新しい事業やプロダクトを作ろうとする場面で、漠然とした浅い仮説しか立てられないということはありませんか。まだ世の中に存在しない新しい価値を生み出そうとするのですから、構想がうまくまとまらないのは当然とも言えますが、仮説が曖昧なままではチームは前に進めません。「ナラティブプロトタイピング」では、文章という形にする過程でプロダクト作りの解像度を高め、さらにチームの理解を深めながら、構想を作っていくことができます。レッドジャーニーが支援を行い、ナラティブプロトタイピングに取り組まれた、NECネッツエスアイ株式会社 ネットワークソリューション事業本部 キャリアソリューション事業部 事業開発推進部笹峰 慎司様に、取り組みの様子や成果についてお話をうかがいました。(聞き手:レッドジャーニー 市谷聡啓)
※役職、肩書は当時のものです。

NECネッツエスアイ株式会社 笹峰慎司様(左)、レッドジャーニー 市谷聡啓(右)

参考:ナラティブプロトタイピングについて

よくある仮説キャンバスの状態。こんな風になっていませんか?
仮説が浅くなってしまう理由は2つあります。
カスタマージャーニーマップでは仮説を「語る」にはまだ足りません。このソリューションの使われ方について、どれくらい「長話」できますか?
ナラティブプロトタイピングとは、ストーリー形式(小さな物語)で「問題が解決されていく状況」や「ニーズが満たされていく様子」を表現する手法です。
ナラティブプロトタイピングの段取りはこんな感じ。
ナラティブが描けたら、仮説検証に出よう。十分なフィードバックが得られたら、ナラティブから仮説キャンバスにトランジションします。

より詳しくは、こちらをぜひご参照ください。
ナラティブプロトタイピング プロダクトメイキングに「物語り」を取り込む』 市谷聡啓

解像度を高めつつ構想を作る、ナラティブプロトタイピング

市谷聡啓(以下、市谷):今回、ナラティブプロトタイピングに取り組もうと思われたきっかけを教えていただけますか。

笹峰慎司様(以下、笹峰様):以前、アジャイル型仮説検証について市谷さんにご相談した際、物語の形式で未来の事業を作るナラティブプロトタイピングが私たちの取り組みに適しているのではないかとご提案いただきました。今回、自分たちのソリューションを検討し直すことになり、ナラティブプロトタイピングを部門として取り入れられないかと考えたのがきっかけです。所属部門の部門長も一緒に、あらためてお話をうかがいました。

※参照:NECネッツエスアイ株式会社での仮説検証支援インタビュー記事(2021年6月)

市谷:あらためて説明を聞いてみて、どんなことをお感じになりましたか。

笹峰様:ナラティブプロトタイピングという言葉自体には、まったく馴染みがありませんでした。ストーリーとの違いも、説明を聞いてようやくイメージができるようになったくらいです。その後、いただいた資料を読んだり、自分でもナラティブについて調べたりするうちに、ペルソナをはじめとした登場人物を明確化するという視点から物語を描いていき、プロダクト作りの解像度を上げていくという部分が、まさに自分たちに足りないところだと気づきました。解像度を上げるためのスキルを磨きたいと感じました。

市谷:取り組む上で、不安はありましたか。

笹峰:スケジュールが非常にタイトだったことが不安材料となりました。市谷さんにも、随分無理をお願いしたと思います。プレゼン資料を作ることは得意でも、文章で表現することには不慣れなメンバーが多いこともあり、本当に期日までに終わるのか不安でした。

 蓋を開けてみると、最初のセッションでは欠席者がほとんどおらず、セッション終了後も、宿題として持ち帰ったフィードバックについて各自が熱心に取り組む様子を見て、メンバー全員が自分事として捉えられていることを感じました。このメンバーならやり遂げられるのではないかと、不安が確信に変わりました。

