DX活動に取り組むチームでは、メンバーや関係者それぞれの持つバックグラウンドの違いやコミュニケーション不足による認識や行動の「ズレ」を抱えています。チームが大きくなるにつれて、また活動が進み広がっていくにつれて、「ズレ」は少しずつ大きくなり、新しい「ズレ」も次々と生まれていきます。バラバラになりがちな組織DX活動を成果に結びつけるためには、どのようにチームを運営していけばいいのでしょうか。
2022年3月15~17日の3日間にわたってオンライン開催された、レッドジャーニー初のカンファレンスである『Red Conference』のDAY2では、日本生活協同組合連合会の峰村健史様と新井田匡彦様にご登壇いただき、DX-CO・OPプロジェクトの取り組みについてお話をうかがいました。全国組織ならではのチーム運営の難しさと、そこから得られた気づきについてのお話は、きっと多くの方の参考になるのではないでしょうか。
前編では、レッドジャーニーの市谷による「組織でアジャイルの”回転”を繋ぐ 意図と方針と行動のつなぎ方」と、新井田匡彦様による「DX-CO・OPプロジェクト 価値、プロセス共有の難しさ」の概要をお届けします。
※役職、肩書は当時のものです。
組織でアジャイルの”回転”を繋ぐ 意図と方針と行動のつなぎ方
株式会社レッドジャーニー 市谷聡啓
市谷 聡啓
株式会社レッドジャーニー 代表
DevLOVE オーガナイザー
サービスや事業についてのアイデア段階の構想から、コンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイル開発の運営について経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサー、アジャイル開発の実践を経て、自らの会社を立ち上げる。それぞれの局面から得られた実践知で、ソフトウェアの共創に辿り着くべく越境し続けている。訳書に「リーン開発の現場」がある。著書に「カイゼン・ジャーニー」「正しいものを正しくつくる」「チーム・ジャーニー」「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」がある。7月21日に新著「組織を芯からアジャイルにする」を刊行予定。
組織にDXの「芯」をつくる
DX推進における最大の難所は、DXを進めるプロジェクトなり部署なりを、どのように運営すればよいのか?ということです。「改革」と言って相応しい活動を進めるためには、原動力となる「芯」が必要です。では、「芯」とはどのようなもので、どうやってつくればいいのでしょうか。
我々の意思決定と行動を細かく見ると、「意図」と「方針」と「行動」という3つの段階があります。別の言い方をすると、「WHY」「HOW」「WHAT」となります。何らかの意図や狙いに基づいて方針を作り、それに則って行動を起こします。大事なのは、一方通行ではなく相互通行で行き来するということです。今まで経験したことのないことに挑戦するのですから、行動した結果から方針を調節したり、狙い(意図)を変えたりすることは頻繁にあって然るべきです。
まずは、一つのチームで芯をつくりましょう。このとき「意図」にあたるのは、「我々はなぜここにいるのか?」というチーム・ミッションです。「方針」は、ミッションに基づくスプリントゴールを置くことであり、「行動」は、スプリントゴールに基づいてバックログを決め取り組むこと。これらを逆方向にも取り組みます。つまり、スプリント終了時点でスプリントレビューとふりかえりで適応し(行動)、設定するスプリントゴールにフィードバックを与え(方針)、チーム・ミッションを捉え直して、むきなおり(再定義)をします(意図)。
OODAをDX推進部運営の基本概念に
ふりかえり、むきなおりはとても重要です。もし、年に一度も行っていないようなら、DXを進めるにあたって相当まずいと認識すべきです。さらに別の言葉で言えば、探索と適応の回転をつくることが必要です。何をなすべきか、選択肢をあげて検証、実験、試行を行い、その結果を踏まえてやることを決めます。そして、やった結果を踏まえて次の意思決定をすることが必要です。
DXは、1つや2つのチーム、ミッションではなくある程度の規模で取り組みます。組織の規模が大きくなっても「芯」が中心となりますが、組織の規模が大きいと、意図、方針、行動を考えるレイヤーが分かれていきます。経営が意図を、現場が行動を、間をつなぐマネジメントが方針を定めるという具合です。このメンタリティは中央集権的階層構造の呪縛がベースとなっており、もう少し解像度を上げて捉える必要があります。
現場、マネジメント、経営が、それぞれに意図・方針・行動の構造を行き来しながら進めていきます。ポイントは、異なるレイヤーでレベルを合わせようとしないことです。経営の意図を組んで、マネジメントが方針をつくり、意図と方針がずれていないかを確認します。行動は現場が判断し、現場が捉えている方針とマネジメントの意図を合わせます。
DX推進部の運営の基本概念として「OODA」を持っておきましょう。Observe、Orient、Decide、Actを回していく仕事の進め方です。たとえ難しくても、複数のチームがそれぞれにOODAのループを回さなくてはなりませんし、経営やマネジメントもOODAで進むべきです。
全員で「むきなおり」を
