レッドジャーニーは「ともに考え、ともにつくり、そしてともに越えること」を価値観に、組織変革や新規サービス開発等において伴走支援を行っています。

今回、freee株式会社様にインタビューを行いました。前編では、アジャイルコーチ導入前の社内状況や、実際にレッドジャーニーのコーチと活動した印象などを伺います。

「アジャイルコーチの活用方法は?」「外部のコーチを導入するとどんな効果があるのか?」などを詳しくご紹介しています。ぜひご覧ください。

◆聞き手:株式会社レッドジャーニー 中村 洋
◆話し手:freee株式会社 yoshiさん、junpayさん、mattsunさん
     株式会社レッドジャーニー 新井 剛、森實 繁樹

目次

アジャイルコーチが関わる前はどのような状況でどんな課題があったのか?

株式会社レッドジャーニー/中村洋(以下、中村):
では、最初に自己紹介からお願いします。

freee株式会社/yoshiさん(以下、yoshi):
yoshiです。執行役員兼VPoE(Vice President of Engineer)として、新規プロダクトを開発するチームを見ています。最初に洋さんと知り合った時はVPoEではなく部長職をしていました。当時は、関西で新規プロダクトを作っているチームをマネジメントしていました。現在は、新規プロダクトチームを5つほどマネジメントしています。

freee株式会社/mattsunさん(以下、mattsun):
mattsunです。yoshiさんと同じ、プロジェクト&グローバル船団の金融開発船に所属しています。私は2022年8月に入社しました。入社直後、コーチと相談して、スクラムチームを2つに分けるという変更があったタイミングでした。やっていることは、freeeカードUnlimitedというサービスの開発者兼スクラムマスターを担当しています。

freee株式会社/junpayさん(以下、junpay):
junpayです。スクラムマスター兼エンジニアをしています。2022年2月にfreeeに入社しました。8月までは普通のエンジニアでしたが、mattsunさんと同じくらいのタイミングで、スクラムチームの改善にともなって、スクラムマスター兼エンジニアにクラスチェンジしました(インタビュー後半のみ参加)。

中村:
最初の話題ですが、アジャイルコーチが関わる前はどんな状態で、どんな課題があったのでしょうか。

yoshi:
大きく分けて、2つのフェーズがありました。

最初の段階は、私が関西拠点で新規サービスを作るチームのマネジメントをしていた時です。今から1年半くらい前で、洋さんと初めてお会いしたのはその頃でした。当時は関西拠点を立ち上げて3年ほど経っており、自分たちでより良いプロジェクトの進め方を手探りで模索しながら進めているような状況でした。自分たちなりのアジャイルやスクラムを勉強しながら取り組んでいる状態でした。スクラムマスターもチームの中で希望者を募る形でやってみていました。

その時は、採用を進めている頃で組織が拡大し、2つのチームで開発にあたっていました。新規プロダクトもそれに合わせてガンガン作っていく状況でした。その中で、プロセスをスケールできない限界をみんな感じていたんですよね。毎回手作りでやっていてスクラムイベントの時間などもメンバーの増加に伴って伸びていくような状況でした。

自分たちの感覚でやっていたので「これが本当に正しいのかな?」「今後もこれを続けていっていいのかな?」という不安が現場から出てきたんです。そのあたりを解決したいなっという思いが最初はありましたね。

中村:
それが初期フェーズですよね。

yoshi:
そうです。「自己流でやっていたのをなんとかしたくなった」という課題感でした。

中村:
次のフェーズはどのような状態でしたか?

yoshi:
第2フェーズは、洋さんにコーチとして入っていただいて、関西のチームがうまく回り始めた時です。実際にプロダクトをちゃんとリリースできて、しっかり目的を持ってスクラムのイベントをやれる状況がチームにできつつありました。

それと同時に私がVPoEになって、いろいろなプロダクトやチームを見るようになったんです。そこが重なって「関西でできている良い取り組みを他のところにも適用したいな」と思い、洋さんに相談させていただきました。

今もそうなのですが、社内でチームごとにアジャイルへの取り組み度合いがバラバラなんですよね。やってはいるけど以前の関西チームのように自己流でやっているところも多かったんです。そこに、外部のコーチとして洋さんたちに入ってもらい土台を作っていきたいという段階でした。

中村:
懐かしいです。最初のフェーズでは、がっつりではなく、お悩み相談や壁打ちの形で、週に1〜2回話して「こんなことやってみたらどうですか?」とアドバイスする感じでした。第2フェーズでは、アジャイルコーチ3人でいろいろなチームを見ています。チームにしっかり入っているので、最初の頃と関わり方がだいぶ変わっています。mattsunさんは、第2フェーズからチームに入られましたよね。

mattsun:
そうですね。こんなに昔からレッドジャーニーの方々と関わりがあって、今につながるんだなあと感じました。

なぜアジャイルコーチが必要だと思ったのか?

