レッドジャーニーにとって初めての開催となるカンファレンス「Red Conference」が、2022年3月15日~17日の三日間にわたってオンラインで開催されました。”日本の組織をRe Designする”をテーマに、これまでのDX支援、アジャイル支援と組織変革の事例をご紹介するとともに、その変革の過程や成果についてクライアント企業のご担当者さまとの対談形式で語りました。
3月17日に開催されたDAY3では、株式会社リコー(以下、リコー)の田中様より「アジャイル組織運営の取り組み」について、林様より「価値創造活動を支援するデジタルツール(RICOH Hub)の取り組み」について、それぞれお話いただきました。また、レッドジャーニー代表の市谷からは、「組織にアジャイルの”構造”をつくる 段階的に”アジャイルになる”を繋いでつくる」と題して、リコーでのアジャイル支援の取り組みを踏まえながら組織のアジャイルについてお伝えしました。

組織にアジャイルの”構造”をつくる 段階的に”アジャイルになる”を繋いでつくる
株式会社レッドジャーニー 市谷聡啓

段階的に組織の芯を得る。

 大きな組織では多くの場合、部署やグループの単位ごとに最適化が進んでいて、それぞれの間でコミュニケーションを潤沢に取りながらの協働はうまく進んでいないことが多いと思います。そんな中でもDXの取り組みでは新しい企画やプロジェクト、事業を作らなくてはなりません。どうやって組織の構造を乗り越え、複数の部門を越えてまとまった仕事の意味、成果を作ればいいのでしょうか。

 コンセプトは、段階的に組織の芯を得るということです。アジャイルな組織の動き方や仕事の進め方は、従来のやり方に比べると探索的かつ適応的で、実行したことに基づいて次の判断をし行動を変えていくスタイルに適しています。一方で今までの仕事の進め方とは大きく異なるため、何千人、何万人という大規模な組織に一気に広げるには無理があります。段階的に取り組みを始め、徐々に広げる感覚が必要です。

重ね合わせ、ふりかえり、むきなおり。

 まず、一つのグループやチーム、部署といった一つの塊で進めていき、そこからその取り組みを広げていくという感覚が重要です。では、その最初の1グループ目で何をすればいいのでしょうか。端的に言えばアジャイルです。スクラムのフレームを組織の運営に適用します。とはいえ、仕事はソフトウェア開発だけではありませんし、アジャイルな組織運営というのは今まで取り組んだことのない動き方でもあります。そこで、スクラムの用語とは少し違った表現でご説明したいと思います。まず、重ね合わせ、ふりかえり、むきなおりと呼ぶ”周回”を三つ作りましょう。これらによってアジャイルな組織の動き方を作っていきます。

 ここで言うアジャイルとは、四つの活動を反復的に行う動き方のことです。まずは状況を踏まえ方向性の判断をし、それをもとに計画作りをして、1~2週間という短い期間のなかで実際の行動をとっていきます。次に、その結果と取り組んだ過程も含めて検証し、次にどうするかを判断、方向性の大枠を見直し決めていきます。アジャイルを非常に抽象化すると、これらのサイクルを回していくイメージです。

「ふりかえり」や「むきなおり」をして次の方向性を見直すためには、まず自分たちがどんな文脈の中で、何を目指して仕事をしているのかが分かっていないと、そもそもフィードバックが出せません。お互いの目的や目標、やらなくてはならないこと、関心事など様々なものを可視化して合わせることによって、文脈を共有できるようにするのが「重ね合わせ」です。お互いのプロジェクトについて理解することでフィードバックが出せるようになり、第二周回の「ふりかえり」を一緒にできるようになります。

 ふりかえりは非常に有名ですし、皆さんも当たり前のようにしていると思いますが、プロジェクト単位だけではなく組織という粒度で行うことが重要です。IPAによるレポート「DX白書」では、自分たちがやっていることの評価と見直しの頻度について日米を比較したデータが示されています。重要な項目にも関わらず、日本の組織においては評価対象外がボリュームゾーンとなっており、危機感を覚えます。組織で年に1回もふりかえりをせずに次の期を迎えようとするのは、受験に例えれば過去問を一切解かずに受験に臨むようなものです。なぜ、そんな無謀な取り組み方をするのでしょう。適宜いろんな本を参考にしながら、ふりかえりを行い、取り組みを進めてほしいと思います。

