Monthly Red Journeyは、毎月発刊のトピックレターです。
これまでのレッドジャーニーの発信の中から、特定のテーマに基づいてトピックを集め、紹介します。
今回のテーマは「組織にアジャイルコミュニティをつくる(事例編)」です。

「組織にアジャイルコミュニティをつくる(解説編)」はこちら

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは─野村證券株式会社

前号では、組織にアジャイルコミュニティをつくる理由と作り方について解説しました。

実際に、社内勉強会を切り口としてアジャイルコミュニティを立ち上げられた、野村證券株式会社様の事例をご紹介します。

野村證券株式会社様では、IT部門以外の社員も参加する社内勉強会を開催され、レッドジャーニー代表の市谷が講師としてお話させていただきました。
500名以上が参加したという社内勉強会の狙いと成果、参加者を集めるための発信の工夫について、企画された南嶋様にお話をうかがいました。

南嶋様の部署では、グループにアジャイルを浸透されることをミッションとして様々な取り組みをされています。
そんな中、勉強会を企画された狙いはどのようなことだったのでしょうか。

アジャイルを広めていくための最初のステップとして、ITに限らずより幅広い部門でアジャイルについて知ってもらいたいという狙いがありました。
関心を持っている部門や、実際に取り組み始めている部門もありますが、まだ一部ですし、IT部門以外ではアジャイルという言葉も聞いたことがない人もいるのが現状だと思います。
勉強会を通して、少なくとも聞いたことがある、何となく意味するところが分かる、というくらいまでの理解と認識を得たい。難しいことや具体的なことは、もう少し先のステップで構わないと考えました。

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは:野村證券株式会社 – Red Journey

普段の様々な取り組みから得られた情報をもとに、より多くの方にアプローチできるテーマとして、「アジャイルについて基本的なことを学ぶ」というコンセプトを明確化されたことは、大きなポイントだと思います。

実際の様子や終了後の反応などはどうだったのでしょうか。
また、そこからどんなことを感じられたのでしょうか。

500名以上が参加して、半数以上はIT部門以外の所属の社員でした。終了後の調査では、およそ92%の方にポジティブなフィードバックをいただきました。

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは:野村證券株式会社 – Red Journey

実践している人が思った以上にいるということと、一方で、まだ全然声が届いていないということも感じました。
話したり聞いたりする機会が足りなかったというのは大きな気づきで、まだまだやることがあるのだなと思っています。

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは:野村證券株式会社 – Red Journey

勉強会が、「机上」と「実践」の差分を補完する役割を果たしていることがうかがえます。
500人という参加者数は非常に多いと思いますが、発信する上でどのような工夫をされたのでしょうか。

草の根的な発信が、意外と届いていたという感じです。
私も野村グループでの就業経験が浅かったので、どう広げたらいいのかメンバーと相談して、まずはIT部門の全員に案内を送りました。
また、少し前にビジネス部門を交えたアジャイルに関するワークショップが開催されていたので、その参加者や関連する部門へも送って、そこから興味のありそうな人に転送してもらいながら徐々に広げていきました。

今後は、今回参加してくれた500名以上の社員とのネットワークが発信のベースとして生かせると思います。

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは:野村證券株式会社 – Red Journey

大きな組織でも、切り口となる人を発端として、1人1人に向けた地道な発信をされたことが結果に繋がっているのですね。
今後も活動を継続していくにあたって、どんなことを重視していらっしゃるのでしょうか。

すべてがうまくいくわけはありませんし、労力に見合った成果が出ない経験は今までもしてきています。
うまくいったことと、いかなかったことをふりかえることが必要です。
思うような結果にならなくても、原因を分析し、次に繋げていこうという実験的な気持ちで取り組んでいくしかないのではないでしょうか。
私たちも次のステップへ向かうため必然的にふりかえりをしています。
「だめだったね」と時に愚痴を言い合えるような仲間がいれば、次に進んでいけますよね。

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは:野村證券株式会社 – Red Journey

失敗を笑い飛ばせるような心持ちで取り組むと続けられるのではないでしょうか。
害になる失敗というのは、あまりないと思うんですよね。失敗しても、そこから学びながら取り組みを広げていけば、きっと共感してくれる人が増えていきます。それが自分のモチベーションにも繋がって、失敗してもまた新たな気持ちで取り組みに向かっていけるのではないでしょうか。

大組織にアジャイルを浸透させる取り組み。社内勉強会に500名以上の参加者を集めた工夫とは:野村證券株式会社 – Red Journey

「ふりかえり」をもとに探索と適応を繰り返す仮説検証のプロセスは、コミュニティの立ち上げや運営にも適しています。

外部講師や著者を招いた勉強会、読書会のような形で、社外との接点を作ることにより、社内コミュニティの活動は活性化し、新たな仲間に関心を持ってもらうきっかけにもなります。
また、失敗を恐れず得たものから次へ繋げていく、という捉え方は、非常に参考になるのではないでしょうか。

