ニッセイ情報テクノロジー株式会社様では、2022年4月、デジタル戦略に基づいた新規ソリューション開発に向けてローコードやアジャイル開発、仮説検証型アプローチなど新たな技術を研究する「InsurTech 推進室」(ラボ)を設立されました。レッドジャーニーは設立からの一年間、伴走支援を行ってきました。
 一筋縄ではいかないアジャイルや仮説検証について当初は消極的な気持ちもあったという中で、どのようにしてチームで取り組み、成果につなげてこられたのでしょうか。当初抱いていた課題感や取り組みについて、新たな気づきや今後の展望についてもお話をうかがいました。

話し手
ニッセイ情報テクノロジー株式会社 保険インフラ事業部 InsurTech 推進室
小泉様(室長)、青柳様(スペシャリスト)、田中様(スペシャリスト)
聞き手
株式会社レッドジャーニー 市谷聡啓
※役職、肩書きはインタビュー当時のものです。

ラボ設立の背景にあったもの

市谷:
はじめに、皆さんが活動されている InsurTech 推進室(以下、ラボ)が設立された背景についてお聞かせください。

小泉様:
多くの業界と同様に、我々の保険業界も技術の進歩やウェブチャネルの台頭、新規参入してくるスタートアップの台頭など、近年大きく変化しています。
そんな中、弊社としても積極的に新しい取り組みを進めてきました。
幾つかのプロジェクトでアジャイル開発の手法を取り入れたり、研究組織である「ラボ」を立ち上げたりと様々なことに取り組んできましたが、いずれもこれまでは単発に終わることが多かったのが実情です。

大規模なシステムの開発から運用、トラブル対応まで、言わば上流から下流まですべてをカバーできる点が弊社の強みです。
その強みをより発揮していくためにも、個々の取り組みを通して獲得したケイパビリティを組織として蓄積し全社に展開していくことがラボ設立の狙いです。

(手前から、青柳様、田中様、小泉様)

田中様:
プロダクト開発に携わる中で、検討が壮大になり終わりが見えないと感じることが多いと思います。
自分たちのビジネスがお客様にとってどのような「価値」となりえるのか? お客様のニーズがつかみきれていない点に課題感を持っていました。

青柳様:
フロント系のシステムが増えてきたことも関係していると思います。
お客様と直接接点を持ち要求を聞かせていただく機会が増えてきたものの、その対応にはまだまだ課題が山積しています。「ラボ」の設立には、その部分を強化しようという狙いもあります。

※参考
未来志向×テクノロジードリブンで推進する「ゼロイチプロジェクト」を始動

市谷:
ニッセイ情報テクノロジー(以下、NIT)という会社の中においては、どのような存在なのでしょうか。

小泉様:
当初は、幾つかある研究組織の中の一つとして捉えられていたと思います。
最初の一年間は、複数の事業部から寄せられたノーコードやローコード、アジャイル、仮説検証について教えてほしいというニーズに一つずつ対応していきました。
その過程で、少しずつ「新しい動き方を発信する場」として認識されてきたように思います。
当初思い描いていた形に近づいてきていますが、全体としてはまだまだこれからです。

市谷:
社内には他にも研究施設(ラボ)があるということですが、その中でも皆さんの取り組みはユニークなのではないでしょうか。

田中様:
ケイパビリティを取得するための取り組みというのは特殊かもしれませんね。
他のラボでは、どちらかというとソリューション開発など事業に直結する取り組みが多いです。

小泉様:
他のラボでは単体としての取り組みが中心ですから、「共創」に取り組んでいる点もユニークな特徴の一つです。

同業他社では我々のような取り組みをしているところもあります。
ラボを軸とした活動が非常に進んでいるところもあり、新しい技術や手法を取り入れた実験的な取り組みを行う「ラボ活動」が、必須項目として人事制度に組み込まれていたりと、参考になる点が多々あります。
我々も、ゆくゆくは全社的な組織としてケイパビリティを還元できるようになったらいいですね。

青柳様:
どういう形が望ましいのか、あるいはタイミングなど難しい課題は多いですが、全社組織として展開していけるといいですよね。このまましぼんでしまうのは勿体ないです。

そのためには、最初から大々的にしても恐らくうまくいかないはずです。
まずは、新しいことにチャレンジするマインドを持った人たちが社内に複数出てくる必要があります。
そういう人たちが、それぞれの役割を果たしながら働きかけていくことで、やがて全社を動かす大きな力となっていくのではないでしょうか。

(青柳様)

田中様:
新しい事業に繋げていきたいという思いもあります。
新しい取り組みをビジネスとして広げていけるように支援していきたいですし、その実績を足掛かりに、また次の新しいものへと展開していけたらいいですね。

仮説検証のケイパビリティ獲得は重要なポイント

市谷:
具体的にはどのようなケイパビリティの獲得を重視されているのでしょうか。

小泉様:
R&D、デザイン思考、仮説検証、アジャイル開発などキーワードは幾つかありますが、中でも仮説検証は非常に強い軸です。
「やってみること」が重要なのは言うまでもありませんが、仮説を立てた上で実践することで学びが段違いに大きくなります。
他のケイパビリティを身につける上でも、仮説検証の考え方がポイントになると思います。

田中様:
社内で期待されているのは、具体的なプロダクトやサービスを生み出し育てていくことです。
それが出来る組織を目指すには、仮説検証を実践しながら習得していく必要があると思います。