中村:
アジャイルコーチに対する期待はどんなものだったのでしょうか。

yoshi:
組織とプロダクト開発の両方が同時に拡大していく状況だったので、自分のチームも組織全体も、何か一定の体系的な、しかも継続して取り組めるやり方を取り入れないと、もう組織として崩壊してしまうんじゃないか?という危機感を持っていました。

組織の中にも、アジャイル開発を勉強していたり、自分で資格を取ったりしている人はいました。ただ、その影響範囲はどうしても自分のチームの近くに留まってしまう。だから、仕組み上、そこを横断的なファンクションにするのは、組織的にもまだ踏み切れないし、思い切って決断ができない状況があったんですね。

組織変更するとなると大層なことになるので、 会社的には意思決定がかなり大変です。外部のアジャイルコーチであれば、予算を用意すればすぐにでも何かを試したり取り組んだりできます。その方が即効性があると考えて依頼をしました。

それに、洋さんの名前はアジャイルのイベントやweb上の記事で見聞きしていたので、その部分での安心感も正直ありましたね。僕自身いろいろなイベントに参加して、洋さんの登壇を何回も聞いていました。

中村:
ありがとうございます。アジャイルコーチの必要性について、mattsunさんはどんなことを思っていましたか?

mattsun:
私は入社してからの期間が短いため、既存メンバーから聞いた話ですが、2022年7〜8月で金融開発船のメンバーが倍増したので、スクラムチームを1チームで構成するのは難易度が高い状態だったと聞いていました。チームを分割したタイミングだったので、スクラムに対する知見はもちろん、初対面のメンバーも多い中で、かなりハードルが高い状況でした。そこでコーチに入っていただいたところは、かなり立ち上がりがスムーズだったのでは、と思います。

中村:
ありがとうございます。森實さんや新井さんは、yoshiさんが言ったような「自己流でやっていたのをなんとかしたくなった」「継続的に回せる仕組みを組織に導入したい」という時に外部の知見を使うことに対してなにか思うことはありますか?

株式会社レッドジャーニー/森實繁樹(以下、森實):
新しいことをやろうとする時、模索する経験はもちろん大事です。ただ、最初の段階で一緒にレールを引く活動があると、この後の加速がまったく違ってくると思うんですよね。そういう時にアジャイルコーチを使ってもらい、自分たちで加速できるための投資とする。それが、私たちとしてはすごくありがたい使われ方だと思っています。

株式会社レッドジャーニー/新井剛(以下、新井):
他社の方々もそうですが、 「アジャイルの正しさ」に関して大きな不安を感じていらっしゃる方が多いです。 十数年前、私が初めてアジャイルやスクラムをやり始めた時、「これで合っているのか?」とすごく不安でした。そのあたりをアドバイスしたり、方向修正したりできるのは、良いことだと思います。

アジャイルでは、フィードフィードバックサイクルを早めていくことを大事にしているので、そのためにアジャイルコーチを導入するのは、良い取り組みだと考えています。

なぜレッドジャーニーと取り組もうと思ったのか?

中村:
レッドジャーニーと共にやっていくことにした決め手などあれば、お聞かせください。

yoshi:
一番最初に洋さんとお話した時、私の悩みをしっかり聞いてくれたんです。その時に、洋さんのバランス感覚の良さを感じました。

「今こういう状況です」というのをちゃんと聞いてくれた上で「じゃあ、これをやった方がいいんじゃないですか?」「アジャイルなプラクティスを部分的に取り入れてはどうですか?」と、こちらの状況を汲んだ上で柔軟に返事をしてくれているな、と感じました。

