アジャイルは時代の要請。

顧客の体験から考え直し、サービスを作っていく。まさに「アジャイル」が求められる領域と言えます。安中さんは、アジャイル開発についてはどのようにお考えでしょうか。

そうですね。アジャイルで進める方が、何を作れば良いのか探索しながら進めるプロジェクトではうまくいくと思いますし、スピード感も上がると思います。

ただ、ベンダーの方々や関係者とキャッチボールのようにコミュニケーションを取りながら進めていくことを意識し、関係が構築できれば、今までの方法でもスピード感自体は出せるはずです。

ですから、「アジャイルで進めれば必ず何かが解決できるようになる」というよりは、今までのスタイルでもちゃんと取り組めて結果を出せる人たちが、よりスピードとパフォーマンスを上げるための仕組みなのではないでしょうか。特に、やっている中で新しく発見できたことをすぐに形にして確かめていく、そんな取り組みを効果的に進める為に必要ですね。

こうしてスピードがあがってくるとビジネス側も大変です。「今までの方がよほど楽」と感じることが多いのではないでしょうか。

今回のプロジェクトでも、それは感じていました(笑) おそらくこれまでとは全く違うスピード感で進めていることになっているのだろうと。その上、関与の度合いも相当に増えることになる。何かを「決める」という頻度もその分増える。安中さんが言う「大変」はこのあたりのことですよね。

そうですね。今まではアイデアを出したり、企画を練り込んでいくところもベンダーの方々がかなり力を貸してくれていましたが、本来はその部分をビジネス側が担えるようにした方が良いと思います。その方が、やりたいことと実現したいことの間の距離をもっと短くできるはずですからね。

そのためには経験や技量が相応に必要で、難しいところです。しかし、これからの時代はそうなっていかないと競争に勝てないと思います。アジャイルは、時代の要請でしょうね

例えば、ある企業では現行のサービスが2~3年で古くなるように自ら仕向けているところがあります。常に新しいものが生み出されるサイクルが既にできているのです。

自社と比較すると、想像以上に大きな差があると感じます。競争に勝つためにはアジャイルであることが前提ということになっていくのではないでしょうか。

それは、意図的に新陳代謝させるということですね。

そうです。保守的と言われる金融業界でも既にそういった方法で成功しているし、そうしないと新しいものをどんどん生み出せませんよ、ということですよね。

そうなると、今までの仕事の進め方とは全然違ってきますので、組織としてどのように進めていくかというところが課題になるのではないかと思います。その一つのカギとなるのは人材育成。この点については、どのように捉えていらっしゃいますか。

人材ということでは、そもそも常にリソースは不足しますし、育成も簡単ではありません。そのためには、ある専門領域についてはやはり業務委託で力を借りながら進めていく必要がある。今回、市谷さんに来てもらったように外部の専門家から指導を受けるという方法も良いですね。

一方で、今回のプロジェクトをきっかけに、社員ならでは良い感覚を持っている優秀な若手社員の存在に気がつきました。そういったメンバーを手挙げ制で集めて、アジャイルや組織運営のノウハウを習得していってもらいたいと考えています。その上でプロジェクトに取り組んでいく。

そして、プロジェクトだけではなく組織運営自体のスピードを高めていきたいと思いますね。アジャイルの手法は、システム開発に限らず組織運営にも適用できると市谷さんからお聞きしました。組織内のコミュニケーションのあり方も、アジャイルに力を入れて変えていかなくてはなりませんね。

半信半疑で取り組んだ仮説検証型アジャイル開発から、大きなフロンティアが見えてきた。

今回のプロジェクトの一番大きな成果は、どのようなことだと思われますか。

結論から言うと、IT部署をはじめ、いろいろ様々なメンバーが参加し初めはコミュニケーションが大変でしたが、お客様に良いサービスを届けようという根の部分、というか、ピュアな動機が共有できて、プロジェクトの方向感が定まり良い方向に向かわせることができました。

最初は「何をつくろうか?」というところから始まって、描いたイメージも拙いものだったと思うのですが、そこから半年ほどでローンチが可能なアウトプットにたどり着いたことは驚きでした。何故あんなことができたのか不思議なくらいです。

アウトプットとして形になっても、後でがっかりすることって多いですよね。「こんなはずではなかったのだけど、どうしてこうなった?」というような、反省することも経験上あります。むしろそういうケースの方が多いと思うのですが、今回のプロジェクトに関してはそういうことがありません。まだまだスモールスタートではあるものの、今のところかなりイメージに近いものができたと思います。

MVPという顧客目線の発想で作り上げていけば、やっぱりいいものができるんだなと思いました。正直、できるとは思っていなかったところもありましたし、促していただいたことを素直に積み重ねた感じですが、終わってみれば意外とできたなと(笑)

基本的なコンセプトはできたので、これからもう少し機能を拡充していけば、狙い通り、ビジネス上のパフォーマンスにもつなげられると考えています。

取り組み当初の状況からすると感慨深いところがあります(笑)

市谷さんとの関わりで、チームビルディングや連携についてもっと学ばなくてはならないと考えさせられました。

今回もスタートのところで部署間の連携がうまくいかず、ミーティングを重ねてなんとか軌道に乗せたという経緯があります。このあたりの立ち回りはなかなか難しいところがあります。そうした中で、よく動いてくださったと思います。

ありがとうございます。そう言っていただけてよかったです。
最後に、今後のアジャイル開発についての展望を聞かせていただけますか。

今はまだ「分かりやすいサービス」にビジネスの成果を求めているところが多く、「本当に顧客が求めているサービス」が提供されていない領域が、実はまだ結構あるのではないかと考えています。大きなフロンティアです。そこで新たなポジションを獲得していく。そのために、アジャイルが必要となるのだろうと感じています。

希望が持てますね。既に次の取り組みも立ち上がりつつあり、「大変」な状況を楽しみながら、プロジェクトや組織の運営をアジャイルに進めていきたいですね。今後とも宜しくお願いします。今日はどうもありがとうございました。