組織変革や新規サービス開発等、さまざまな伴走支援を行っているレッドジャーニー。

今回は、アジャイルコーチサービスを導入している、freee株式会社様へのインタビュー後編です(前編はこちら)。

後編では、新しい取り組みに対する周囲からの反応、現場に起こった変化、今後見据えている未来について詳しく伺います。ぜひご覧ください。

◆聞き手:株式会社レッドジャーニー 中村洋
◆話し手:freee株式会社 yoshiさん、junpayさん、mattsunさん
     株式会社レッドジャーニー 新井剛、森實 繁樹

目次

拒否反応のようなものはなかったか?あったとしたらどのようなもので、どんなことに取り組んだか?

株式会社レッドジャーニー/中村洋(以下、中村):
アジャイルコーチを導入して良かったこと以外に、拒否反応のようなものはなかったでしょうか?遠慮なく話してもらって大丈夫ですよ。

freee株式会社/yoshiさん(以下、yoshi):
粒度やレベル感は置いておき、前提として「アジャイルでやろう」という概念自体は組織全体にあると思うんですよね。なので「アジャイルコーチを外部にお願いしているんですよ」みたいな話を嫌がられたり、めんどくさいと思われたりすることがまずなかったです。そこに予算を使いたいという私の意見にもみんなが同意している感じでした。

ただ、あるチームではリリースで迫っていたこともあり、チーム作りとプロセス作りを今ここでやるべきなのかという疑問は挙がってきました。リーダーからすると「プロセス作りに時間をかけるのが惜しい」という気持ちがあったと思います。たしかに私も話を聞いていてわかるなと思っていました。

とはいえ、プロセスを整えずに無策で進めるのも怖い。私も結構悩みました。ここには洋さんががっつり入ってくれたので、途中からは割り切ってある程度洋さんにおまかせしました。その結果、洋さんが状況を見て「もうサバイバルモードで行きましょう」というサジェストをしてくださったので、リリースも上手くいきましたし、リーダーにとってもアジャイルコーチの柔軟性を体感できる良い体験になりました。

中村:
補足すると、リリースまで2ヶ月だったので、1スプリントも無駄にできない状態でした。「ある程度は目をつぶろう。リリースできた後に、少し時間がかかるかもしれないけど、チームビルディングなどその辺りを整えましょう。その方がみんなのやる気が出ますよね」と話をしました。ある程度は割り切って、支援の形を変えたエピソードがありましたね。

yoshi:
組織やプロダクトのフェーズとしてスピードが優先されている時に、このようなことが起きても仕方ないのかな、と思います。

中村:
金融のチームはmattsunさんから見てどうだったでしょうか。

freee株式会社/mattsunさん(以下、mattsun):
少しあやふやなのですが、最初の方は「プロセスやイベントに時間を充てすぎじゃないか?」みたいな反応はあったかと思います。でも、「自分が疑問に思っていても、まずやってみよう」と言ってくれる人は多いので、継続して取り組めていた印象です。

3か月やってみて私個人の観察で言うと、1日を通してちゃんと認識を合わせて透明性を上げる活動をしていたので「手が空いたから次のタスクやるか」「自分のタスクが空いたからどうする?」というみんなの動きがあったと思います。スプリントごとに「チーム全体のゴール達成のために何をしていくか?」という意識の変革を感じました

中村:
junpayさん、何か補足などありますか?

freee株式会社/junpayさん(以下、junpay):
mattsunさんの言う通り「なんでこんなに時間を長く取るの?」という拒否反応を感じていました。実際に 1 on 1で伝えられたので。その当時、私はうまく説明できなかったですね。「とりあえずやってみよう」と話した気はしますが、よくよく考えてみたら、期待値のズレがあったかもしれません。

「このイベントではこういうことが達成されて、自分たちチームにとってこういう風に役に立つんですよ」ということが、自分も含めてうまく認識できていなかった。以前、自分たちでスクラムを回していた時と同じように、とりあえずイベントをこなしている状態です。たくさん時間を取られて1日作業できないような取り組みがまた増えるなあ、という認識だったのかもしれません。

中村:
面白いですね。 この出来事に対してアジャイルコーチからのコメントはありますか?

