Monthly Red Journeyは、毎月発刊のトピックレターです。
これまでのレッドジャーニーの発信の中から、特定のテーマに基づいてトピックを集め、紹介します。
今回のテーマは「これまでの仕事 これからの仕事」です。
6月17日にリリースされた、レッドジャーニー代表の市谷聡啓による新著『これまでの仕事 これからの仕事~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法』の発刊記念号として、本書の狙いや本書で伝えたかったことの概要などをお届けします。

本書のWHY~何のために書いたのか?

2023年6月17日、レッドジャーニー代表の市谷聡啓による新著『これまでの仕事 これからの仕事~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法』(技術評論社)がリリースされました。
まずは、本書に込められた狙いについてお伝えしたいと思います。

今、必要な仕事の考え方、取り組み方とは何か

組織を取り巻く社会や環境、顧客の変化に対応するため、デジタルトランスフォーメーションの名の下に、「顧客に新たな価値を提供しよう」といった標語が掲げられることは少なくありません。

「顧客にとっての価値」、それも「新たな価値」とはどのようなものでしょうか?
ともすれば顧客自身にすら明確にできないものを、一体どのようにして見つけ、提供していけば良いのでしょうか?

昔ながらの仕事のあたりまえは通用しません。
正解ありきで計画を綿密に立て、段取りを詳細にしてその通りに実行する。
かつ実行できているかどうかを計画に照らし合わせて管理者が進捗を管理し、その担保を行う。
明確な正解が見える「ものづくり」の世界では恐らく無敵だったかつての仕事術は、明確な正解のない場面においては逆に足かせとなります。

私たちの仕事が捉えどころや絶対的な拠りどころのないものとなっている今、職場や現場には新たな仕事の考え方、取り組み方が必要です。

その手がかりは「ソフトウェア開発」にあります。
20年以上前から「捉えどころのない顧客の期待・要求」に向き合ってきたソフトウェア開発の世界では、臨機応変・適時適切に判断と行動をとるための実践知が育まれてきました。

ソフトウェア開発のあり方そのものを変えたのが「アジャイル」という概念、方法です。
今、多くの組織が「アジャイル」を学ぼうと躍起になってます。

巨人の肩に乗れ

本書は「アジャイル」について書かれた本ですが、語る対象は「アジャイル」そのものではありません。
私たちはいかにして、よりまともで充実した日々を送れるか?
私たちの目の前にある仕事の世界をより良いものにしていくため、ソフトウェア開発が培ってきた適応的な仕事のすべをどう活用すればいいのか?
そのために必要な仕事の方法とその取り組み方、どのように始めるかについての集大成となっています。

著者である市谷は、20年以上にわたりアジャイルに取り組み続けてきました。
その過程はまったく華々しいものではなく、むしろ大半を占めるのは試行錯誤だったと言います。

今現在、組織や現場の前線を張っている人が同じだけの苦労を背負って、その道をなぞる必要はありません。
「巨人の肩に乗れ」という言葉があるように、先達が築き上げた知恵に乗って前に進みましょう。
肩の上から見えた風景から自分なりのやり方を講じ、場合によっては肩から降りて、自分の足で歩いて行けばいいのです。

私自身が試行錯誤の極みにあった,かつてのあの頃に,どんな本があれば前進する力となりえたか。そんな記憶をたどりつつ,いま現場で四苦八苦しているみなさんに向けてお送りしたいと思います。この本が,みなさんにとっての「肩」となるように。

著者の一言:これまでの仕事 これからの仕事 ~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法|技術評論社 (gihyo.jp)

たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法

本書に書いてあることを組織において実践しようとすると、まず周囲の理解を得ることの難しさに直面するでしょう。
組織や集団には、弾み車にかかるモメンタム(勢い)のように、「これまで通り」を維持しようとする傾向があります。
新たなアイデアや方法を日常の仕事に取り込んでいくことは容易ではありません。

それでも、誰かが「始める」ことをしなければなりません。
たとえどんな小さなことでも、「始まり」なくして変化が起きることはありえません。

本書を読むあなたが、「始める」ことができたなら、それはみんなの「始まり」へとつながっていくはずです。
「たった1人からでも、きっと私たちの日常をより良く変えられる」という市谷の信念が本書には込められています。

もし、明日不慮の事故に遭い、この世を去るとしたら、この本は「遺書」になるのだろうと思った。書きながら、そんなことを感じたのははじめてのことだった。自分の中にある「仕事」について、言い残したいことをぐつぐつと煮詰めた本。それが「これまでの仕事 これからの仕事」だ。

これまでの仕事、これからの仕事|市谷 聡啓 (papanda) (note.com)

▼参照

From(これまで)と To(これから)

タイトルが示すように、本書は組織と仕事の「From」(これまで)「To」(これから)、そして「From→To」(「これまで」から「これから」へ変えていくためにどうすればいいか)の3つのパートで構成されています。

