『特集 アジャイルの視点』では、アジャイルの考え方を様々な切り口でお伝えしていきます。
不確実性の高い状況下において「探索」と「適応」のためのすべとなるアジャイルの取り組みは、困難な道のりの連続です。
行き詰まったときや、なかなか越えられない壁に直面したとき、「原点」に立ち戻ることで新たな景色が見えてくることがあります。
いつでも立ち戻ることのできるアジャイルの「道しるべ」として、この記事をご活用いただければ幸いです。

最初のテーマは、「正しいものを正しくつくる」です。
あらためて、正しいものを正しくつくるとはどういうことか、レッドジャーニー代表の市谷聡啓が綴ってきたコラム(note)を通してなぞってみたいと思います。

そもそも「正しさ」とは、何か?

2019年6月、レッドジャーニー代表の市谷聡啓による著書『正しいものを正しくつくる』が刊行されました。
その壮丁の佇まいから、通称は「青い本」と呼んでいます。

「青い本」は、問いを立て、仮説を立て、チームととともに越境しながら前進していくための実践の手引きです。
発刊後、市谷は様々な場所で本の内容にまつわる話をしてきました。
そこで必ずと言っていい確率で質問にあがるのが、「正しさとは何ですか?」というもの。
そもそも、何のためにこの問いはあるのでしょうか。

聞いてみたいという気持ちはわかるものの、この問いを他者に投げかけることや他者から(その人にとっての)回答をもらうことに、何の意味もないというのが青い本の主旨である。自分、またはチームで、自分たちの思考や行動に誤りがないか立ち返るために問う。

「正しさ」とは、何か?|市谷 聡啓 (papanda)|note

「正しさ」とは、ここでは自分たち自身の「あり方」のことを意味します。
誰かから提示されるのではなく、自問自答を繰り返しながら”見出す”ものだからこそ、チーム内に多様な”視点”が求められます。
したがって、時には外部の力を借り、新たな発想を得ることも有効でしょう。

つまり、「正しくある」とは、自分たちの物事への向き合い方を見つめ直し、より良くなるための切り口を考え、そうあろうとする姿勢のことだ。取っている思考や行動に誤りがあるかもしれない、もっとより良い方法があるかもしれない、そうしたことに自分たち自身で気づくための問いになる。ゆえに、この問いに向き合うためにあたっては、複数の視点(視座)があるほど捉えられてなかった領域が見えるようになる確度が高まる。

「正しさ」とは、何か?|市谷 聡啓 (papanda)|note

絶対的な正解がないからこそ、取っている思考や行動に向き合い続ける必要があります。
それこそがこの問いの本質といえるでしょう。

正しいものを正しくつくれているか?

「正しいものを正しくつくる」ための一つの方法として、市谷は「仮説検証型アジャイル開発」を提唱しています。

仮説検証型アジャイル開発の概念図。詳しくは特設ページをご覧ください。

レッドジャーニーとしての仮説検証支援、アジャイル支援やイベント登壇、コミュニティ活動等を通して、全国各地でアジャイルに取り組む多くの方々と出会い、思い悩む姿を目の当たりにしています。

何処に行っても、正解も何も誰にも分からない模索の状況下で、それでも前に進みたい、進まざるを得ない人たちがいる。そうした人たちの想いに触れると、自分もまだまだやることがあると新たになる。

正しいものを正しくつくれているか?|市谷 聡啓 (papanda)|note

正解も何も誰にも分らない模索の連続。そんな日々の取り組みの中で、とにかく一歩前へ踏み出すための北極星を示してくれるのが、「正しいものを正しくつくる」という言葉です。
明確な行き先としての正解がないからこそ、進み方に関心を向けてみましょう。
「正しいものを正しくつくれているか?」という問いを自分自身に向けることで、針路を確かめながら前へ進んでいくことができます。

こうした模索の中では、「正しいものを正しくつくる」という言葉が人に傾きを与える。この言葉はそのまま読むのではなく、問いかけとして扱う。すなわち「正しいものを正しくつくれているか?」と。それを他人に向けるのではなく、自分自身に向ける。そうして、自分自身の在り方、思考や行動を問い直すためにある言葉なのだ。自分で自分の有りたい方向に向きあえているのか、気づくための言葉

正しいものを正しくつくれているか?|市谷 聡啓 (papanda)|note

では、「正しいものを正しくつくる」とは具体的に何をすることなのでしょうか。
それは、「整合を取る」ということです。

肝心なのは、「何と何の整合を取るのか」です。
皆さんのチームなら、左に何を置き、右には何を置くでしょうか?

