新規事業開発を結果につなげるにはどうすればよいのか?一点突破型の計画駆動で取り組んだ末、なかなか結果が出ないことに行き詰まりを感じている方も多いのではないでしょうか。壁を乗り越えるには何が必要なのか?仮説検証型アジャイル開発の研修プログラムを終えて、チームも事業開発のあり方も大きく変わったと話すNECネッツエスアイの大釜様にお話をうかがいました。
(聞き手:レッドジャーニー市谷)

以前はポイントベース(一点突破型)で取り組んでいた事業開発。

はじめに、大釜さんが取り組んでいるプロジェクトの概要について教えていただけますか。

社内でローカル5G事業に力を入れていくことになり、お客さまから自社を選んでもらうためにはどのような付加価値をつけていくか、つまり差別化できるためのソリューションと環境作りを検討しています。

大釜さんの役割はどのようなものですか。

当初はお客さまもまだ付いていなかったので、事業作りをしながら環境整備もしていかなくてはならない状況でした。誰も事業作りの先鞭をつけようとしない中、自分が先陣をきって切り開いたという感じです。

開発環境や検証環境をつくりたいという方向性は、社内に元々ありましたので、それを私が引き受けることで一緒に進めていくことになりました。

メンバーは最初は6名、構築が始まってからは15名ほどです。その中で推進役として動いていました。現在は幸い、その環境を利用する顧客が付いて案件対応が始まっています。

事業開発について、仮説検証を学ぶ前はどのような状況だったのでしょうか。

以前はポイントベース(一点突破型の計画駆動)でした。つまり、上位層から出された指針に従い、計画を立てて進める感じです。

自分たちで考えても浅いコンセプトになりがちで、上位層には刺さらないことが多かったです。安直だし他の人がやっていそうだという評価です。そんな中で顧客に対する価値を仮説検証を通して考えていくことを学ぶため、仮説検証型アジャイル開発修練7週間プログラムを受けました。

大釜さんから見て、ポイントベースの問題点はどんなところだと思いますか。

ゴールが決まっていることで視野が狭まると感じます。ゴールと言っても実際は一つの通過点なのですが、そこが目的地にすり替わることで、それを達成するためだけに全力で突っ走ってしまうことになります。

目的をプロジェクトのスコープとして捉えている範囲だけに矮小化して捉えてしまいがちです。これでは選択肢も広がりませんし、そのまま進めても期待するような結果には結びつきません。目的から逆線表しか引いていかないので、どんどん焦ってしまうんですよね。

目的を本質的に問い直したり捉え直したりすることもないので、新しい選択肢を付け加えるような大きな路線変更もできません。思えば新入社員の頃から、確実に効率的に目的に辿りつく方法を考え、寄り道せずに真っすぐミスなく取り組むことを教えられてきました。

また、誰がやってもちゃんと同じ結果が出なくてはならないという固定観念も潜在的にあったと思います。

市谷さんとの偶然の出会いから、自分たちに足りなかったものに気がついた。

そういった進め方に限界を感じたきっかけは何かあったのでしょうか。

2019年のとあるツール系のイベントで市谷さんの講演を聴きました。まったくの偶然です。

他の講演ではツール導入の成功例が紹介されるなか、市谷さんは「1周目は誰もついてこないけど回り続ける。2周目、3周目で一人ついてくる、でも4周目に離れるかもしれない。それでもやり続ける」ということを話されていたんです。

あぁ、おもしろいなと思って、帰り道で書籍「カイゼン・ジャーニー」を買いました。

当時、業務が縦割りでコミュニケーションが乏しく、結局やる気のある人だけが新しいことやっている(広がっていかない)ことに悩んでいました。そこで受けた刺激と興奮を、帰って本部長に話したところ、すぐに社内で講演をしてもらえと。それが始まりでした。

あのイベントに大釜さんいらっしゃったのですね!嬉しいです。偶然の出会いがきっかけで仮説検証やアジャイル開発に関心を持たれたのですね。

アジャイル開発という言葉そのものはもちろん、いろいろなところで実践されていること知っていましたが、上位層には魔法の言葉のように捉えられがちだと感じていました。

「これをやったらうまくいく」と思われていても実際は違うということを現場からは説明する機会もありませんでした。講演という形であれば、上位層も含むみんなに届くのではないかという意図があって、市谷さんに講演を依頼させていただきました。

では、7週間プログラムをやろうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。

「仮説検証型アジャイル開発」の話を最初に聞いたとき、仮説が自分たちに1番足りていなかったのだと気づいたんです。

つまり、上位層から提示されたあるポイントについて仮に実現できたとしても、「それが誰にどう響くのか」といった価値の仮説が立てられていなければ、その先が続いていかない。自分たちがそもそもの仮説を立てられていない、検証を行えていない、だから期待するような結果にも近づいていかないのだということを認識したのです。

これを7週間で取り組んで学べるのならぜひやりたいと思いました。ポイントベースで感じていた問題点を突破する鍵が、仮説検証型アジャイル開発にあると感じました。そして、2019年に聴いた市谷さんの講演の話も結びつき、理解が集約されていきました。

実際に7週間プログラムで仮説検証を学び、これから社内でどのように活かしていくと考えていらっしゃいますか。

今は業務に活かす準備段階です。新しいソリューションを作っていく期待があるなかで、仮説を立てて「本当に誰かが喜ぶものなのか」を追い求めてリードをしてメンバーを引っ張りたいと思っています。

仮説検証の考え方は組織の中でもっと広めたい、広めなければいけないと感じています。上位層からのアプローチも大事だと感じる一方で、若手で興味をもっているメンバーもいるので、今回の取り組みが大きな第一歩となると思います。これからも、仮説検証に向き合っていきたいと考えています。