の3つの難しさ」をご紹介します。

アジャイル開発の3つの難しさ

  1. これまでとは異なるマインドセットが求められる
    「できるだけ失敗しないようにやる」というマインドセットではなく「失敗から学びを得て適応する」というマインドセットに立つ
  2. 振る舞いには相応の練度が必要
    状況に適応するために、反復的(イテレーティブ)、漸次的(インクリメンタル)というスタイルを身に着けることが求められる(プロセスとエンジニアリング両面において)
  3. チームの協働が前提
    アジャイルな振る舞いを誰か1人でではなく、チームとして体得し、チーム内外でなめらかな協働が必要

市谷聡啓・新井剛・小田中育生『いちばんやさしいアジャイル開発の教本』(インプレス、2020)P202

これらは実際に取り組んでみても実感するところです。私たちも一年間は悩みと試行錯誤の日々でした。
これらに立ち向かうために我々が取り組んできたことについてお話します。

「3つの難しさ」への取り組み

▶マインドセットを身につけるための取り組み
「QCD以外の目標がないプロジェクト」から「価値を探索するマインド」へ

  • チームのゴールを設定するための「ゴールデンサークル」
  • 共創相手と一緒に「愛おしい失敗」を

▶チームで協働するための取り組み
「リソース効率中心」の考え方から「チームでの協働」へ

  • 停滞しない「組織バックログ運営」
  • 「合宿」のすすめ

▶練度を上げるための取り組み
「計画、実績重視の進め方」から「リーン、スクラム、XP、デザイン思考」へ

  • 学習の効果を上げる「メンター」の存在
  • 取り組みを広め継続していくための「アジャイルCoE」

チームのゴールを設定するための「ゴールデンサークル」

ゴールデンサークルでは、ファーストに基づくミッションを定義し(Why)、Whyを実現する作戦を立て(How)、作戦に基づくタスクに取り組んでいきます(What)。
これを使ってチームのゴール設定をすることが大事だということは理解できても、実際にどのように取り組めば良いのかについては非常に悩みました。今でも悩んでいると言って良いかもしれません。

解決策としては、固定的ではなく多様な価値を見つけるために繰り返し練習することが必要だと思います。
実際の取り組みの例をご紹介します。

※ゴールデンサークルとは、サイモン シネック氏が2009年に「TED Talks」のプレゼンテーションで提唱した理論。
https://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_action?language=ja

GCLT(ゴールデンサークルライトニングトーク)

「ゴールデンサークルライトニングトーク」は、個人の価値を見つけるための取り組みです。
メンバー全員がそれぞれ「ゴールデンサークル」を作成し表明し合います。お互いに付箋を使ってコメントしながら進めていきます。
四半期に1回のペースで、結構な時間をかけて行いました。

仮説キャンバスの練習

仮説キャンバスも、きれいにまとまっているだけではなく実践的な内容とするには練習が必要です。
まず書いてみて、キャンバス同士を整合させます。整合してみると一見良いように見えますが、そこに「想い」や「ビジョン」がなければ足りません。それらをしっかりと乗せてブラッシュアップすることを繰り返し練習しました。

今回の講演内容を考えるためにも仮説キャンバスを作りました。
毎週1回くらいのペースで練習を重ねるうちに、徐々にチームのゴール設定がうまくできるようになっていきました。

共創相手と一緒に「愛おしい失敗」を

伝統的な企業では特に、活動に対して正解を求めるメンタリティが強いのではないでしょうか。そうなると、上長の意見を待ったり活発な意見が出てこなかったり、具体的なアクションが定まりづらくなったりしてしまいます。そうした停滞を防ぐために行った取り組みをご紹介します。

愛おしい失敗例カード

がんばったけれどうまくいかなかった失敗事例について、やったこと・起きたこと、感情・気づきを考えて「愛おしい失敗カード」として残すようにしました。
いろいろと経験を重ねるうちに「愛おしい失敗事例」だと思えることが出てきます。
そうした「愛おしい失敗」を大事にするメンタリティを持っていたいと思います。

停滞しない「組織バックログ運営」

運営メンバー数人で「組織バックログ」を作ってスプリントを回してみたものの、はじめはなかなかうまくいきませんでした。停滞の原因を考えてみると、3つのポイントがありました。

1つ目はゴールが見えていないことです。
組織のバックログを作る上ではゴール設定が重要ですが、当初はミッション、ビジョン、バリューなどができておらず、ゴールが見えづらくなっていました。

2つ目はバックログの構造化が難しいこと。
いざゴールを設定しても、ゴールとバックログが結びつかなければ、バックログをクリアすることが目的になってしまいゴールに近づいている実感が湧きません。

