Monthly Red Journeyは、毎月発刊のトピックレターです。
これまでのレッドジャーニーの発信の中から、特定のテーマに基づいてトピックを集め、紹介します。
今回のテーマは「DXプロジェクトにアジャイルが必要な理由」です。

DXプロジェクトにおける課題

DXの重要性が叫ばれるようになってから、すでにまる4年が過ぎました。
コロナ禍を経て、すでにDXプロジェクトの成否はビジネスの明暗を分つほどになっています。

一方で「2025年の崖」を前に、DXプロジェクトを思うように推進できず、焦る組織も多いのではないでしょうか。

現在の日本の組織は業界・規模を問わず「過度な最適化の病」にかかっている
——業界横断で多くのプロジェクト支援をおこなってきた私たちレッドジャーニーがたどり着いたひとつの結論です。
ミッションへの最適化・効率化を進めるために行き着いた組織のサイロ化
こうしたあり方が日本の組織の強みとして働いた時代は確かにありましたが、デジタル化によって社会環境や顧客のあり方が短期間に変化する現代においては、その体制が組織的な進化の機会を妨げていると言えます。

デジタル化の波はすでに社会そのものを変化させ、もう元に戻ることはありません。
私たちに必要なのは絶えず「現在顧客に届けるべき価値」を探索し、実践し、学びを得ることの繰り返しの中で、時代への適応を行える力です。

サイロ化した組織の体制や、最適化に偏りがちな組織の動き方を変えると同時に、組織に属する個人の意識変革が必要です。

しかし、長年にわたり培われてきた文化・慣習は根強く複雑で、解きほぐすのは容易ではありません。
通常業務をこなしながら、今までに経験のない新たなやり方で、前例もなく先も見えない新たな取り組みに挑戦する。
人も時間も限られる中、無理難題とも言えるDXプロジェクトを推進するために、私たちは何から始めればいいのでしょうか。

DXプロジェクトを担う「人」の問題にどう立ち向かうか:日本生活協同組合連合会の事例

2020年から「DX-CO・OPプロジェクト」を進められている日本生活協同組合連合会の事例をご紹介します。プロジェクト発足時、どのような課題や背景があったのでしょうか。

運営や仕事の進め方など、組織を根本から変えていかなくてはならないという危機感がありました。

きっかけとなったのは2018年に経済産業省が発表したDXレポートです。「2025年の崖」の話は相当インパクトが強かったですね。人材育成をどのように継続していくのか、特にデジタル人材についての課題感は全国の会員生協に共通していて、もはや個々で対応すべきレベルを超えているのではないかと感じていました。

DXを旗印に全国の生協がつながり協働するには。分散型の組織がアジャイルで臨むDX-CO・OPプロジェクト – Red Journey

危機感を持ちつつDXプロジェクトは始動します。その中で一番深刻だったことは何だったのでしょうか。また、デジタル人材の育成についてどのような道筋をつけていらっしゃったのでしょうか。

スタート当初から人と運営に関することが悩みの種でした。とにかく先が見えない状況で危機感がありましたね。

特に、DXプロジェクトを担える人がいないという問題が最も深刻でした。一つの案として日本生協連の本体とは別に新しい組織を作ることも考えました。それだけ人がいない、体制が整わないというのは危機的な状況です。

人材育成や人事制度を担っている部署でもDXを組織的課題として重視していますが、デジタル人材の育成となると口をそろえて「どうしたらいいのか?」と。方策が分からないのです。

デジタル人材と一口に言っても、役割によって3種類に分かれると思っています。企画する人と開発する人、そしてマネジメントを担う人です。

新たな企画の下、サービスをリリースした後もカイゼンは常に継続していきますから、企画とマネジメントに関しては絶対に内部でノウハウを蓄え人材を育てていく必要があります。企画とマネジメントの両輪あってこそのプロダクト開発です。

DXを旗印に全国の生協がつながり協働するには。分散型の組織がアジャイルで臨むDX-CO・OPプロジェクト – Red Journey

企画・開発・マネジメントの3つの役割のうち、企画とマネジメントの部分をレッドジャーニーが担い、ともに取り組むプロジェクト。その後、メンバーに次のような変化があったそうです。

メンバーそれぞれが責任感を持ち、生き生きと仕事をしているのが一番だと思います。

まだ仕事を覚えていく段階にいる若手世代が多く、アジャイルな方法で仕事をした経験もほとんどありませんでしたが、今では不足感はありつつも滞りなく仕事をこなせるようになってきました。