この数年間、レッドジャーニーは数々のDXや組織変革の現場で支援を行ってきました。
見えてきたのは、日本の組織に共通する根深すぎる課題です。
本書では、その課題を「From」(これまで)として8つのキーワードで整理し解説しています。

From 出典:この先には、希望しかない。|市谷 聡啓 (papanda) (note.com)

DX、組織変革の最前線で見えてきた組織と仕事の「これまで」

  1. 数字だけ
  2. 効率化ファースト
  3. 予定通りが正義
  4. アウトプット指向
  5. マイクロマネジメント
  6. 自分しか知らない
  7. 縄張り
  8. 思考停止

これらの難題をどうやって乗り越え、どこを目指して進めば良いのでしょうか?
私たちの「これから」(To)について、本書では8つのキーワードで整理しています。

To 出典:この先には、希望しかない。|市谷 聡啓 (papanda) (note.com)

組織と仕事の「これから」

  1. 芯は何か
  2. 問い続ける
  3. 未知の可能性
  4. アウトカム指向
  5. 自分で考え、自分で動く
  6. みんなの知恵
  7. 越境
  8. 前進が勇気になる

8つの「From」と、8つの「To」。組織が次のステップへ向かうには、8つの「From-To」が必要です

DX、組織変革に取り組もうと「これまでの仕事」に心を砕いている方や、「これからの仕事」に向けて無力感に苛まれている方に向けて、本書は具体的な道筋を提示しています。次の項目で、その概要を解説します。

本書を手に取ってくださった方の日々の挑戦に寄り添い、少しでも背中を後押しできることを願っています。

大丈夫。この先には、希望しかない。私達の一歩は、その一歩がどれほどささやかだとしても、漸進だったとしても、それは前進に他ならない。その越境が、今すぐにでも次に繋がる。今すぐにでなくとも、半年後には繋がる。半年後にではなくとも、20年後には繋がる。

20年前にまさか自分がこういう本を書くとは思ってもいなかった。でも、この本には20年の間に学び重ねてきた「⼀つ⼀つ」 の上に成り⽴っている。何が、いつ繋がるのかは誰にも分からない。でも、この先のどこかに必ず繋がることだけは分かっている。

だから、この先には希望しかない。あなたにこそ、この本を読んでもらいたい。

この先には、希望しかない。|市谷 聡啓 (papanda) (note.com)

▼参照

「From→To」を紐解く8つのキーワード

ここからは、本書で伝えたかったことの概要を解説していきます。

本書で「From」として整理した8つの課題は、個人でも組織でも、規模や新旧を問わず直面します。
なぜなら、事業や仕事、組織がうまい具合に続けられているなら、そこには必ず「最適化」があるからです。
一方、その打開策もまた必ずあるはずです。
それぞれの課題に対して、どのようなアプローチが必要でしょうか?

数字だけ→芯は何か

もし、あなたが半年~1年かけて取り組んだことが、次の期間で活かせていないとしたら、その活動は「消費的」になっているかもしれません。
「どのくらいできれば実現したと言えるのか?」という数字ありきの判断基準に焦点をあてるのではなく、「どうありたい?」「そのために何を実現する?」という自分たちの「芯」を言語化していきましょう。

「芯」がない、「芯」を捉える機会もない、それを考える力も衰えている、ということもあるかもしれません。
このような方法を試してみるといいでしょう。

  • 思い入れのある手段があるならば、その手段の背景にあることを考えていく
  • 「これは違う」というパターンが分かっているならば、その逆から考える
  • 組織の外にいる顧客や社会の視点を取り入れて考える

効率化ファースト→問い続ける

「効率化ファースト」はどんな組織にも起こります。
より良くなろうとするほどに最適化し、やがて変われなくなっていくのです。

効率化や最適化に偏っていく方向性を見直し、「これまで」にはなかった新たな選択肢を得るべく、「問い」に向き合う必要があります。
組織や事業の提供価値を「探索」し、変化する社会環境に「適応」する、「探索と適応のサイクル」を循環させましょう。

探索と適応のサイクル

  1. 問いをたてる
  2. 問いに対する仮説を立てる
  3. 仮説検証の計画づくり
  4. 検証を実施する
  5. 結果を確認し理解する
  6. 1に戻る

予定通りが正義→未知の可能性

環境があまり変化しない状況下では、お金・時間・品質など予定通りであることが「正解」とされるため、「予定通りにできたか」が判断基準となります。
一方、環境の変化が当たり前となっている現状においては、あらかじめの「正解」がありません。
今までにない新たな価値や体験、未知の可能性を見出すためには、常に方向性を正す「ふりかえり」「むきなおり」が必要です。

「ふりかえり」と「むきなおり」

「ふりかえり」では、過去の行動と結果を捉え直し、今やるべきことを変えます(過去から現在を正す)。

「むきなおり」では、向かいたい方向を捉え直し、今やるべきことを変えます(未来から現在を正す)。

アウトプット指向→アウトカム指向

アウトプットが具体的な作成物であるのに対し、アウトカムは利用者側に生じる感情や成果を指します。
利用者にとって価値や意味があるかどうかが重要なポイントであるため、確かめるには実際に利用者が試してみる必要があります。