私たちのように「スピード感を持って成長していきたい」と思っている会社は少なからず、「スピード感を落とさずにどうやるか」が絶対的な前提になってくるんですよね。その時に、状況を見ながらいろいろなものを提案したり選択してくれるのは、ものすごくありがたいんです。

逆に、「この取り組みをフルセットでやってください」と言われると、「今の開発スピードにはマッチしないな」となっていたと思います。柔軟性にとても驚きました。

中村:
mattsunさんはアジャイルコーチと出会った第一印象はどうでしたか?

mattsun:
私が印象に残ってるのは、洋さんたちの自己紹介スライドです。「アジャイルコーチってこうやって活用してくださいね」とガイドを頂いたので、どうやって関わればいいんだろうとか、どういう風に相談すればいいんだろうと示してもらったので入りやすかった印象です。

先ほどのyoshiさんの意見を現場でも感じていたので「スクラム的な理想はこうだけど、いきなりやるのは難しい。まずはここからやったらいいんじゃないか」という現状がありました。「まず、ここからやろう」というアドバイスは、現場としてもやりやすいなと感じました。

中村:
そのあたり、新井さんはどうですか?

新井:
「こういう風に活用してください」という洋さんのスライド、すごくわかりやすいなと思っています。「どこからアジャイルコーチに入ってもらえばいいんですか」というお悩みをよく聞くことがあるので、そこを初期の段階で解決できました。それがあのスライドの期待値ですかね(笑)。

森實:
「なんでも相談してください」と言っても、何を相談したら良いのかわからないと何も相談できないです。そこで、まず入口の話として、「アジャイルコーチとは何か」という観点や視点をお伝えすることは、非常に大事なことだと思います。

逆に言えば、それは出口にも繋がっていて「どこまで行けば、この人たちはもういなくてもいい状態なんだろう」と、考えるスタートラインに立てたという意味で良いと思いますね。

中村:
私も、まさに「何に頼って良いかわからないから、よくわからない」と時間が過ぎるのはもったいないなと思ったので、最近はこの話をよくしています。それがyoshiさんやmattsunさんに伝わって良かったです。

実際に一緒に活動してみて印象に残っていることは?

中村:
一緒に活動してみて、印象に残っていることはどんなことがありますか?yoshiさんとは「組織をどうしていくか」、mattsunさんとは「スクラムマスターとして、チームをどうしていくか」に取り組んでいたと思います。

yoshi:
私は洋さんとよくお話ししますが、対応してもらえる幅の広さが一体どこまでなんだろう?と思うくらい、無限に対応してくれているなと思っています。素直にすごいなって思っているところです。

中村:
ありがとうございます(笑)。

yoshi:
アジャイルコーチとしては、プロセスをどうしていくかなどを設計する相談をしています。チームに対しては、スクラムイベントを見てもらい、フィードバックしてもらったり。期待値にある部分をやってもらっていますが「あの人がちょっとモヤモヤしているみたいだから、ちょっと 1on1 してきます」と個別の対応もしてくれていますね。

私自身の仕事の進め方や、VPoEとしての相談もしています。洋さんはスクラムやアジャイルを通して、プロダクトや組織の状況をわかってくださっているんです。だから、幅広い相談をしても、とても鋭いフィードバックが返ってきて、気づきをもらえることが多い。アジャイルコーチって組織の中に入り込んで仕事ができるので、経営陣に話したり、組織作りをやっている人にも、ものすごくアドバイスできるんだなと思って。本当にそこは助かっています。

もはやアジャイルコーチなのか?という存在ですね。場合によっては、開発組織やエンジニアリング全般のコーチングをしてもらってることもあります。

中村:
yoshiさんとは、ときどき京橋のオフィスで会っていましたよね。対面で話したり、土曜日に「どうやっていきましょうか?」と話して、そのあと飲みに行ったりしました。

yoshi:
そうですね。私としては、こういう外部の力を求めている人が多いんじゃないかなと思います。特にVPoEをやっていると孤独感もあり、コンテキストをわかった上で話せる人がなかなかいない状況になってくるので、すごくありがたいなと思っています。

中村:
ありがとうございます。mattsunさんはどうですか?

mattsun:
現場目線でも、幅の広さを感じていました。スクラムイベントに同席してフィードバックしてもらうのは、アジャイルコーチの動きとして想像するところだと思います。ただ、そこにとどまらず、スクラムマスター相談会を毎週開催いただいてるのが成長に繋がっていると感じています。