まとめ

  • 社外から講師を招いて勉強会を開催した
  • 社内勉強会開催前の状況
    • 関心を持っている部門や、実際に取り組み始めている部門はごく一部
    • IT部門以外ではアジャイルという言葉も聞いたことがない人もいる
  • 開催の狙い
    • 位置づけは、アジャイルを広めていくための最初のステップ
      (難しいことや具体的なことは次の機会でいいと割り切る)
    • ITに限らずより幅広い部門でアジャイルについて知ってもらいたい
    • 勉強会を通して、少なくとも聞いたことがある、何となく意味するところが分かる、というくらいまでの理解と認識を得たい
  • 人を集めるための発信の工夫
    • コンセプトの明確化
    • 草の根的な発信を地道に行った
    • まずはIT部門の全員に案内を送った
    • 過去に開催されたアジャイルに関するイベントの参加者や関連する部門に案内を送った
    • 興味のありそうな人に転送してもらった
  • 実際の反応
    • 500名以上が参加(半数以上はIT部門以外の所属の社員)
    • 終了後の調査では、およそ92%がポジティブなフィードバックを寄せた
  • 開催して得られたこと
    • まだまだやることがたくさんある(話したり聞いたりする機会が足りなかった)という気づきが得られた
    • 今後の発信のベースとして、参加した500名以上の社員とのネットワークが得られた
  • 取り組みを続けるために大事なこと
    • うまくいったことと、いかなかったことの「ふりかえり」が必要
    • うまくいかなくても、原因を分析し次に繋げていこうという実験的な気持ちで取り組む
    • 失敗を笑い飛ばせるような心持ちで取り組むと続けられる
    • 時に愚痴を言い合えるような仲間の存在がモチベーションに繋がる
    • 失敗しても取り組みを続けていれば共感してくれる仲間が現れる

学ぶことが「現状」から越境していく原動力になる─株式会社ふくおかフィナンシャルグループ

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ様では、アジャイル開発に関する社内勉強会を3回にわたって開催され、セッションとしてレッドジャーニー代表の市谷がお話させていただきました。
中心となって企画されたのは、それぞれ新規事業開発を手掛ける部署と、全社戦略としてDXの取り組みを推進する部署に所属するお二人です。

勉強会の内容

【DAY1
上手く進んでいるプロダクト開発やチーム・組織について学ぼう
セッション 『仮説検証とアジャイル開発の両輪 なぜ仮説検証とアジャイル開発がいるの?』
市谷聡啓

【DAY2】
PdM(プロダクトマネジメント)、PdMO(プロダクトマネジメントオフィス)について知ろう
セッション 『プロダクトマネージャーはアジャイル開発で何を担うのか?』
市谷聡啓

【DAY3
DAY1、DAY2 を受けての質疑応答
 Frame1:リファインメントが長くて疲れます
 Frame2:リリースした機能の検証・結果確認をどうやって管理していますか?
 Frame3:スクラムで開発しているプロダクト、毎回のスプリントが上手くいかない
 Frame4:レトロスペクティブで良かったことが挙がらない
 Frame5:ふりかえりを同じ型でやると不安になるけど、どうする?

経済産業省と東京証券取引所などが発表する『デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2022』に、地方銀行グループとして初めて選定された同社は、国内初となるデジタルバンク「みんなの銀行」への取り組みや、お客様に寄り添う「実証実験プロセス」の導入等が高い評価を受けています。

アジャイルを用いたプロダクト作りやプロダクトマネジメントに、組織として取り組もうとする機運は高いものの、実際は経験が浅いメンバーも多く、組織としての実績や積み重ねもないという課題をお持ちでした。

そんな中、勉強会を企画・開催されてみて、どのような変化があったのでしょうか。

今回、「自分自身もチームや周りの人にも、いろいろ知ってもらったり、気づきを得られたらいいな」と思い勉強会を開催しました。そういった意味では、話を聞いてやる気になった人もいたし、参加したプロダクトオーナーもだいぶ刺激や勉強になったと思います。参加した後に飲みに行って「ああだよね、こうだよね」と熱い思いを発言する人もいたので、やってみて良かったと思います。

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ様 アジャイル開発 社内勉強会 ふりかえり座談会 – Red Journey