仕事ですから個々に悩みもあることでしょう。分かりやすく成果が見えないと腐ってしまいがちなのも若手の特徴ではありますが、だからこそ彼らが元気にがんばれている職場は率直にいいなと感じます。

DXを旗印に全国の生協がつながり協働するには。分散型の組織がアジャイルで臨むDX-CO・OPプロジェクト – Red Journey

DXプロジェクトでは、その複雑さや道程の遠さから、現場のメンバーが疲弊してしまう事態に陥りがちです。
しかし、そんな中でも現場のメンバーが生き生きと仕事ができるということは、良い環境づくりができているということでしょう。
次に、コミュニケーションの取り方について話題を移しましょう。メンバーや経営層との定期的なコミュニケーションの取り方については、どのような考えをお持ちになっていらっしゃったのでしょうか。

プロジェクトをさらに進める上では、現場のメンバーと推進経営側とで定期的にコミュニケーションをとる必要があると思います。意見交換をすることで互いのやるべきことや役割が明確になりますから、半期に一度はそうした機会を持てるのが理想です。

(中略)

アジャイルな取り組み方が求められるのは現場のメンバーだけではないはずです。新しいことへの適応ということでは中間から上の経営層の方が過去へのこだわりが強く難しいと感じます。もちろん世代だけではなく性格もありますから、それぞれにフィットするアプローチでアジャイルに取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

DXを旗印に全国の生協がつながり協働するには。分散型の組織がアジャイルで臨むDX-CO・OPプロジェクト – Red Journey

組織の多様性は、難しさであると同時に強い組織へ転換するための足掛かりでもあります。
レッドジャーニーの価値観である「ともに考え、ともにつくり、そしてともに越える」を実現することが、DXプロジェクトの困難を乗り越えるカギと言えるのかもしれません。

DXプロジェクトを段階的に進めるには:パーソルホールディングス株式会社の事例

DXの取り組みを大きく組織へ展開していくためには、少しずつ段階を踏んで進める必要があります。
2022年4月に開催した「Red Conference April」では、レッドジャーニーがDX・アジャイル導入の伴走支援を行ったクライアント企業のご担当者様から、それぞれの取り組みについて具体的にお話いただきました。
その中から、パーソルホールディングス株式会社での取り組みについてご紹介します。

私たちの組織には約100名の社員が所属しています。「我々はどのような組織になりたいのか?なるべきなのか?」という観点で考え、グループビジョンである『はたらいて、笑おう』を、顧客にとっても私たち自身にとっても実現するために、組織の目指す姿を二つの言葉で表現しました。一つ目は「グループに価値を届ける組織」、二つ目は「各社員が自分らしく働ける組織」です。

組織理念をどのように体現するかを考えている時に「アジャイル」と出会い、親和性の高さを感じました。「顧客価値創造」や「心理的安全の保証」など私たちの組織が目指すものがすべてアジャイルに包含されていると感じ、目指すべき組織運営であると確信しました。

変化に強い組織になるために。パーソル流「アジャイル組織運営」の取り組み ーRed Conference April DAY2 パーソルホールディングス株式会社(前編) – Red Journey

まずグループビジョンから組織の目指す姿について言語化し、「アジャイル」との出会いを経て、パーソル流のアジャイル組織運営を次のように二つの軸で整理されたそうです。

「目指している姿」「組織理念」「アジャイルの考え方」から、パーソル流のアジャイル組織運営を二つの軸で整理しました。

一つ目の軸は現場目線で、「各個人がアジャイルマインドを持って日々の業務に取り組んでいること」と整理しました。各個人がアジャイルマインドを持つことで、一つあるいは複数の小さなチーム運営が可能になります。二つ目の軸は組織目線で、「アジャイルマインドを実践できるように組織の仕組みを整えること」です。組織全体にスケールさせるには個人やチームだけに頼らず仕組み化が必要です。これらの軸が整理できたことで、アジャイル組織運営に本格的に乗り出すことができました。

変化に強い組織になるために。パーソル流「アジャイル組織運営」の取り組み ーRed Conference April DAY2 パーソルホールディングス株式会社(前編) – Red Journey