要件やゴール、前提が明確であれば、フェーズを管理し、チェックを行い、レビューをもとに概ね予定通りのアウトプットを生み出すことができるでしょう。
これから増えていくのは要件やゴール、前提があやふやなケースですから、「そもそもどうなるといいのか?」というアウトカム(成果)に目を向けなくてはなりません。

先述した「探索と適応のサイクル」を利用して、ターンアラウンド(方向転換)していきましょう。
試すためのアウトプットを準備し、実際に試してみて、理解を正します。

マイクロマネジメント→自分で考え、自分で動く

マイクロマネジメントが有効なのは、「予定通りが正義」の領域と言えます。
これから私たちが取り組もうとしていることに、そもそも合わせるべき「予定」は存在しませんから、できる限り選択肢をあげる必要があります。

期待されるのは、多種多様な経験を持ち、自分で考え動くことのできる「チーム」です。
多種多様なチームがまとまって成果を生み出すためには、順序と時間のマネジメントが必要です。
やることの選択肢を可視化し、チームで共同所有しましょう。
そして、選択肢の「良し悪し」ではなく、どれから試すかの「順番」だけチームで合意しておきます。
適宜、適応の機会を設けて順序の適切さを高めていくことも必要です。

自分しかしらない→みんなの知恵

従来の縦割り組織では、部署や役職ごとに効率化への最適化が進んだ結果、組織のサイロ化による「ナレッジの孤島化」が起こっていました。
チームや組織で協働することが求められる「これから」においては、「自分しか知らない」ナレッジを「みんなの知恵」として組織で活用できるようにしていく必要があります。

個人の持つ知識や経験が組織で共有されていくプロセスを体系化したのが「SECIモデル」です。
個人の持つナレッジを「暗黙知」、組織で共有されたナレッジを「形式知」と呼びます。
暗黙知が形式知に変換され、組織で活用できる状態になるまでには4つのプロセスを辿ります。

  1. 共同化(Socialization)
  2. 表出化(Externalization)
  3. 連結化(Combination)
  4. 内面化(Internalization)

SECIモデルを組織やチームで運用するには、相応の腕力が必要です。
そこで、まずは一人で回して「回し方」の経験知を得てから、みんなで回せるようにしていきます。

一人が得た工夫をみんなのものにしていくために、手軽に実践できるハンガーフライトが有効です。
このサイクルは一度で終わるのではなく繰り返し回していきましょう。

  1. 自分の経験を語る
    (共同化=Socialization)
  2. 他者の語りから気づきを言葉にする
    (表出化=Externalization)
  3. 語りごとにグループ化する→グループごとに感想戦
    (連結化=Combination)
  4. 各自が得られた学びをまとめて共有→他者の学びを自分の工夫にする
    (内面化=Internalization)

縄張り→越境

効率化ファーストによる組織と個人のサイロ化は、自分の(自分たちの)最適化された領域を守ろうとする、過剰な縄張り意識をももたらします。
ここでもまた、まずは一人から、越境していく方法が有効です。
適応と探索、ふりかえり、むきなおりなど、ここまでの工夫を1人で始めてみましょう。
経験知が得られたら、チーム、そして組織へと広げていきます。

1人から始める越境
 ↓
チームでの越境
 ↓
組織の越境

思考停止→前進が勇気になる

ここまでの課題に共通するのは、「自分で考える機会の喪失」に繋がっているということです。
「思考停止」を停止するために、「関心」「チーム」「リスペクト」「越境」をテーマに取り組んでいきましょう。

ふりかえりで取り出した問題を、みんなの問題として共通のコンテキストをつくり、関心を呼び起こします。
そこから共通の「芯」をつくり、チームをつくっていきましょう。
チームで越境していくには、相手のFrom(背景)に目を向けるリスペクトが必要です。
相手とともに考え、ともに越える(越境)ことで踏み出す一歩は、どんな一歩でも自分たち自身への勇気となるでしょう。

もしかしたら、今は意味のない前進に見えるかもしれません。
けれども、一歩ずつ学びを重ねていくことで、きっと時を経て意味あるものにしていくことができるはずです。

本書ではFromからToへと移行する手がかりをより具体的にお伝えしています。ともに進んでいきましょう。

▼参照

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プロダクトマネジメントオフィス

書籍の詳細とご購入

目次

はじめにだれかが変えるのをただ待ち続けるほど,人生は長くない
第1章「数字だけ」から,「こうありたい」へ
第2章目先の効率から,本質的な問いへ
第3章想定どおりから,未知の可能性へ
第4章アウトプットから,アウトカムへ
第5章マイクロマネジメントから,自律へ
第6章1人の知識から,みんなの知識へ
第7章縄張りから,越境へ
終章思考停止から,行動へ

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