株式会社レッドジャーニー/新井剛(以下、新井):
当初、Large Scale Scrum(以下、LeSS)をやっていて、LeSSをやめることやそのほかの変遷があって、徐々にメンバーの発言量やチームへのコミット感がどんどん変わってきたと思います。8月のラーニングセッションの中で「なぜこのイベントをやるのか」「スプリントゴールは何のためにあるのか」「プロダクトバックログアイテムはどういうものがベターか」と、他のメンバーと一緒に話し合いができました。対話ができたのが良いことだなと思います。なので、拒否反応というか、そういう変遷があった気はします。

株式会社レッドジャーニー/森實 繁樹(以下、森實):
進め方のところですが、「今後あれをやるなら、これを先にやっておいた方が良い」という、仕込み優先なタスクの組み上げ方をしている時が当初はありました。そこを、いかに「プロダクトを作っていく・価値を作っていくところにコミットする」という考え方になれるか、大きな壁がそこにあったと思っています。大きな変化ですよね。

アジャイルコーチが関わることによって現場にどんな変化が起きているか?

中村:
変化の話が出ましたが、yoshiさんから見て、現場やご自身にどのような変化が起きていると感じられますか?

yoshi:
3点あります。1点目は、プロセスが洗練されていること。私はたくさんのチームを見ていますが、アジャイルコーチに関わってもらっているチームは、安心感があるんですよね。良い意味で、そこまでヘビーにマネジメントしなくても、自律的に良くなっているのが見えるんです。実際、プロダクトの面でもリリースが安定しています。成果が見えてきているので、VPoEとしては安心している状況が増えているので、そのぶん将来のことに使える時間が作れるんです。

2点目は、金融チームには特に感じているんですけど、チームの団結力みたいなものが、すごく高まっているなと思っています。おそらく、junpayさんとmattsunさんが入る前は、メンバーの増加やリリース内容の変更に伴ってチーム全体が混乱し、苦労しているような状況でした。でも、新しい人と前からいる人がちゃんと融合してできていますし、ちゃんと回り出していて、自信も出てきてるのかなと思うので、すごく嬉しいです。

3点目で、けっこう面白いなと思うのは、freeeの中で目指すキャリアパスに変化が起きていることです。「メンバー100人のスクラムマスターにチャレンジしてみたい」とか、面白いことを言う人が出てきています。組織的にも「あ、それなんか良いんじゃないの?」という空気が出来てきているのは、おそらく会社史上では初だと思うんですよね。そのチーム内で独自でやってる人は今までいたのですが、そこを若者が目指そうとしているのは、1つの大きな変化だと思います。

中村:
yoshiさんご自身の変化は、何かありますか?

yoshi:
外の人に頼るのって大事なんだなと気づきました。普段仕事をしてると「その中でいかに回していくか」と考えがちだと思います。最近は、私は雑な段階で洋さんに相談したり共有してみることが出来るようになってきました。早い段階で、第三者の意見を入れたり客観的な意見を入れたりするのを、出来るようになってきたんですよね。そうすると、自分だけの考えで進めているわけではないので、ちょっと自信が持てます。しかも、それがアジャイルコーチをやっている人なので、知見的にありがたいんです。自信がつくことが増えました

あと、めちゃくちゃ面白いなと思うのは、新卒入社の人やjunpayさんmattsunさんなど、入ったばかりの人をスクラムマスターにいきなりアサインするのは、結構チャレンジングですよね。ただ、それが成り立つような環境が出来ていると思います。組織を作ってる方からすると、すごくありがたいし面白いです。

中村:
面白いですね。いつでも雑に相談してもらって全然大丈夫です。junpayさんはどうですか?

junpay:
メンバーの発言量が増えました。今はゴールを1つにして絞っていますが、前はバラバラになっていたんです。価値を届けるというゴールを見定めた上に、人数もぎゅっと絞ったのが要因かなと思います。

今まで黙っていた人が喋るようになったんですよね。QA(品質保証チーム)のメンバーは、今まで工程の最後の方になって「実はこうでした」と話していました。でも今は、毎日みんなで喋る感じになっているので、大きな変化だと思います。以前は30人くらいのミーティングの中で、話すタイミングすらない状態でした。