実際の取り組みは5つのステップで段階的に進められています。

  • Step1:スクラムチームで新たな社内サービスを立ち上げる
  • Step2:アジャイル推進室の立ち上げ
  • Step3:本部長・部長をメンバーとするスクラム始動
  • Step4:従来型の組織から価値ドリブンの組織への再編
  • Step5:Scrum@Scaleを参考に横断組織を設計

それぞれのステップのポイントについても、詳しく解説いただいています。
ぜひ記事本文をご覧ください。

成功も失敗も、「経験」という名の学びとなり次のステップへとつながっていきます。
だからこそ、まずはやってみましょう。

組織運営や組織課題解決のために「アジャイルカルチャー」を導入し取り組むことは十分に可能です。ただし、単にフレームワークを当てはめるという単純なものではありません。それでも、アクションを起こさない限り成功は手に入れられないと思っています。「アジャイル組織運営」を導入することをためらっているのであれば、まずはやってみることをおすすめします。今日お伝えした我々の取り組みの事例がお役に立てば幸いです。

変化に強い組織になるために。パーソル流「アジャイル組織運営」の取り組み ーRed Conference April DAY2 パーソルホールディングス株式会社(前編) – Red Journey

レッドジャーニーのサイトでは、他にも数多くの事例をご紹介しています。
実践の参考にぜひご覧ください。

本質として必要なのは組織にアジャイルを宿すこと

DXプロジェクトにはスピード感が求められます。
部署、役職、立場の壁を越えて、課題と目的を共有し、それぞれが自律的に動く必要があります。
「一人の人間のような組織」として、「動ける体」を手に入れるにはどのようにしたら良いでしょうか。

大きな組織が、まるで「一人の人間のような組織」として動くためには、組織の「芯」が重要です。
「われわれはなぜここにいるのか」という問いの答えとして、共通の意図を持つ必要があります。

われわれはなぜここにいるのか?
自分たちの存在意義を確認するために、組織として社会や顧客にどのような価値を提供できるのか?をあらためて考えてみます。
社会や顧客のニーズが変化し続ける以上、組織の提供価値も再定義され続けなくてはならないでしょう。
そこで求められるのは、「探索」し「適応」するケイパビリティです。

「探索」と「適応」のケイパビリティは、プロダクト作りを通して獲得していきましょう。
アジャイル、仮説検証、向きなおりのプロセスを循環させながらプロダクトを作る過程で、組織は探索と適応のケイパビリティを獲得していきます。
巻き込む力、伝わる力を持つ「プロダクト作り」自体が、組織を変える「足場」になるでしょう。

本質として大事なのは、組織にアジャイルを宿すことです。

道程は長く、決して平坦ではありません。
そんな中、私たちにできるのは「傾きをゼロにしない」ことです。
活動を完全に止めてしまわないように、時には外部の力も取り入れながら、小さなことでも一つずつ積み重ねていきましょう。

コミュニティから、取り組みを継続するためのヒントやモチベーションがもらえることもあるかもしれません。

▼スライド全文はこちら

DXプロジェクトで壁を感じたときは

レッドジャーニーでは、伝統的な大企業から自治体まで多様な規模、業態の組織で伴走支援を行ってきました。
その経験からDXプロジェクト推進のために必要と考えるのが、部署や役職の壁を越えた横断型組織でありアジャイルの推進に特化した「アジャイルCoE」です。

「アジャイルDXプロジェクト支援」では、レッドジャーニーの経験豊富なアジャイルコーチ陣が「アジャイルCoE」の一員としてDXプロジェクトを伴走支援します。

▼具体的な進め方や内容などは、こちらの特設ページをご覧ください。

「アジャイルCoE」を設立しよう

よりアジャイルに焦点をあてていくために、「アジャイルCoE」を設立しましょう。
どのようにして進めればいいのか、詳しくはこちらの特設ページをご覧ください。

実践の手引き『組織を芯からアジャイルにする』
~アジャイルの回転を、あなたから始めよう。~

ソフトウェア開発におけるアジャイル、
その可能性の中心を「組織づくり」「組織変革」に適用するための実践の手引きとして、
市谷による著作『組織を芯からアジャイルにする』をおすすめします。ぜひご活用ください。

書籍『組織を芯からアジャイルにする ~アジャイルの回転を、あなたから始めよう~』

レッドジャーニーへのお問い合わせ

多くの組織にとって、組織活動にアジャイルを適用していくという挑戦はまだこれからと言えます。
組織アジャイル、アジャイル開発の適用や課題、お困りごとについて、お問い合わせはこちらからお寄せください。
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