「考える人」と「動く人」に分かれるのではなく、全員がOODAで取り組みます。バラバラになりがちな全体OODAの判断軸をぶらさずに、なおかつ速度を落とさないためにはどうすればいいのか?これはDXの難題ですが、そのためには全体で取り組むための仕組みが必要です。OODAの2つ目の「O」であるOrient=判断基準や方向性を揃える必要があります。先程の構造で言うと「意図」あるいは「WHY」にあたります。ここが揃っていなければ、その後の行動もずれていきます。
要するに、全員で「むきなおり」をしましょう。取り組みを積み重ねていくと、必ず何らかの結果が出ます。「意図」「方針」「行動」の繋がりが的を射ているか、プロジェクトの大義名分(ミッション)をどれくらい果たせているのか、ふりかえり、フィードバックから探索と適応の回転をつくっていきます。組織変革は難しい取り組みで、一人や二人ではとても成し遂げられません。変革の「芯」は、マネジメントや経営も含めたチームの一人一人に宿ります。一人一人がチームの意図に基づいて動くことができれば、すべての活動は実を結ぶことでしょう。
DX-CO・OPプロジェクト 価値、プロセス共有の難しさ
日本生活協同組合連合会 新井田匡彦 様
新井田 匡彦 様
日本生活協同組合連合会
事業企画・デジタル推進本部 システム企画室 スタッフ
1987年にみやぎ生活協同組合に入協。生鮮担当として店舗にて勤務。1992年にシステム部に移動。 1996年に生活協同組合連合会コープ東北サンネット事業連合システム部へ出向。 店舗統一商品システム開発、統一共同購入システム開発を担当。
2020年7月よりDX-CO・OPプロジェクトに参加するため日本生活協同組合連合会へ出向。プロジェクトのサブリーダーを担当。
生協のDX活動と特有の難しさ
生協の代表的な事業は宅配、店舗、共済です。利用者である組合員の各種サービスの利用状況については、以前からデータとして蓄積されていたものの、そのデータを活用して次のアクションに繋げることが出来ずにいました。DX推進の流れの中、新しい体験を創出する必要性が高まり、DX-CO・OPプロジェクトが立ち上がりました。日本生協連とコープ東北サンネット事業連合、コープデリ連合会、東海コープ事業連合と4者共同で組合員の新しいくらしの実現を目指す、生協の横断的な取り組みです。私は、2年前から参加し活動していますが、事前知識を得ることなくノーガードのまま入ってしまったため、いろんな苦労がありました。今日は、気付いたこと、特に価値・プロセス共有の難しさと活動内容についてお伝えします。
生協内部には、組合員、生協、事業連合、日本生協連の大きく4つの組織があります。全国各地にある生協は、それぞれが独立して事業を行っています。事業連合は、各生協の負担を削減し合理化を図るために90年代から全国で作られ、隣接する県や地域でまとまって運営を行う生協の集合体です。私の所属する日本生協連(日本生活協同組合連合会)は、商品やサービスを生協に提供する後方支援の役割を担っています。
今回のプロジェクトは、我々日本生協連と生協(事業連合)との合同で始まりましたが、それぞれが独立した事業体であるため、スタート当初から立場の違いによる「ズレ」が生じていました。最初は価値や目的が一致してうまくいっていても、細かい部分や中長期的な展望を共有しきれていないために次第にズレていったこともあります。それぞれの組織で新しい取り組みや変化への抵抗もありましたし、組合員との距離感によっては良かれと思ったことがフィットしないこともありました。また、プロジェクトが進むにつれて組織も世の中も変わりますし、人事異動で担当が変わると考え方や優先順位、中長期計画も変わっていきました。こういった「ズレ」が思った以上に大きく、認識の甘さを痛感させられました。
体制を整え、ツールを活用して次のステージへ
目的や価値のありようを共有したいという想いはあるものの、完全一致は難しいことが、この2年でよく分かりました。ただ、具体的な行動を一致させるのは難しくても、意図や方針は一致させられるはずです。その一致できるところで、いかにしてプロジェクト運営を進めていくかがポイントです。一致しないこと、さらに変化し続けることを前提として、どのように次の行動へ繋げていくのかが大きなテーマです。
対策として、共有に向けた柔軟な取り組みが大事だと思っています。その一つが、「一致していないところ」を見立てることです。見立ての精度を上げ、行動に繋がる部分を組み立てていく必要があります。何らかの理由があるから一致しないので、一致させるための必要な準備をし、体制を整えれば違いは埋められるはずです。これからチームで取り組んでいきたいと思います。
もう一つは、コミュニケーションツールの活用です。コロナ禍で否応なくリモート化が進み、コミュニケーションツールが活用されるようになりました。リアルなコミュニケーションよりも疎遠になりがちな一方で、有効な部分もあります。特にチャットのやり取りでは、普段の会話の様に進めることができますし、相手の状況に対して負荷をかけずに済みます。この3年ほどの間で皆使い慣れてきたと思いますので、場所を選ばず活動できる状況をフルに使って、共有の難しさを克服しながら今後の活動を進めたいと思います。
後編に続きます。
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