自分自身の変化は、スクラムマスターをスキルの1つとして考えられるようになったことですね。私はけっこうジョブホッパーなので、スキルセットを整理しています。例えば、「Go言語ができます」「DevOpsできます」などとスキルがあったら、そこに「スクラムを知っています」「アジャイル開発をやったことがあります」と並べて考えるようになりました。アジャイルやスクラムは体系的に再現性があるスキルとして、自分の中で認知されたんです。新しい人が来ても、ある程度の再現性を持って出来るスキルだと考えるようになりました。

中村:
ステキな話ですね。mattsunさんはどうでしょうか。

mattsun:
チームの変化はさっきお伝えしたので、自分自身が変わったことをお話しします。入社時は、エンジニアリングマネージャーとして採用いただいたので、そこをやっていくぞという中で、急にスクラムマスターをやる話になりました。個人的にはスクラムはすごく好きで経験もありましたが、初めての組織でマネージャーとスクラムマスターを同時にやっていくのはどうなのか?と戸惑いを感じていました。ただ、そこにコーチが横にいてくださったおかげで不安もなく、今まで3年間の経験の中で、ここ3ヶ月が圧倒的に学びが多いです

すごく楽しくできているし、二つの役割を一緒にやるという迷いが今はなくなっていますね。共通項も多いし一緒にやっていきたいなっていう気持ちになっています。

中村:
「楽しい」という言葉が出てきたのが、個人的に嬉しいなと思いましたね。では、新井さんと森實さんから、今の言葉に対するアンサーなどはありますか?

新井:
つるぎチームでは、 みんなが率先して同時編集するようになってきたと思います。その陰では、mattsunさんの方で「誰かやっておいてください」など、 呼び水をしていることは事実です。でも、yoshiさんが言っていた団結力に繋がってきますが、今はみんなが補完し合えていると思います。

タスクのサインアップの時、「こっちは自分がやった方が効率が良いから、じゃああっちをやってね」と、mattsunさんが関わらないところでタスクの受け渡しが発生しています。これはすごくいいことだなと思います。

森實:
アジャイルコーチが関わったからなのかわからないし、皆さんが素晴らしいポテンシャルを持っていたのもあると思いますが「アジャイルはDo Agile ではなく Be Agileだ」とよく言われるじゃないですか。皆さんのスクラムも、Do Scrum だったと思うんですよ。「スクラムって朝会をやるんだよね」「スクラムってプランニングやふりかえりをやるんだよね」という状態だった。

今では「ふりかえりのやり方をどうしようか?」と、取り組みに対する仮説検証が始まっています。ふりかえりのふりかえりが始まっているんですよね。だから、スクラムの活動にスクラムし出したんです。それが私は大きな変化だと思っています。

「アジャイルコーチは問いを投げかけるのがお仕事です」と、当初お話ししたような気がします。私たちが「そのプロセスは何の意味があるの?」「ここで何を実現したいんだっけ?」という問いが皆さんの活動に繋がっていれば良いなと思います。自分たちのスクラムをさらに磨いていってもらえると嬉しいですね。

中村:
ちなみに、yoshiさんは、junpayさんやmattsunさんの変化の話を聞いてどう思われましたか?

yoshi:
たしかに、洋さんには「それ意味あるんですか?」とたくさん言われますよね。言われ続けると、普通に自分の思考に馴染んでくるので、いつの間にか自問自答する状況が生まれています。考え方のフレームが変わっていくのが面白いですよね。仕事を進めていく中で、進め方自体が変わってくるのが面白いです。

この取り組みについて周囲の反応は?

