レッドジャーニーが日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)のDX-CO・OPプロジェクト(以下、DXプロジェクト)に伴走し始めて、およそ半年が経ちました。テーマが乱立しどんなチーム体制で進めていくかの作戦が無い、そんなカオスのような状態からどのように取り組みを進めてこられたのか、プロジェクトマネージャーの新井田様にうかがいました。
(聞き手:レッドジャーニー市谷)

2030年ビジョンから始まった日本生協連のDXプロジェクト。

まずはじめに、日本生協連で取り組まれているプロジェクトの概要について、どのような狙いがあるのか、またその先のビジョンをどのように捉えていらっしゃるのか、教えてください。

そもそもの目的は、2030年になっても生協の活動が継続して行えるような取り組みをしていこうという「2030年ビジョン」です。

このビジョンに向けた取り組みが組織的に進められる一方、「このままでは駄目だ」という別の声が内部であがったことが、DXプロジェクトの元々の始まりでした。「ITの力を使って生協運動を盛り上げる」ということは「2020年ビジョン」にも書かれていたのですが、実現したとは言えませんでした。

それから2030年までのこの10年間は、ちょうど生協内での世代交代の時期と重なります。生協を取り巻く環境が変わることも踏まえ、危機感を訴える声があがったのです。そして、これを機に日本生協連と全国の地域生協との関係を改めて構築し、今後の生協活動を作っていこうという目的の下、このプロジェクトが立ち上がりました。

まず最初に行ったのは目的にあったビジョンを描くところからです。10年後、20年後も生き残っていけるような取り組みをするために、「これからの生協」という今後の生協のあり方を描いたストーリーをまとめました。「これからの生協」を軸に2030年ビジョンを実現するための施策を生み出し、メンバーが集められプロジェクトが本格的に動き出しました。

世代交代のタイミングということで、「これからの生協」を担う若手の方々に未来のことを考えてもらう狙いもあるわけですね。
大きな組織ではなかなかここまで大きな動きには展開していかないことも多いと思うのですが、生協ではそれができたというのはどういった要因があるのでしょうか。

ただ、「売り上げを伸ばす」「組合員を増やす」「労働環境をよくする」といったことはずっと掲げてきていて、当たり前のことなのに実際はなかなか思ったようにできていないという問題意識は、組織全体の中にありました。ですから、発想をがらりと変えていくくらいのプロジェクトを起こそうという動きは、すぐに浸透し、広まったと思います。
大事なのは、そのきっかけだったわけですね。まず「このままでは駄目だ」という声をあげること、それに同じ思いを持っている人たちがともに動いて、具体的なアクションへと繋げたことが要因だったんだと思います。

プロジェクトの立ち上げは大きな合意から始まったのですね。立ち上げ後は、実際にどう実現していくか、となると、いろいろな問題が山積したかと思います。いざ進めるとなってからは、どのように取り組んでこられたのでしょうか。

まずは、2020年2月から半年くらいを準備期間として、先進的な取り組みをしている方たちの話を聴きに行きました。情報集めをしたわけです。そのなかで、今でもプロジェクトに関わってもらっているパートナーのみなさんたち(外部からの協力者)と出会い、共に進めていただくことになりました。

パートナーとの出会いがあったのですね。一方で、現在の日本生協連のみなさんは外部の方頼みというよりも「自力でやっている」というイメージが非常に強いです。

それは、パートナーに恵まれたのだと思います。日本生協連として元々お付き合いのあった方もいましたし、みなさん「今ここにいる人たちで、悩みながらがんばって進めるしかないんだよ」という、当たり前のことを言ってくれる人たちでした。つまり、難しいところも含め、日本生協連側のメンバーが「当事者」として動いていけるような進め方をしてくれたのです。