 第三周回が「むきなおり」で、将来の目指したい方向性から現状の行動を正しましょうということです。ふりかえりは過去をふりかえって現在の判断と行動を正すイメージで、一方のむきなおりは、今の延長線上で辿りつくところが本来望ましいところではなくて、やっていく中でもっと他に目指すべきところが見えてきたら、そこに合わせて方向を変えていくイメージです。本当にこの方向性でいいのか?という問いが足りず既存の延長でやっているだけでは、進めても結果が出ない、期待と違うということが起こります。方向を変えるむきなおりが必要です

 段階的に取り組みを広げるには、最初に取り組んだ内容を伝播させることが大事です。1回サイクルを回すことによって経験値と経験者が生まれます。その人たちが得たやり方を、それぞれまた別のプロジェクトや活動の中で実践していくのです。

組織の中の周回は”関心”で繋がる。

 DXの活動には無限のテーマが生まれ、活動体も無数に生まれます。リコーにおけるDXでもやることがたくさんあり、活動体(チーム、ユニット)としての集団がたくさん生まれていっています。そんな中で、どのようにしてより大きな単位で成果を出すべくマネジメントしていくのかが課題です。

 無数の取り組みをまとめあげるものが「関心の連鎖」だと私は思っています。それぞれが持っている関心のうち、重なり合っている部分や繋がりがある部分を頼りにまとめ上げをしていくという考え方です。まず、プロジェクトレベル、施策の活動レベルで周回を回していき、関心を持っていることをもとに部単位でまとめていきます。特に、経営レベルの関心と繋がりがあるかどうかが大事です。無数に仕事をしていると関心の繋がりがない独立した仕事が出てくることがありますが、例えば、ある仕事に対して定例を開かなくていい、報告しなくていいといった「孤立した関心」は、その組織の活動範囲ではない可能性があります。組織の仕事は増えやすいので「関心の連鎖」がないならば安易に始めないことも大切です

「関心」とはKPIなのかOKRなのか?というと、微妙にどちらとも違うと思います。関心をKPIに置き換えて捉えようとすると、組織の分断を強める可能性があるので注意が必要ですし、OKRとして捉えると理屈では合っていても実際やろうとすると難しいのです。それよりは、プロジェクトで実現しようとしていることから自ずと出てくる関心事のなかに接点を見出す方が手っ取り早いと思います。数字で置き換えてもメリットがあまりありません。

”関心”は意図によって近接する。

 日本のこれまでの組織ではサイロによって分け隔てられていました。サイロとは意図的に「関心」を分かつもので、そうすることであえて目の前のことに集中する環境を作ってきた、いわば効率化を進めるための作戦だったのではないでしょうか。組織のこれからの取り組みでは、サイロを乗り越えていかなくてはなりません。では、関心をどう合わせればいいでしょうか。そこには「意図」が大きく影響すると思います。それぞれの活動の間で「意図は何か?」にたちかえり、合わせていきます意図までさかのぼっても合わなければ、その活動は組織を分けて行った方がいいということです。

組織変革とは、自分たちが「どこから来て」「どこへ向かうのか」を自らに問うこと。

 意図は「From-To」で捉える、ということをリコーでもしばしば申し上げました。100人規模くらいまでなら”To”(目指すところ)だけでも進んでいけるかもしれませんが、リコーのように100年にも及ぶ長い歴史のある組織で、数万人の人たちが動くとなると、「今どこにいて」「どこへ向かうのか」が揃っていないと焦点が合わせられないのではないでしょうか。「誰が、どこを目指すのか」ということがDXの取り組みのすべてだと思います。

 組織変革とは、自分たちが「どこから来て」「どこへ向かうのか」を自らに問うことです。「どこへ向かうのか」(To)は問われやすく「どこから来て」(From)は見落とされがちです。大事なのは、DXの活動に自分たちの関心を乗せられるかということです。もし組織の意図と個人の関心の間に距離を感じているとしたら、組織の意図をあらためて見出さなくてはなりません。組織の意図は経営のレイヤーで大枠を決めていくことが多いですが、組織は一人一人で構成されているのですから、組織の意図が一人一人の関心に合うように「むきあわせ」をしていけるといいと思います。

Vol.2へ続きます。