私もすごく刺激を受けました。私は市谷さんの『アジャイル教本』を読んでいたのですが、話を聞いていると自分の中でモヤモヤしていることを言語化してくれているような感じがして。
すごく刺激を受けたので、またいろいろと本を読み始めたり、CSPO(認定スクラムプロダクトオーナー)のセミナーや資格を取る講習会も受けに行く予定です。あとは「社内の他部署でも似たような悩みを持っている人がいたんだ」ということがすごく発見になりました。

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ様 アジャイル開発 社内勉強会 ふりかえり座談会 – Red Journey

刺激を受け、モチベーションに繋がった方が多くいらっしゃったようです。
また、そこから実際に行動を起こされている点は素晴らしいと思います。

勉強会をした上で「理想と現実にはギャップがあるんだな。そこを一歩一歩どうやって埋めていったらいいんだろう」と強く感じています。「仮説検証アジャイルは目指したいけれど、現実は違うな」ということを課題に思いました。

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ様 アジャイル開発 社内勉強会 ふりかえり座談会 – Red Journey

 実は先日、うちの本部長がスクラムマスターのトレーニングを受けたんです。私の勝手なイメージですが、銀行の部長がそういうものを取りに行くって、だいぶ画期的なことだなと思って。私が「受けに行ってくれませんか?」とすすめたら「行きます」といってくれたんです。

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ様 アジャイル開発 社内勉強会 ふりかえり座談会 – Red Journey

勉強会のあと組織的にもだいぶ変わってきていて、「数か月前は全然わからなかったけど、いまもう1回話を聞いたら、きっともうちょっとわかることが増えてるんだろうね」と話す人もいました。スクラムマスターの講習を受けにいった本部長も「トレーニングは知識が足りなくて全部は消化できなかったけど、もう1回数か月後に受けに行きたい」と話してくれました。

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ様 アジャイル開発 社内勉強会 ふりかえり座談会 – Red Journey

現状に対する違和感が整理されたことで、課題が明確になり、実践に繋がっていったのではないでしょうか。
管理者層の方を巻き込むのは難しいと思われるかもしれませんが、勉強会に同席することで関係性が変わることもあります。
学んだことをもとに、できることから始めていけるといいですね。

勉強会開催後の変化

  • モヤモヤしていたことが言語化された(課題が明確になった)
  • 刺激を受け、モチベーションアップに繋がった
  • 実際の行動に繋がった
    • 本を読み始めた
    • 関連するセミナーや資格取得のための講習会に参加することにした
    • 本部長にスクラムマスターのトレーニングをすすめたら、受けに行ってくれた
  • 組織として前向きに取り組む姿勢に繋がった
    • また話を聞きたいという声が聞かれた

学ぶことで「現状をより良くしよう」というモチベーションが自ずと高まり、「現状」から越境していく原動力となります。
定期的に継続して学ぶ機会を設けることで、組織をより良くしたいという思いを持つ仲間たちの輪が広がっていきます。
まずはあなたとその周りから、小さく始めてみませんか。

レッドジャーニーのサイトでは、他にも数多くの事例をご紹介しています。
実践の参考にぜひご覧ください。

アジャイルから始める組織改革

Enagile(エナジャイル)は、大組織のデジタル変革に数多く携わっている私たちレッドジャーニーがお送りする、「アジャイルから始める」組織改革のスタイルです。
詳しくはこちらをご覧ください。

組織を芯からアジャイルにするための手引き

『組織を芯からアジャイルにする』
~アジャイルの回転を、あなたから始めよう。~

ソフトウェア開発におけるアジャイル、
その可能性の中心を「組織づくり」「組織変革」に適用するための実践の手引きとして、
市谷による著書『組織を芯からアジャイルにする』をおすすめします。ぜひご活用ください。

書籍『組織を芯からアジャイルにする ~アジャイルの回転を、あなたから始めよう~』

「現状」への違和感を言語化し、一歩踏み出す原動力へ

『これまでの仕事 これからの仕事』
~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法~

20年以上にわたるアジャイルの実践と試行錯誤の末辿りついた仕事論の集大成。
「今のままではいけない」「なんとかしなくては」と、現状に違和感を感じている方、
非効率な仕事の仕方や組織を変えていきたい方へ、
あなたの周りから、仕事の現場をより良く変えていくためにご活用ください。

目次

はじめにだれかが変えるのをただ待ち続けるほど,人生は長くない
第1章「数字だけ」から,「こうありたい」へ
第2章目先の効率から,本質的な問いへ
第3章想定どおりから,未知の可能性へ
第4章アウトプットから,アウトカムへ
第5章マイクロマネジメントから,自律へ
第6章1人の知識から,みんなの知識へ
第7章縄張りから,越境へ
終章思考停止から,行動へ

詳細はこちらの特設サイトをご覧ください。

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多くの組織にとって、組織活動にアジャイルを適用していくという挑戦はまだこれからと言えます。
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