ただ、集められた日本生協連のメンバーのなかには決められたことをやればいい、と考えていた人たちが多かったのも現実です。そうしたメンバーが、プロジェクトが立ち上がっていく中で、だんだんと自分たち自身でやらなくてはならないのだということに気づいていきました。幸い、若く優秀なメンバーが多かったので、比較的スムーズに新たな取り組みの姿勢になじんでいったかと思います。

メンバー全員が当事者として進めていくというのは、難しさや痛みもかなりあったと思います。そんな難所を皆さんで乗り越えていこうとする意志を、伴走する中で特に感じました。これからも、皆さんがハンドルを握って変革のドライバーであるという意識をもって取りくみ進めて参りましょう。

越境し横断的な役割を果たす人が必要。どっぷり入っていかないと、人の気持ちは分からない。

今回のDXプロジェクトで、新井田さんが果たされている役割についてご自身ではどう捉えておられますでしょうか。

プロジェクトにおいて、各テーマで起きる問題や解決が難しいところを、できるだけ先回りして通りがいいようにしておくことが任務だと思っています。スクラムマスターというよりも、スクラムマスターが困る仕事をやっつける、もしくは整理しておくという役割でしょうか。

日本生協連では、単一のテーマプロジェクトではなく、複数のテーマプロジェクトのチームが並走しています。各チームにスクラムマスターにあたる役割の人たちはいますが、いきなりスクラムマスターを務められるわけではない。だからこそ、新井田さんがチームを横断して関与する役割で「スクラム・オブ・スクラム」のイメージで関わりをもっておられる。先回りすべきところに積極的に動いておられて、重要な役割を果たされています。
ただ、そのようなメタ的な(横断的な)役割をDXプロジェクトの体制の中で最初から置くというのは、なかなか他では見られないことです。

私が以前所属していた地域生協は、縦割り型の組織だったので横断的に振る舞う人が当たり前のように必要でした。システム部門がその任務上、各部署との関わりが深くなるため、当時システム担当である私が担っていました。

このDXプロジェクトが立ち上がったときも、横断的に振る舞う人がいないとうまくいかない、と肌で感じましたので、自然に動きを取り始めましたね。

横断的に、俯瞰的に見るということはあっても、その先は現場任せというやり方も多いと思うのですが、新井田さんは違いますよね。現場のメンバーと一緒になって困難を背負い、課題に取り組んでおられます。そういった関わり方は、意識的にされているのでしょうか。

意識的にしないとできないと思いますね(笑) また「本当はお前の仕事じゃないだろ」と言われることもありますが、やはりそういうことが好きだということもあります。あとは、自分の先輩方が行動をされていたということも影響しています。

そういうことをしなくても回るような仕組みがある組織ならいいでしょうけど、大体の組織では誰かがやっているんですよね。やっぱりどっぷり入っていかないと、人の気持ちは分からないと思います。

このDXプロジェクトに参加したときは、地域生協から来たシステム担当の人だ、という程度の認識で、警戒されていたというか、当てにされていないわけです。どうしたら信用してもらえるかということを考えて、そういう関わり方をしていましたね。

信頼を得るために、一緒に汗をかいていたんですね。新井田さんがおっしゃる、先輩の背中を見る、やっていることを真似してやってみる、ということは、今の組織では少なくなってきているのかもしれませんね。新井田さんの背中を見て、若手のメンバーの方たちにも何か伝わることがあるといいですね。

「そういうことをやらないと回らないことって多いよね」というのは、今の若手のメンバーたちにも残ると思うんです。大したことではないんですよね。お互いがちょっとずつ重なるところを、線を引いて分けるのではなく、みんながやっていけばいいと思うんです。

だから私は、市谷さんがおっしゃっている「対話」ということにはすごく共感できるし、そのための「越境」(組織やチーム、前提や認識を越えて関わり持つ) ということも、その通りだと感じます。

やはり越境しないと声が聞こえないし、こちらの声も届かないので、対話に至らないですよね。対話ができれば、その先にまた一緒に進んでいこうという、次の展開が生まれます。