中村:
yoshiさんは組織全体を俯瞰して見ていると思いますが、周囲の反応や声にはどのようなものがありますか?

yoshi:
私は、羨ましいと言われることが多いです。「そういう契約をしたんですよ」と周囲に話していたら、半信半疑というか「どれくらい価値があるのかな?」という反応でした。でも、最近はリアルに実績が出てきている感じですね。

あと、実はアジャイルやスクラムマスターに興味のある人が結構いたんです。Slack チャンネルにも入ってる人が多くて。そういう人たちが実はいたと、可視化されているのが面白いです。

中村:
junpayさんはどうですか?

junpay:
私はまだチーム内でしかスクラムを広げる働きを出来ていないのですが。この前、人と話す機会があって「スクラムって何?」と聞かれました。「スクラムってこういうことですよ」と説明したら、「ふーん。なんかよくわからない」と言われたことがありました。Bizで近くの席にいる人なので、距離的には近いけど、そこの思想の部分は、みんなアジャイルを認識していけば変わるのかなと思います。周囲の反応というより、認識の差を今はひしひしと感じています

mattsun:
私の場合、アジャイルのSlackチャンネルを見ても、金融チームに一番手厚くコーチに入っていただけていたのもわかっていなかったんです。ある意味、当たり前だと思っていたのですが、 やはり圧倒的に恵まれてる環境だなと思います。周りからもすごく羨ましがられている感じはありますね。

取り組みの先に見据える未来は?

中村:
最後に、この取り組みの先に見据える未来について、お願いします。

junpay:
みんながアジャイルやスクラムをやれば、自分が楽になるなって(笑)。最近は、透明性が重要だなと思っています。今は、「Bizが何を考えているかわからないから何を優先したらいいのかがわからない」という状態に開発チームがなっていると思います。そこを、一つの価値に対して大きな組織が丸ごと向かっていくような形になれば良いですね。

中村:
mattsunさんはどうでしょうか。

mattsun:
今の組織でまだまだ良くなるポイントがあると思います。特に、ステークホルダーからしっかりフィードバックを受けていくのは今後はプロダクトとしても大事になってくるところなので、そこをやりたいですね。

もう一点、個人的に思っているのは、スクラムマスター相談会のような横の繋がりを社内で作っていきたいです。自分たちの金融が今1番恵まれていると思うので、それを社内に展開していきたいです。ある意味、エンジニアリングマネージャーとして周辺組織への影響を及ぼせることにも繋がると思っています。

yoshi:
最初の頃から、未来について洋さんとは話していました。将来は、freee流のアジャイルの型を作っていきたいですね。今は、新規プロダクトのチームなど、チャレンジングなことを試しやすいところでアジャイルをやっている状況です。ただ本質的には、freeeって会計のチームだったり、昔からいる人事の大きいチームでも、ちゃんと回したいなと思っている人がいると思います。私自身も、そうした方がいいと思っています。

一方、今のfreeeのスピード感や業務のフェーズも鑑みて、どういう状況がいいのか?と考えて、自分たちで型を作っていきたいです。「型を当たり前に実行していけばアジャイルが実現できる」という世界を作りたいです。

もう一点は、最近洋さんとお話をする中で思っているのは「エンジニアチームだけだともったいない。さらに言うと、プロダクト作りだけに適用するのはもったいない」ということです。例えば、僕が今取り組んでいる「エンジニアが活躍できるにはどうしたらいいか」というサブファンクションを持っているので、そこもアジャイルで進めれば、もっとやりやすくて周囲を巻き込みやすいのでは、と思っています。それが経営まで波及していくと、すごく面白い会社になるんじゃないかなと考えています。

中村:
ありがとうございます。では、最後に新井さんと森實さんから一言ずつお願いします。

新井:
最後の話に繋がるんですけど、愛称をつけるのがfreeeさんは得意なので、いろいろなパターンや型が出てきたらどんどん愛称をつけて自分たちの武器にしていけるといいですね。ありがとうございました。

森實:
開発チームがスクラムをうまく取り扱い、アジャイルになっていくことを支援する役割は、私は早くクビになりたいなと思っていまして(笑)。yoshiさんがおっしゃったような、組織アジャイルをやっていかないと、開発アジャイルが頑張っても素早いゴミの量産にしかならないです。組織全体をこのペースで回していける組織に、freeeさんはなれると私は思っています。次はそういうところのお手伝いができたら良いですね。ぜひよろしくお願いします。

中村:
私も、プロダクト作りや開発組織だけではなく、組織がこうなるといいなと思っているので、引き続き一緒に取り組んでいけたらと考えています。

皆さん、本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。


レッドジャーニーは、アジャイルコーチサービス等の伴走支援を通して、社会、組織、日常における分断をつなぎ直すために今後も努力を重ねてまいります。

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