小泉様:
機動力を上げるためのケイパビリティが必要ですよね。
機動的に動ける組織になるためには、小さくやってみて、その結果から学ぶことが大切です。
仮説検証を実践することでしか得られない感覚や学びがあると思います。

市谷:
まさに、組織として「探索」「適応」の術を獲得するためにまず必要なものではないかと思います。

(手前から、小泉様、田中様、青柳様)

共創には大きな価値と可能性がある

市谷:
皆さんのラボの具体的な取り組みについてお聞かせください。

青柳様:
一言で言うと、アジャイルに取り組む事業部を支援する「アジャイル伴走」のビジネス化を目指して取り組んでいます。
その中で、「ローコード」「ノーコード」は一つのポイントです。
新しいことに挑戦しようとするとき、まずは似たような前例を下敷きにして始めることが多くなります。
細かい部分については個々の必要性を問うことなく取り入れることもあり、重厚長大になりがちです。
そこにメスを入れるという意味でも、「ローコード」「ノーコード」に「アジャイル」を掛け合わせる形で、小さく始めていく進め方に伴走し支援できないかと模索しています。

具体的には、スクラムを回しながらノウハウを集めたり、他部署のアーリーアダプターを伴走支援したりといった取り組みをしています。

田中様:
ソリューションの種を探す取り組みと並行して、仮説検証とアジャイルのケイパビリティを得るための取り組みをしています。
外に向けた情報発信もしています。同じ目的を持つ人たちに私たちが今取り組んでいることを広げていくことで、より大きな変化の可能性を感じています。

市谷:
事業化につながる共創に積極的に取り組んでいるのですね。
一般的に共創というと、A社とB社がお互いに持っていないものを掛け合わせるというような意味合いが強いと思いますが、皆さんの取り組みでは社内と社外とを掛け合わせている点が特徴的だなと思います。
これは意図的にそうされているのでしょうか。

小泉様:
最初から意図的に行っていたわけではなく、取り組みを進める過程で見出した一つの「勝ち筋」として方向性ができてきたように思います。
共創ではマインドが合うかどうかが重要なポイントで、会社が違ってもマインドが合えば非常にいい状態で新しいものが作れますし、逆にどんなにいい組み合わせに見えてもマインドが合わなければうまくいきません。

青柳様:
共創には大きな可能性がありますよね。
ラボとしてそこに取り組むことは非常に重要で価値あることだと感じています。

田中様:
我々のラボでも他の部署でも、単独ではコア領域で持っている業務スキルや知識に偏りがありますから、それぞれが持っているものを掛け合わせることで大きな可能性が広がります。

お互いに「なんでやってくれないんだ?」といった不満や怒りをぶつけ合うよりも、「一緒にやろうよ」と働きかける方が期待値が上がります。
協力して何か新しいことをやってみるという機会は今まであまりありませんでしたから、環境が許すのであればぜひ経験してみたいですね。

(田中様)

小泉様:
こちらに対して不満や不信感を持った相手と一緒に取り組もうとするとき、最初から重厚な計画を作りこんでしまうと反発や抵抗感といったネガティブな感情につながる危険性があると思います。

そんなときこそ、アジャイルや仮説検証のライトな概念がフィットするのではないでしょうか。
「ちょっとやってみて様子を見ようよ」というスタンスが、ネガティブな印象を期待感へと変えるポイントになるかもしれませんよね。

市谷:
皆さんがおっしゃっている共創のイメージをサッカーに例えると、ちょんとボールを出して、パッと受けとめて、またボールを回して、というような軽快なボール回しが思い浮かびます。
今までのやり方は、予めボールの流れやゴールまでの動きを決めてその通りに動こうとするものだとすると、だいぶ違ってきますよね。

小泉様:
後者では「Win」と「Lose」が必ず生まれてしまいます。

青柳様:
巻き込まれた側には選択権がなくなってしまうということですよね。

印象に残っている出来事

市谷:
一年間の取り組みのなかで特に印象に残っている出来事はありますか。

小泉様:
合宿の重要性でしょうか。
ラボ開始からしばらくは、合宿の必要性は認識しつつも、本当にできるのか?どうやってやるのか?やってどうする? といったことを考えては消極的になっていました。
実際は、時間と場所を決めてしまえばすぐできるんですよね。
合宿の前と後では、だいぶ感覚が変わりました。
中でも「なぜラボの活動をやるのか?」という点を訴求できたことが一番重要だったと感じます。
本当はスタート時に出来れば良かったのかもしれませんが、あの時期まで悩んでからやったというのも我々にとっては良かったのではないかと思っています。

青柳様:
私はレッドジャーニーさんとの関わりは限定的でしたが、その中でも市谷さんとの1on1は印象に残っています。
問題点を的確に指摘してくれましたし、その上での方向性も提案してくれましたよね。
次のアクションを考えやすかったですし、漠然とした課題感や見えていないことに気づくきっかけになりました。

田中様:
私は、繰り返す事の効果や重要性が印象に残りました。
取り組みがなかなかうまくいかない中で、同じことを丁寧に3周くらい繰り返して、最終的にはインタビューで最初には得られなかったようなフィードバックを得られるようになりました。
おぼろげながら「検証するってこういうことなのかな」とつかめたような気がした貴重な体験でした。

後編に続きます