 左右が整合したところに「価値」が生み出される。「仕様」と「ソフトウェア」の整合から生み出される価値は、みなさんのチームや組織にとって期待する成果なのかどうか。それは取り組む仕事と視座に依る。この左右の置き方が間違っているわけではない。

 このあたりに「正しさ」の手がかりがある。つまり、何をもって「正しい」とするか自体を自分たちで決めなければならない。先の図で行けば、左側の「整合先」ここに何を置くのか。そして、もし左側に置いたことと、右側で取り組んでいることの間に不整合があるようであれば、それは「正しくない」とみるだろう。

「正しいものを正しくつくる」とはどういうことか|市谷 聡啓 (papanda)|note

「正しいものを正しくつくれているか?」の自問自答に行き詰まったときは、自分たちにとっての「正しいもの」と「正しさ」を両手に掲げて、「左右の整合性が取れているか?」と問い直してみましょう。

プロダクトをつくるとはどういうことなのか?

アジャイル開発でプロダクトづくりに臨むとき、大きく2つの課題が立ちはだかります。
一つ目は、アジャイル開発の習慣をチームで身につけること、二つ目は、開発チームとプロダクトオーナー(PO)との間に生まれる境界線です。

最初は、アジャイルな開発の習慣を身につけていくことで精一杯かもしれない。やがて、早く少しだけ作り続けるやり方に慣れてきたところで、POとの役割の境界線による問題に直面する。そこで、開発チームはPOの領域へと越境しはじめる。その先に、ともにつくる在り方が見えてくるはずだ。

プロダクトをつくるとはどういうことなのか。|市谷 聡啓 (papanda)|note

開発チームとPOが同じ方向を見据え、ともにつくる在り方を見出していく。
そのためにPOはどうあるべきなのでしょうか。

プロダクトオーナー2.0 | 市谷聡啓 | ドクセル (docswell.com)

現実のPOは、そもそもソフトウェア開発自体が初めてということが少なくないため、最初から理想的POとしての振る舞いを求めることは難しく、プロジェクトが動き始めてから習得するのも時間的に無理があります。
そんな中でプロダクト作りを進めるためには、開発チームがPOの領域へと越境し、チームでPOの役割を補完する「プロダクトオーナーの民主化」が必要となります。

現在とこれからの時代において、「プロダクトをつくる」とは、組織の内外で越境し、役割を越えて「ともにつくる」ことを意味するのではないでしょうか。
仮説検証により得られる学びを中心とした「共創」が、変化に適応しながら「正しいもの」を正しくつくり続けるためのすべとなっていくはずです。

「考えるのは俺がやるから、つくるチームつれてきてくれ。」
「答えは(私が)知っている。」
「それはPOが考え、決めることですよね。」

 こうした言葉を数多く耳にしてきたし、今でも珍しいことではない。一人の人間が認知し、想像し、理解し、表現することには上限がある。そうした境界の中でプロダクトづくりしていくことでの可能性よりも、自分自身では認知できない、想像できない、理解できない、表現できないことを持っている他者との相互作用の中でプロダクトの在り方を探索することの方に可能性を見出したい。

プロダクトをつくるとはどういうことなのか。|市谷 聡啓 (papanda)|note

縦割り型の組織構造の中で、各々が最適化という明確なゴールに向かって取り組みを続ける方法と比べると、共創への取り組みは難易度が高く、乗り越えるべき課題も多いと思います。
しかし、挑戦する価値は大いにあります。
近年、日本を代表する伝統的な企業や組織、自治体や政府でも、アジャイルを用いたプロダクトづくりへの取り組みが始まっています。
様々な課題と、役職・部署などの固定化した壁を、ともに越えていきませんか?

書籍 『正しいものを正しくつくる』
プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について

「正しいものを正しくつくる」とは何か、「青い本」が参考になると思います。

▼書籍について詳しくは、特設ページをご覧ください。

書籍『正しいものを正しくつくる』 販売ページ