今回のゲストである関 治之さんは、”自由で楽しい社会参加の形を日本国民全員に届けるために活動している、共創エンジニア”として、ご自身の会社のみならずデジタル庁や自治体など、官民を問わず幅広いフィールドでご活躍中です。
技術者として正しいものを正しくつくり、正しく使ってもらいたい。そして技術が良いことに使われるためには、みんなでつくることが大切なんだと、東日本大震災をきっかけに感じるようになったと話す関さん。代表理事を勤められる非営利団体でも『ともに考え、ともにつくる社会』をビジョンに、市民と行政がオープンにつながりコミュニティ活動をしたり実際にものをつくるといった活動をされています。
かつては政府機関で接近戦も繰り広げていたというふたり。前編では、関さんの最近の取り組みや、『芯アジャイル』を読んで感じたこと、また関さんがアジャイルを活用して得られた感覚についてお聞きします。
関さんと言えば
市谷聡啓(以下、市谷):今日はよろしくお願いします。まずはオンラインホワイトボードmiroを活用して”関さんと言えば”をキーワードにみなさまに書き込みをお願いしたいと思います。
私が関さんと最初に出会ったのは、2014年ごろのコミュニティだったと思いますが…
関 治之さん(以下、敬称略):そうですね。デベロッパーコミュニティをやっている人としては、それよりも以前から知ってはいたのですが、アジャイルを進めていくためにいろいろと勉強するなかで、いつかお仕事できたらなと思っていたのを今でも思い出します。
市谷:2019年に経産省のプロジェクトにお誘いいただいてご一緒しましたね。そのあと政府のCIO補佐官時代には接近戦をしていた感じはあります。
関:懐かしいですね。
市谷:この2年ぐらいのことなのに、ものすごく昔のことのように感じますね。
さて、miroに戻りますと、やはり『自転車』というのが目につきますね。関さんは自転車がお好きなんでしたっけ?
関:私は移動は大概自転車なんです。自転車通勤を20年以上続けています。
市谷:ほー。それはすごいですね!
あとは『Code for Japan コードフォージャパン』が有名なところですね。そして今は『デジタル庁でシビックテックを進めている』『手を動かすことを忘れない人』というものもあります。
関:ありがとうございます。そうですね、開発は常にしていきたいなという思いはあります。
関さんの最近の取り組み
市谷:私も関さんとお話しするのは2年ぶりくらいなので、最近取り組んでおられることや、特に関心を持たれていることについてお聞かせください。
関:そうですね。震災以降やっていることはあまり変わっていないと思っています。エンジニアだけではいいものはつくれないので、そこをどう混ぜていくかということをずっとやっています。
変化としてはコロナ以降ニーズが増え社会的にDXが注目されているので、Code for Japanの組織としても私としても活動の幅が広がってきたなと思います。個人的にはデジタル庁で働いていることは大きな変化かなと思います。その中でオープンガバメントを進めるといったことをやっています。
もうひとつ、ボトム側でいうと地域ですね。西粟倉村(岡山県)という1400人の村のCIOをやっています。地域やローカルレベルでちゃんとデジタルを活用して、あるべき姿をみんなで考えながら街づくりをしていくということを、どうやったらできるのだろうかと結構悩みながら進めているといったところです。
関心ごとといえば、私は技術者なのですぐに何かを作りたくなるのですが、それを我慢して、どれだけひとりよがりのものをつくらずにちゃんとみんなで進んでいくか、デジタル民主主義自体をアップグレードできるかを考えています。テクニカルなことでいえば、Web3.0(分散型インターネットと称される次世代のインターネット)などはキーポイントかなと思って手を動かしたりしています。
市谷:なるほど。今、1週間のなかで1番時間を費やすのは、デジタル庁の仕事ですか?デジタル庁ではどんなことを?
関:デジタル庁ではプレイヤー側でもあるので、時間を費やすことは多いですね。内容は時期によって違うのですが、例えばCOCOA(新型コロナウイルス接触確認アプリ)はオープンソースでできているのをご存じの方もいらっしゃるかもしれないですが、GitHub(ギットハブ)にソースコードが掲載されているのにフィードバックを受け付けていなかった、プルリクエストやイシューがあるのに無視していたといったようなことがあって。それをどうやったらサイクルを回せるかなどを手伝っていました。
最近はあまり開発系のことは担当していなくて、デジタル庁アイディアボックスという国民が直接行政に意見を届けられるシステムのプロジェクトマネジメントや、共創プラットフォームという自治体職員と行政職員が一緒に入っているSlackがあるんですけど、それをどう運営していくかといった話しをしています。
市谷:なるほど。いろいろなことをやられているんですね。
関:開発に関しては結構エンジニアが入ってきてそちらで進めているので、私はどちらかというとオープンガバメントなどをやりたいなと思って。開発はあまりやっていないですね。
『芯アジャイル』は”地図”ではなく”コンパス”
市谷:では今日のテーマに入っていきたいと思います。
まずは今回の書籍『芯アジャイル』を読んでいただいて思ったことなどをお話しいただきたいと思うのですが、いかがでしたでしょうか?
