Monthly Red Journeyは、毎月発刊のトピックレターです。
これまでのレッドジャーニーの発信の中から、特定のテーマに基づいてトピックを集め、紹介します。
今回のテーマは「組織にアジャイルコミュニティをつくる(解説編)」です。
目次
アジャイルコミュニティが必要な6つの理由
2022年に刊行された書籍『組織を芯からアジャイルにする』(市谷聡啓 著/ビー・エヌ・エヌ新社 刊)では、「組織の芯からアジャイルを宿す26の作戦」が詳解されています。
作戦16で示された「アジャイルCoEの8つのバックログ」(初期に取り組むべき8つのバックログ)の一つが、「社内コミュニティ作り」です。
なぜ、社内コミュニティ作りが必要なのでしょうか。6つの観点から考えてみます。
①学びの補完
アジャイルの本質である「探索」と「適応」のスタイルは、日々環境や状況の変化に直面する現場で活用することで、ブラッシュアップされていきます。
アジャイルの基本は「回転」であり、現場での実践が欠かせません。
実践のためには知識のインプットが不可欠ですが、研修や書籍等で得られる知識と、実践で求められる腕力との間には大きな溝があります。
コミュニティで得られる学びは、「机上」と「実践」の差分を補完してくれます。
また、実践においては、最初に直面する課題、次に出てくる問題、というように進展に応じて必要な知見が変わっていきます。
研修などの一日や一回の学習機会では対応できません。
こうした実践時の「段階」による差分も、コミュニティでの学びが補完します。
アジャイルコミュニティがあることで、実践に並走する学習機会を担保することができるのです。
②組織構造を越えた接点を得る
組織が継続的に価値創出していくためには、部門の壁を越えた協働が大きなポイントとなります。
ところが、大きな組織ほど部門によるサイロ化が起きているため、業務上の都合があっても部門を越えて接点を持つことがそもそも難しくなっています。
コミュニティでは、アジャイルというテーマを中心として様々な部門からメンバーが集まり、繋がりを持つことができます。そうしたダイレクトな繋がりが日常の仕事にも活かされます。
③自由な学びをつくる
組織内に用意される学習機会では、現状の組織活動や日常業務において直接的に必要とされる「最低限」を扱うことが多いと思います。
そこには該当しないものの、今後は活用が期待される技術、方法など「自分たちが学びたいもの」を学ぶ「非公式の場」として、コミュニティを運営しましょう。
④自己組織化の練習
組織全体の意義やミッションを共有した上で、個々のメンバーが自律的に行動し、相互に働きかけながら成果を生み出していけるようになると、組織はより早く、より大きな目標の実現に近づくでしょう。
縦割り型の組織で「階層を前提とした仕事」に最適化していると、自ら目標を定め必要なことを設計し、進め、その結果にコミットするという動き方になかなか習熟しません。
その練習の場となるのがコミュニティです。コミュニティでは、非公式ゆえに自由度が高く、メンバーの関係性がフラットなため、自ずと自律が求められます。
⑤気楽にまじめな話ができる場
デジタルツールを活用したリモートワークや副業など、多様な働き方の広がりは、業種や経験、住む場所、勤務地などの違いを越えた協働を可能にしましたが、一方で、リアルなコミュニケーションの重要性をあらためて実感するきっかけにもなったのではないでしょうか。
社内でちょっとした時間に交わされる雑談や「内輪話」は、表面化しないくらい細かなズレを早期に解消したり、発想の転換を促したり、気軽なハンガーフライトの場としても機能しています。
日常業務外の非公式な場であり、且つ、その組織ならではの話題について深く対話する機会が得られるのがコミュニティの特徴です。
そうした場で「組織文化」を体感することで、その良さを感じたり、愛着が芽生えたりすることもあるのではないでしょうか。
⑥同じ思いを持った仲間を得る
コミュニティで繋がった「ともに学ぶ仲間」は、組織を「ともに変える仲間」になっていきます。
「何かを学ぶ」ということが、現状をより良くする、という姿勢を自ずと高め、「現状」から越境していく原動力となります。
アジャイルを組織に根付かせる足掛かりとして、社内にアジャイルコミュニティをつくりましょう。
具体的な立ち上げ方について、次の項目で解説します。
アジャイルコミュニティの立ち上げ方
コミュニティとは、共通のテーマに関心を持つ人たちが集まり、交流しながらともに学ぶ場です。
仕事上の固定化した枠組みを超えて、仲間が集うコミュニティを立ち上げるには、どうすればいいでしょうか。
もし、既に数人の仲間がいるなら、すぐにでも立ち上げることをおすすめします。
まだ具体的な賛同者がいないなら、まず「2人目」を得るところから始めてみましょう。
「2人目」になりうる人もいないとしたら、1人から始めることもできます。
先に「場」を作り、そこに集まった人で始めましょう(「この指とまれ」作戦)。
運用できそうな組織を作ってから始めようとすると、始めるタイミングを逃し続けることになります。
要点は、最初に「魅力的な場=一定の関心が得られるテーマによる場」を設定することです。
テーマ設定が独りよがりにならないように注意が必要です。