3つ目は兼務での推進が必要なことです。
バックログの構造化ができても、運営メンバーは兼任が多く専任者がいないことでタスクがなかなか履行されません。

これらの課題をクリアするために取り組んだことをご紹介します。

組織バックログを進めるTips

組織のビジョンを設定し、組織のバックログを作る上で重要なゴールを明確にしました。
また、バックログを各ビジョンに紐づけることで、どのバックログを進めればゴールにどのように近づくのかが分かるようにしました。
対応はチームでのモブワークを基本とします。時間を設定し、みんなで集まって進めるようにしました。

「合宿」のすすめ

合宿は、実施する前はハードルが高く感じたり意義が見出しづらかったりすると思います。
でも、実施してみると重要性がよく分かるはずです。
実施前後に取ったアンケートでは、「合宿の有効性は実施してみないとわからない」という質問に対して、合宿後は全員が「とても必要」「どちらかというと必要」と回答しています。

合宿は、チームの関係性を築く上で非常に有効だと感じています。
私たちは1日目の夕方から集まって準備をし、翌日の夕方まで一緒に過ごしながらワークショップを行いました。
特に1日目夜の飲み会が合宿の山場だったと思います。夜、腹を割って話をすることで良い関係性を築くことができました。

学習の効果を上げる「メンター」の存在

様々な取り組みを自分たちでやってみることはできても、結果を正しく評価することは難しいのではないでしょうか。
新しい活動では特にそうだと思います。学習のための示唆を与えてくれる「コーチ」の存在が必要です。
私たちの場合は、外部の専門家であるレッドジャーニーさんにコーチとして支援していただきました。
自分たちでスクラムマスターを育成することで、社内で取り組みが進められるようにしていきたいと考えています。

取り組みを広め継続していくための「アジャイルCoE」

組織にアジャイルを広めていくために取り組むと良い8つのバックログが、書籍『組織を芯からアジャイルにする』の中で紹介されています。これらの8つのバックログについてそれぞれ取り組んでいきました。

※CoEとは…組織を横断するような大規模な取り組みを継続的におこなうための中核となる部署やチームのこと。センターオブエクセレンス(Center of Excellence)。
アジャイルな組織づくりをどうはじめるのか? | エナジャイル by レッドジャーニー (redjourney.jp)

組織アジャイルの実践ガイド作り

親しみやすいキャラクターを使い、分かりやすくアジャイルを解説するガイドを作成しました。

教育コンテンツ作り

より踏み込んだ内容の資料を作成しました。また、「アジャイルランチ勉強会」などの勉強会を毎週実施しました。

社内コミュニティ作り

アジャイルの社内コミュニティを作り、勉強会の案内などを行っています。

社外への発信

Insurtechラボのホームページを作成して活動内容を発信しています。また、会社のITレポートで発信したり、コミュニティイベントや地方のスクラムフェス、XP祭りなどの社外イベントに登壇して発信したりしています。外への発信をきっかけに、社内での認知が広がることも期待しています。

▼InsurTechラボのホームページ「InsurTech研究室」

組織理念との整合を取る

会社の理念の中から、アジャイルと親和性の高い理念やキーワードをピックアップしました。伝統的な会社であっても、アジャイルと親和性の高い理念は多いのではないかと思います。

実践の伴走支援

アジャイルコーチに支援していただいたり、仮説検証、デザイン思考を支援するワークショップを開催したりしています。

体制の拡充、学びの集積については、今後全社展開を進める中で取り組んでいきたいと考えています。

経験と勇気が次の段階を引き寄せる

一年半の活動を通してできるようになったことをご紹介します。

■数10億円規模のウォーターフォール大規模開発において、お客様とチームを組み、アジャイルのフレームワークを使って「全体PMO」(課題解決、運用のための横断的組織)を推進

課題解決や運営など重要なことを決める横断的なPMO組織を、お客様とともに運営しています。
ビジネスゴールに合わせてプロジェクトゴールを設定し、全体へ展開していく取り組みをしています。
開発自体はウォーターフォールですが、組織バックログを作りながら、アジャイルのフレームワークを使って進めています。

■Webプロダクトを作り、営業部門と協業して営業活動に活用

プロダクトのレベルを上げるためにも実際のプロダクトを作ることが大事です。
プロダクトを作り、保険会社さんや自社の営業部門と協業して営業活動をしています。

組織で新しいことに取り組むとき、まずは一人で始めることが多いと思います。
暗中模索しながら一人で歩いた道程がレバレッジとなり、チームで取り組む力になります。
チームでの取り組みは、やがて組織へと広がっていきます。

経験と勇気が、次の段階を引き寄せます。一度経験していれば「失敗しても一段階戻ればいい」という安心感が生まれ、勇気を持続させてくれるのです。
今日のお話が、皆様にとっての新たな一歩を後押しできたなら幸いです。
ご清聴ありがとうございました。

後編へ続きます。

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