三菱マテリアル株式会社で開催された社内勉強会にて、代表の市谷が講演させていただきました。

「正しいものを正しくつくる」と題した講演では、価値探索の重要性と仮説検証への取り組み方、仮説検証型アジャイル開発について解説するとともに、これからの時代に求められる「アジャイル」型の仕事の進め方についてお話しました。

講演の概要

「価値探索」に取り組むために、「仮説検証」をはじめよう

「正しいものを正しくつくる」とは、どういうことでしょうか。
その問いに先行して向き合ってきたソフトウェア開発の世界から手がかりを得るべく、まずは「ソフトウェア」と「プロダクト」の違いを紐解いてみましょう。

期待(仕様)通りに作ることが求められる「ソフトウェア作り」と異なり、「プロダクト作り」では利用目的を果たしユーザーに価値をもたらすことが求められます
どんな状況にいる、どんな人の、どんなニーズに応えるものを作ろうとしているのか?
そこが明確化していないとしたら、まずはその特定から始める必要があります

しかし、どんなものを作ればどんな価値を生み出すことができるのか? という正解が初めから明確に分かっていることはほとんどないはずです。
何が価値となりうるか? の「仮説」を自分たちで置く「価値探索」の取り組みが必要です

「価値探索」とは、どのようにして取り組めば良いでしょうか?
多くの組織はその「すべ」を持っていないのが現状です。

講演資料より

レッドジャーニーとして組織変革の前線で伴走支援を行う中で見えてきたのは、この30年~40年の日本の組織を支えてきた仕事の進め方や考え方が、組織を取り巻く環境の変化への適応を阻んでいるという事実です。
現在の組織が直面するのは、1980年代から連綿と培われてきた「最適化の呪縛」です。
度を過ぎた「最適化」は思考停止を招き、「効率への最適化」はいつしか「非効率で安定化」していきます。

講演資料より

「効率への最適化」に捉われた組織がDXを実現するためには、「探索」と「適応」の活動と能力が必要です。
DXや事業創出の中核にあるのは「組織に”探索”と”適応”を宿すこと」と言えるでしょう。

価値探索を進めるには、「価値自体と価値となる条件」「価値にならない条件」の見分けをつけられるように、様々な観点から光を当てて少しずつ解像度を上げていきます。
見るべき観点は無数にありますが、リソースは限られていますから、最小限の観点から本質を見分ける必要があります。少なくともここさえ見ておけば「価値がある」と判断できる観点を持っておかなくてはなりません
だからこそ、「仮説検証」が重要なのです。

「仮説検証」への取り組み方

どのようにして「仮説検証」に取り組めば良いのか、順を追ってご説明したいと思います。

「仮説キャンバス」は、観るべき対象や状況に光を当てて可視化する手段です。
プロダクト作りの主体である「われわれ」と、ユーザーである「顧客」について、それぞれ考えておくべき重要なポイントを言語化しフレームに入れていきます。
「仮説キャンバス」を使い、「か」(本質:思考、原理、構想)、「かた」(実体:理解、法則性、技術)、「かたち」(現象:感覚、形態)という三つの観点(※)からプロダクトを観ていきましょう。
か(課題)- かた(機能)- かたち(形態)の整合を取ることで、かち(価値)を導きます。
(※)参考文献:菊竹清訓 . 代謝建築論―か・かた・かたち . 彰国社 , 2008.

講演資料より
講演資料より

仮説が立ったら、次は検証を行います。仮説の「確からしさ」を得るための活動が「仮説検証」です

か(課題)- かた(機能)- かたち(形態)が一致する状態を「Fit」といいます。
「Problem-Solution-Fit」=PSFをインタビューやプロトタイプ、MVPなどによって検証します。
PSFが成り立つ領域を充分に広げられるか? も大事なポイントです。期待するビジネス規模に到達する(Problem-Market-Fit=PMF)ために、チャネルや利用体験向上に関する検証を行いましょう。
これらの「仮説検証」は段階的に進める必要があります。

仮説検証型アジャイル開発

PSF-PMFの「確からしさ」が⼀定程度得られたところで、「提案価値の実現」を具体化します。
検証した「仮説」に適した「プロダクト」を準備するのです。
⼀気呵成に作り切るのではありません。あくまで実⽤的で最⼩限範囲のプロダクト(Minimum Viable Product)を提供する「MVPアプローチ」を取りましょう。

事業開発チームとしてプロダクト作りに取り組むためのプロセスが「仮説検証型アジャイル開発」です
選択肢を十分に広げた後で絞る「仮説検証」と、構想を早く形にしてフィードバックを得る「アジャイル開発」を、反復的に繰り返しながらプロダクト作りを進めます。

「仮説検証型アジャイル開発」は、「リーン製品開発」を基本としています。
「リーン製品開発」は、トヨタ⽣産⽅式をプロダクト開発に適⽤した⽅法で、選択肢の幅を中⼼においた「セットベース」が基本です。
正解を誰も持っていない不確実な環境においては、選択肢を早期に絞りきると⼤きなムダであり時間的なロス(ゼロからの⽴ち上げを繰り返す)となる場合があります。