市谷:皆さんが真剣に取り組む姿はとても印象的でした。なぜ、そういう取り組み方が実現したのでしょうか。何か工夫されたことなどはありましたか。

笹峰:テーマごとに分けた各グループのリーダーが、メンバーを牽引したことが大きいと思います。チームの日々の活動を、ツールを使って見える化し共有するなどの工夫が見られました。最後に実施した報告会では、事前に作成したナラティブをあらかじめ関係者に配布し、読んでもらった上でテーマごとの報告を行いました。総評として、それぞれのテーマについて成果の解像度が上がり、目に浮かぶように思い描くことができたという評価をいただき、解像度を上げるという当初の目的が達成されたと感じました

活動が具体化し、自分たちのやるべきことが整理された

市谷:ナラティブを描くにあたって幾つかのプロセスに沿って進めましたが、取り組む中で手ごたえを感じたところはありましたか。

笹峰:プロセス立てて必要な要素を洗い出していくことで、気づけば一つの文章として繋がっていった感じがします。文章力に自信がなくても、最終的にストーリーができるという点で、ナラティブプロトタイピングという手法の良さを実感しました。

市谷:ナラティブのプロセスでは、メンバーからいろんな意見が出ることが重要ですが、その点ではどうでしょうか。

笹峰:テーマの内容によって差があったように思います。まったく新しい取り組みをテーマとしたグループでは、最初からメンバーが活発に意見を出し合い、時には衝突しながら、いい議論ができていました。私のいたグループは「防災」がテーマでしたが、既にその分野に詳しいメンバーがいたこともあり、経験の浅いメンバーは意見を出しづらいところがありましたが、市谷さんから他の可能性について指摘をもらったことをきっかけに、途中からは防災に詳しくないメンバーからも有意義な意見が出るようになりました。それに対するフィードバックも生まれ、議論が活発になったことでさらに新しい視点が生まれました。

市谷:ナラティブを練り込むことで、テーマそのものが変化するということもあります。今回は、最初は議論が少なく浅かったように見えましたが、途中で私の方からかなり振り切ったストーリーを投げ込んだことをきっかけに、チームとしての意志がどんどん固まっていったのが印象的でした。いい動きだったと思いますし、大きなポイントになったのではないでしょうか。チームの皆さんからは、どのような反応がありましたか。

笹峰ナラティブを通して自分たちのやるべきことや登場人物の背景を考えられたことで、活動が具体化し、課題抽出ができたという点が、共通のコメントとしてあげられました。セッションにも毎回ほぼ全員が参加し、みんなが自分事として捉えていた点は、活動として大きいと思います。自分事として出る意見には説得力がありますよね。

個人の意見を整理することで、みんなが意見を出し合えるチームへ

笹峰:報告会では、半年にも満たない短期間で新しい取り組みに挑みながら、すべてやり遂げた点を評価されました。また、ナラティブについては、事前に文章で理解してから当日の報告を聞くことで、活動の内容やみんなの苦労が非常によく伝わってきたという部門長からの賛辞があり、心に響きました。部門長は文章の大切さについて常々言及されていたので、今回部下がそれを理解し、実際に作り上げた点に感動したのではないかと思います。その思いが伝わってきて、市谷さんに相談して良かったと思いました。

市谷:それは嬉しいです。今後の展望についても、お聞かせいただけますか。

笹峰:今後、この活動を社内で広めていきたいと思っています。有志だけでは推進が難しいでしょうから、組織の方針として打ち出されれば、みんなのモチベーションに繋がるのではないかと考えています。今回の取り組みを通して、個人の意見を整理することで、みんなが意見を出し合える環境が整っていったと感じています。今までは、メンバーが意見を主張することが少なかったので、今後のチームの活動にも取り入れていきたいと思っています。ぜひまたお力を貸してください。

市谷:ナラティブプロトタイピングは、研修でスキルを学んでも、すぐにはうまくいかないと思います。大変ですしコツも要りますから、その点を補完できればと思います。今日はありがとうございました。

※ナラティブプロトタイピングについては、こちらをご参照ください。