例えば、社内で「スゴイ」と言われる人をお招きして勉強会を開いてみましょう。
ある書籍をテーマとし、その著者をお招きして書籍にまつわる勉強会を開催する、というフレームは、始めやすく機能しやすいと思います。
アジャイルに関する本はたくさん出版されていますので、みんなが関心を持てる本を選びましょう。
▼レッドジャーニーの本もご参照ください。
パターン例
読書会型 | 勉強会型 (発表形式) | 勉強会型 (対話形式) | |
---|---|---|---|
立ち上げ方 | 最初に集まった人たちを運営にする | 最初に社外の人を招待し突破口となる勉強会を開く 有志を募り運営化する | 最初に社外の人を招待し突破口となる勉強会を開く 有志を募り運営化する |
内容 | 最初、途中、最終回などに著者を招待 読む本を交代しながら運営していく | 王道は誰かのテーマトーク(発表)+対話 | 毎回テーマを決め、ワールドカフェ的な対話を中心にすると準備の労力は減らせる |
特徴 | コンテンツを用意する労力がなく、且つ飽きにくい | 準備・運営の労力は一定あり | マンネリ化しやすい |
規模 | 5~20名程度 | 10~30名程度 | 10~20名程度 |
頻度 | 隔週、月1回など | 月1回など | 月1回など |
もし、それでも人が集まらない時は、1人ずつに直接声をかける「ヘッドハント作戦」をおすすめします。
集まれば誰でも良いわけではなく、「ともに学び、ともに組織を変える仲間」を集めたいのですから、手間や労力はかかりますが、1人1人へ個別に語りかけることが最も適しているのではないでしょうか。
コミュニティを立ち上げる際も、その後の継続的な運営においても、社内に呼びかける「チャネル」が生命線となります。
特に、立ち上げの段階では、労力を惜しまずあらゆるチャネルを活用しましょう。
はじめはなかなか集まらなくても、コミュニティの透明性を高め、オープンにしながら継続していくことで、共感してくれる人が出てきます。
また、発信していくことで潜在的な関心を呼び起こすことにも繋がります。
社内コミュニティ立ち上げのポイント
- 先に「場」を作り、そこに集まった人で始める(「この指とまれ」作戦)
- まずは小さく、数人の有志の手の内に収まる範囲で始める
- 最初に「魅力的な場=一定の関心が得られるテーマによる場」を設定する
- 書籍をテーマとし、その著者をお招きして書籍にまつわる勉強会を開催する、というフレームは始めやすく機能しやすい
- 人が集まらない時は、1人ずつに声をかける「ヘッドハント作戦」も有効
- 社内に呼びかける「チャネル」が生命線
- 立ち上げ時はリアル・デジタル問わずあらゆるチャネルを活用する
社内コミュニティでは、肩書や部署に関係なく、共感し合い語り合える仲間ができることでしょう。
いずれ組織を離れる日が来ても、コミュニティでの繋がりは生き続けます。
「ワクドキ」を大切に、楽しみながら社内コミュニティ作りに取り組んでみませんか。
次号では、実際に社内コミュニティ作りに取り組まれた二社の事例をご紹介します。
▼関連記事
▼参照
アジャイルから始める組織改革
Enagile(エナジャイル)は、大組織のデジタル変革に数多く携わっている私たちレッドジャーニーがお送りする、「アジャイルから始める」組織改革のスタイルです。
詳しくはこちらをご覧ください。
組織を芯からアジャイルにするための手引き
『組織を芯からアジャイルにする』
~アジャイルの回転を、あなたから始めよう。~
ソフトウェア開発におけるアジャイル、
その可能性の中心を「組織づくり」「組織変革」に適用するための実践の手引きとして、
市谷による著書『組織を芯からアジャイルにする』をおすすめします。ぜひご活用ください。
「現状」への違和感を言語化し、一歩踏み出す原動力へ
『これまでの仕事 これからの仕事』
~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法~
20年以上にわたるアジャイルの実践と試行錯誤の末辿りついた仕事論の集大成。
「今のままではいけない」「なんとかしなくては」と、現状に違和感を感じている方、
非効率な仕事の仕方や組織を変えていきたい方へ、
あなたの周りから、仕事の現場をより良く変えていくためにご活用ください。
目次
はじめに | だれかが変えるのをただ待ち続けるほど,人生は長くない |
第1章 | 「数字だけ」から,「こうありたい」へ |
第2章 | 目先の効率から,本質的な問いへ |
第3章 | 想定どおりから,未知の可能性へ |
第4章 | アウトプットから,アウトカムへ |
第5章 | マイクロマネジメントから,自律へ |
第6章 | 1人の知識から,みんなの知識へ |
第7章 | 縄張りから,越境へ |
終章 | 思考停止から,行動へ |
詳細はこちらの特設サイトをご覧ください。
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多くの組織にとって、組織活動にアジャイルを適用していくという挑戦はまだこれからと言えます。
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