※仮説検証型アジャイル開発については、レッドジャーニーの特設ページをぜひご参照ください。

仮説検証型アジャイル開発 特設ページ(レッドジャーニー)

「アジャイル」をチームや組織に適用するためには、段階的な視点を持つことが必要です。
それを階層で表した「アジャイル・ハウス」では、最下層である基礎部分に「アジャイルマインドの理解」(「協働」のメンタリティを得る)を置いています。

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講演資料より

「これから」の仕事の進め方

1980年代のように「勝ち筋」が明確だった時代と異なり、今、そしてこれからの時代は何が価値となるのか誰も正解を持っていません。
そんな環境において、価値の探索と適応を繰り返す「アジャイル」型の仕事の進め方は適していると言えるでしょう。

IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発行する「DX白書2021」によると、米国ではIT部門ではもちろん経営企画部門や事業部門でも7割以上が「アジャイル」型の仕事の進め方を取り入れています。
その特徴が顕著に表れるのが「評価や見直しの頻度」です。
顧客体験価値(CX)や従業員体験価値(EX)などの観点で、5割以上の企業が毎週ないし毎月見直しを行う米国に対し、日本では年に一度も見直しを行わない「評価対象外」が5割以上となっています。

講演資料より 原典:DX白書2021 p.17を加工して作成

あらかじめの正解が⾒通せない中で出来ることとは、適応の判断、その機会を頻度よく設けることです。
「アジャイル」の基本である「ふりかえり」「むきなおり」を一定のサイクルで「回転」させながらチームで取り組みを進めることが、これからの仕事には求められます。

そこで重要なのは、「どこを目指すか」(To)以上に「どこから始めるか」(From)を認識することです。
「From」によって「To」に向かう「Gap」は全く異なります。外部の⼒を借りつつも、⾃分たち⾃⾝で実地に模索して⾒出していくより他ありません。

「知⾏合⼀」(ちこうごういつ)という言葉が示す通り、知ることは始まりに過ぎず、事を成すには実践が不可欠です。
「アジャイル」もまた実践の中でこそ磨かれていくものです。正しいものを正しくつくれているか? の問いを手掛かりに前に進んでいきましょう。

参加された方のご感想

参加された方のご感想を、ご了承を得た上で一部ご紹介させていただきます。

初めて「アジャイル」について聞く内容であったため参考になった。
また、自身の考えを検証する機会となった。

プロダクトの開発についてどのように進めるべきかが分からなかったところを知ることができた。

アジャイルな業務の進め方や、価値とは何か、価値をどうやって生み出すかなど大変参考になりました。

市谷さんの資料と説明が分かりやすく、また事前に著書を読んでいたこともあり、より理解が深まりました。
最後の方にあった「From-To(どこからどこへ向かうのか)」に関しては、非常に重要なポイントであり、その通りであると感じました。

今回のソフトウエアとプロダクトとの違いの説明で、プロダクト開発のとらえ方に共感した。

MVPは学びの手段という発想や、見直し機会が日本 年1回:海外 年52回と大きな差があること、勝負にならないことは、考えに無かった為、印象的でした。

私自身、工場での製造に携わった経験があり、まさしくその通りと感じました。
可能なら、現場での業務の前に今回の話を聞きたかったです。

関連情報のご案内

レッドジャーニーでは、業界や組織の規模を問わず多様な組織でDX支援、アジャイル支援を行っています。
これまでの支援事例をご紹介していますので、実践の参考にぜひご覧ください。

関連書籍のご案内

市谷聡啓 著 『正しいものを正しくつくる』
プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について

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プロダクトづくりにともなう不確実性を、いかに乗り越えるか?
アジャイルな探索的プロセスを精緻に言語化。
問いを立て、仮説を立て、チームととともに越境しながら前進していくための実践の手引き。
エンジニア、デザイナー、プロダクトオーナーなど、共創によるものづくりに挑むすべての人へ贈る、勇気と希望の書。

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市谷聡啓 著 『これまでの仕事 これからの仕事』
~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法~

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「現状」への違和感を言語化し、一歩踏み出す原動力へ

20年以上にわたるアジャイルの実践と試行錯誤の末辿りついた仕事論の集大成。
「今のままではいけない」「なんとかしなくては」と、現状に違和感を感じている方、
非効率な仕事の仕方や組織を変えていきたい方へ、
あなたの周りから、仕事の現場をより良く変えていくためにご活用ください。

目次

はじめにだれかが変えるのをただ待ち続けるほど,人生は長くない
第1章「数字だけ」から,「こうありたい」へ
第2章目先の効率から,本質的な問いへ
第3章想定どおりから,未知の可能性へ
第4章アウトプットから,アウトカムへ
第5章マイクロマネジメントから,自律へ
第6章1人の知識から,みんなの知識へ
第7章縄張りから,越境へ
終章思考停止から,行動へ

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