DXの取り組みを進めていくと、それぞれの組織特有の課題が見えてくるものです。その中でも多くの組織に共通するのが人材育成と組織変革の難しさではないでしょうか。2020年から始まった日本生活協同組合連合会(日本生協連)のDX-CO・OPプロジェクトも、同様の課題をスタート当初から危機感とともに抱えていました。レッドジャーニーとの関わりが大きな転機になったと語る(事業企画・デジタル推進本部 執行役員 本部長)の八木沼様。およそ半年間の伴走支援を経た今、「協同組合である生協ならではのDXとしてDX-CO・OPプロジェクトを絶対に成功させたい」という力強い言葉には、どのような想いが込められているのでしょうか。
(聞き手:レッドジャーニー市谷)

「DXレポート」をきっかけに、始まるべくして始まったDX-CO・OPプロジェクト。

はじめに、今回のDXプロジェクトが立ち上がった背景を教えていただけますか。

まず一つは、事業全体の解決すべき課題としてデジタル面の課題が明確になったことです。

「2030年ビジョン」を掲げ「心豊かな暮らし」を実現していこうとしたときに、主軸となる宅配事業を通して永く支持されるにはどうすればいいのか、ということが検討されました。

宅配事業では、若年層からの支持の薄さが既に課題として明確になっていました。今は口コミもSNSなどのデジタルが主流ですが、生協では昔ながらの紙ベースで口コミを集めていましたし、口コミに限らず広報誌やお便りなど紙ベースでのコミュニケーションに頼っていたことで、どんなに発信しても一番アプローチしたい若年層には届いていなかったのです。

この事実が決め手となり、宅配事業が成長し続けるためには、SNSも含めたデジタル化を進めることが必要不可欠だという結論に達しました。また、他の事業分野でも、現状の課題を整理し、解決策を練っていくとデジタル面の課題が多く浮かび上がってきました。つまり、事業全体の解決すべき課題として明確になったわけです。

事業課題の深堀りがDXの切り口となったわけですね。

もう一つあります。それは、組織的な背景です。運営や仕事の進め方など、組織を根本から変えていかなくてはならないという危機感がありました。

きっかけとなったのは2018年に経済産業省が発表したDXレポートです。「2025年の崖」の話は相当インパクトが強かったですね。人材育成をどのように継続していくのか、特にデジタル人材についての課題感は全国の会員生協に共通していて、もはや個々で対応すべきレベルを超えているのではないかと感じていました。

元々、日本生協連は会員生協から求められたことに対応するという仕事のスタイルをとっています。「2025年の崖」の話を受けてDX推進をどのように進めていくのか、特にデジタル人材をどのように育成していくのか、方針をいかに提示していくかが問われていました。

1990年代頃の生協は、流通小売としての「規模」を求めていましたから、そこで成果を上げるためには「いかにして調達力を高めモノを動かすか」ということが重視されます。一方、「後方はできるだけ軽く」という方針のもとでシステム部門は統合されていきました。人を育てるための仕組みもどんどん集約されていき、脈々と築かれてきた組織構造は崩壊寸前、人材育成は先が見えない状況に陥りました。

そこで、デジタルを軸とした組織変革の必要性が浮かび上がってきました。「始めなければ」「やらなければ」という機運の高まりとともに2020年、DX-CO・OPプロジェクトが立ち上がりました。

まさに「始まるべくして始まった」ということですね。

ツールを導入するだけでは変わらない、組織を変えるために大切なこと。

2020年10月頃からプロジェクトに関わらせていただきましたが、その前はどのような状況だったのでしょうか。八木沼さんからご覧になってどのような課題がありましたか。

新しいことへのチャレンジが弱いということと、組織内部のトランスフォーメーションの難しさが課題でした。いずれも、組織としてDXに向かう方向性がうまく揃っていなかったのだと思います。

推進面での課題は2つの切り口があると思います。一つは、既存の事業をデジタルでどう盛り上げていくのか、既存の課題をどう解決していくのかということ。もう一つは、新しい課題にデジタルの力でどうチャレンジしていくのか、ということです。

私たちの組織では後者が圧倒的に弱く、プロジェクトが始まって2年経った今でも、まだまだ弱い部分だと感じています。今は前者に注力している段階ですが、試行錯誤を繰り返してもまだ形すら見えてきていません。

またDXの環境面では、ツール導入などの取り掛かりはすごく良く環境整備は進むのに、導入したツールを活用して組織運営や仕事の進め方を見直すといった実際の取り組みには結びつかないという問題があります。

例えば、「紙文化を脱出するんだ」という意気込みのもと、コミュニケーションツールとしてMicrosoft 365 を導入したのですが、実際の仕事の仕方は相変わらずアナログでメールを使っているという具合です。

そうした組織風土や仕事の仕方を変えるトランスフォーメーションが、一番難しいところだと感じます。恐らく、世の中でいうところのDX失敗の典型例がこういったことなのではないでしょうか。

そうですね。ツール、道具を変えたら終わりではなく、むしろそれからが始まりですよね。DXの取り組みで最初期に直面することだと思います。八木沼さんは、組織の考え方や風土を変えていくために、どのような進め方や働きかけをしていこうと考えられていたのでしょうか。

組織が変わるときにはバランスが大事です。ボトムアップだけではなかなか変わりきれませんし、同様にトップダウンも重要だと思います。つまり、意思決定の段階までは議論を重ねるなどボトムを重視したとしても、その後の実行の段階ではやはりトップダウンのウエイトが大きくなるのではないでしょうか。

大きな組織であればなおのこと、決定された方向性については各ラインの責任者が推進力をもって進めていく必要があります。組織が変わるときには、このトップダウンとボトムアップのバランスが非常に重要だと思います。

日本生協連(日本生活協同組合連合会)の指し示す方向性や振る舞いを、全国各地の会員生協は常に注視しています。DXにしても、日本生協連が旗を振ったのを確認してから会員生協もその流れに乗っていきました。昔からこういった体質、文化があるのです。

ですから、全国の会員生協でDXが進み人や組織が変わるためには、まず日本生協連がその取り組みを示し、自らトランスフォーメーションする姿とそれにより成功していく姿を見せていくことが重要です。

一歩ずつ行動と成功の足跡を示すことが重要だということですね。

その通りです。
まずゴールを示して、さらにそこへ向けたルートも示してからでないと動き始めることができないというのは、大きな組織ならではの体質だと思います。明確な目的と進め方が出そろってから、ようやく取り組みを始めるわけです。

でも、実際はある程度取り組みを進めてみないと何が最適か分からない部分が多いのではないでしょうか。少なくとも現時点で捉えられる段階まで進めてみて、はじめてその先が見えるということはあると思います。

けれども、小さな成功を積み重ね検証しながら進むというアジャイル的な取り組み方はなかなか根づきません。そのような課題を抱える企業は多いのではないでしょうか。