相談会では、社内のスクラムマスターとアジャイルコーチで「最近どんな悩み事があるか」などを共有し合います。そういった場を通じて、他のスクラムマスターやアジャイルコーチがどのような思考でどんなチャレンジをしているのかや、うまくいかなかった時はどうやったのかなどを知ることができます。これはスクラムイベントだけでは学べない部分です。組織の横の人たちや、アジャイルコーチの考え方をトレースできるのは、とても良い成長の機会だなと感じています。

中村:
おぉそうなんですね。 junpayさんはどうですか?

junpay:
毎回学びがあると思っています。私はもともと「アジャイル開発宣言やスクラムガイドの内容より、その現場で作り上げたルールの方が重要だろう」と最初は思っていました。アジャイル開発宣言は、けっこう読み飛ばしていました。でも、コーチとお話をする中で、そこの元になっている思想が実は大事なんだと気づかされて、大きな学びになったと思っています。

また、ふりかえりのやり方に細かくアドバイスをもらう時に、元になっている大きな思想に基づいて「こうやった方が良い」「こういうルールを敷いた方が良い」と、肉付けになって、改善してきたのかなと私は思っています。

中村:
ありがとうございます。森實さんと新井さんは印象に残っている出来事はありますか?

森實:
スクラムマスターという役割を全うしたくてしょうがないんだろうな、頑張ろうとしているんだろうな、というのを当初は感じていました。スクラムマスターは、これをできなきゃいけない、これをしなきゃいけない……と。それは悪いことではないです。ただ、そこができたからスクラムマスターとして良いチームが作れるのか?というのは、また別の側面があるとは思っています。最初、皆さんが学ぼうとする姿勢が強かった印象がありますね。

今、その姿勢がなくなったと言っているわけではないです。課題を自分が抱えるのではなく、「チームごと」にしていくことを、時間をかけて浸透させてこれていると最近ものすごく感じています。例えば、チーム内の発言量が、今までスクラムマスターが90%話していたのが、今はもうスクラムマスター30%、残りはチームの人たちの会話で、物事を進められるようになっています。

今までは、チームの状況が何も見えていなくて、バックログは進捗していないけど進捗の会話をしているようなところから、「これはDONEですね」と言えるようになっています。いろいろなことが見えるようになって、みんなの動きが変わってくる。変化がありありと現れていますよね。それがすごく良いなと思います。

先ほどyoshiさんのお話に出てきたスクラムマスター相談会についてですが、多分、mattsunさんやjunpayさんがそれぞれのチームでやっていても、このスピードで今のレベルに達しなかったと思うんです。スクラムマスターとしてのあり方を皆さん自身で最初から考えて、悶々として、失敗して、うまくいったこともあって……と、それらをお互いにハンガーフライト(注1)できたので、自分たちの成長を加速させていると感じています。この活動は続けてほしいですし、さらにチームを良い方向に導くダイナモになってもらえると良いなと期待しています。

中村:
贈る言葉みたいなコメントですね(笑)。新井さんはどうですか?

新井:
以前と比べて、スクラムイベントのアジェンダをバージョンアップできているなと思っています。過去にあったフィードバックを基にアジェンダを変えることによって、スクラムマスターとしてスクラムイベントの場作りのところから、すごく工夫しているなと見て取れますね。

先々週、つるぎチームで大きめのふりかえりをしました。そこでは、「プロセス、プロダクト、チーム、スキルでどんな変化がありましたか?」と皆さんと一緒にふりかえりました。皆さんからの声で、「プラスのことを見ていく機会があってすごく良いよね」という反応がたくさんありました。反省会のようなネガティブなことばかりではなく、「こういう成長を遂げているんだね」と、皆さんが気づけたのがすごく良かったなと思います。mattsunさんがスクラムマスター相談会の中でやっていることや、総合的なことを含めて、皆さん成長していると思います。

(注1)悪天候時、天気が良くなるまでパイロットたちが格納庫(ハンガー)で経験談などの雑談をしていた。その雑談がパイロットたちの貴重な情報源となり、成長に繋がっていたことに由来する。


以上、前編はアジャイルコーチの導入から一緒に活動した印象までをご紹介しました。
後編では、チームにどんな変化があったか?これから見据える未来は?など、より詳しくお話を伺います。