関:まずこの本を読ませていただいて、これは組織を変えるとか変革のジャーニー=旅をしたい人のための”コンパス”なんだなというふうに思いました。
私が会社を始める時に印象に残った話として、伊藤穰一さんの”ナウイストになろう”のなかにある『地図ではなくコンパスを持って旅に出よう』というものがあります。しっかり書き込まれた地図を持ってそのとおり進むより、コンパスで自分の位置を確認しながら自分で考えて進む、そのためのガイドといった感じでいいなと思いました。
おっ!と思ったところとしては、やはり言葉遣いが上手いなということです。いくつもキーワードがあったし。本の仕立てとしてよいと思ったのは、ちゃんと問いがあること。シーンをとらえなおす問いがある。それがビシビシくるわけですよ。イタタタ、みたいな。それをすごく感じましたね。
市谷:ありがとうございます。地図とコンパスの例えはとてもいいなと思いました。この本はDXのための本というわけではないのですが、DXの本って世の中にたくさん出ていて、読むと結構手順っぽいことが書いてある。それはどちらかというと地図っぽいなと感じます。あっち行って、こっち行って、そうやって、ああやって…みたいなことが記されていることが少なくない。でもそれに取り組む組織によって、行き方は違うだろうと思うんです。
この本の中でFrom-To(どこからどこへ行くか)が大事ですよと書いています。From-ToのTo、どこへ行くかというのは理想をどう描くか自分たちで考えるのですが、Fromがどこを出発点とするのか。もちろん組織の今ここの状況から出発してToに行くわけですが、割と近いようなToだとしても、Fromの出発点によって距離が違ってきますよね。
例えば社内のITリテラシーがまだ全然そろっていませんといった状況と、Slackも使っていてそれなりのコミットできていますといった状況で、Fromが違うところから同じToを見ていても距離が違う。そこへ固定的なステップを提示しても、全然違ってくるのではないかと思うので、そういう意味で”コンパス”というのは意図通りの言葉をもらったなという感じがします。
関:その通りだと思います。
アジャイルを回し続けて得られた感覚
市谷:この本のテーマにアジャイルがあるのですが。関さんのアジャイルについてのお考えを、あまり根掘り葉掘り聞いたことがなかったのでこの機会に伺っていきたいと思います。関さんにとってのアジャイルや、初めて関さんが取り組んだアジャイルプロジェクトはどんなものだったか、最近の距離感などお聞きしたいと思うのですがどうでしょうか?
関:そうですね。私が一番初めにアジャイルをやってみようと思ったのはスタートアップにいたときなのですが、当時やってみて感じたし今も思っているのは、仕事の意義のようなものを自分の中に取りもどす行為だったなということです。
やはり人から言われてよくわからないものをつくっているとか、締め切りに追われているとか、どこか仕事感満載でお金のために働いていますといった感じだったのに対して、アジャイルというスタイルをとることで、まさにアジャイル宣言にあるように、なんのためにやるかということを自分の中で考えるわけじゃないですか。
それってやっぱり言われたものをつくるのとは全然違っていて、みんなでいいものをつくろうよという関係性の質がまさに上がっていく行為だったので、自尊心が高まったり自律性が高まったりしたんですよね。それってすごくいいことだなと思いました。エンジニアとってもいいことだしお客様にとってもいいことなんですよね。経営層やプロダクトマネージャー側にとってもいい話で。もちろんいろいろと衝突はあるし上手くいかないこともあるけれど、ちゃんと回し続けると、関係が良くなっていくっていうのを感じました。
それは今の自治体と一緒に何かやるというなかでも、すごく通用するプロセスだなと思っています。そういう関係性を紡ぎ直すということで、それぞれがちゃんと生き生きしてくる。そういうイメージでアジャイルを活用しているかなと思います 。
市谷:なるほど。その感覚って今思っても変わらない感じなんですか?
関:変わっていないですね。、むしろ拡大しているなと思います。正にシンアジャイルの本の存在にも表れていると思うのですが、いわゆる開発プロジェクトからはみ出てきているわけですよね。マネジメントの方法とかみんながアジャイルって言っているわけじゃないですか。開発プロジェクト以外のところ、行政も言っている。反復的なことが必要だよねというようなことが求められています。
それに対する具体的なアプローチとしてのアジャイルプロセス、例えばスクラムに代表されるようなものは応用が効きやすいし、始めやすいというところがとても良いと思っています。まずやってみましょうよって言いやすいし、それをテコにエンジニアリングという枠を超えられる武器でもある。そういう概念的なアジャイルというものが、一般的になりつつあるということがすごくおもしろいなと。
エンジニアリング視点からやってきたことを、もっと積極的に拡大解釈していこうかなという自分の武器になっているという感じですかね。
市谷:なるほど。政府の中でもアジャイルは進展している感じはありますか?
関:いい質問ですね(笑)
市谷:聞かざるを得ないです(笑)
関:実際、市谷さんと一緒に活動してきたときにふりかえりなどもやりましたが、あのときの課題などは…構造的にはあまり変わっていない部分はありますね。ただしやりたいという必要性が分かっている人は出てきていると思います。
あと、経済産業省もアジャイルガバナンスということを言っていて、概念としてはインストールされ始めています。ただ、やれている事例やチームとしての優先度の高さはまだ具体化されていないかもしれないですね。
市谷:状況も想像できますし、なかなか難しいところもあるんだろうなと思いますけど…これからですね。
関:まあ、デジタル庁はおもしろいと思っています。中から見ていてもエンジニアがたくさん入ってきて、必要性の分かっている人がある程度のボリュームでいて、実際にプロジェクトも動き始めているという時点です。多分成果も出てくると思うんですよね。そうすると具体的にあれいいじゃん、あれがアジャイルでできたよねといった意見が出て、そのやり方を学ぼうといった風になってくるのではないかと期待はしています。
市谷:そうですよね。民間の企業でのアジャイルの進展もそんなところがあったなと思います。最初はベンチャー企業がアジャイルやスクラムに取り組んで、少しづつ事例が出てきて。2010年ぐらいだと思うんですけど。そこから、お?何かやれるのかな?といった流れのなかで、結果が出てくると次が続きやすいのかもしれないですね。
関:そうですね。
後編へ続きます。
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