効率化からの転換。個人が臨機応変に選択・判断できる組織へ。

「今まで」も「これから」も「どちらも活かす」ということが求められているのだと思いますが、実際はどんな風に運用、判断するかが難しいところですよね。
単純に基準となるルールを設ければうまくいくかというと、現実はより複雑です。経営側が細かいところまでコントロールしマネジメントすることは難しいですし、そもそも良い結果に繋がらないでしょう。理想としては個々人がそれぞれの状況に応じて判断できるようになることではないでしょうか。
そのためには、経営判断として人材育成に取り組むことは当然必要ですが、やはり、個人が現場でケイパビリティを獲得していくことが必要不可欠だと思います。そこにこそ組織が変わるためのきっかけや術があります。

石川様:そういった意味では、多様性を許す土壌を作っていきたいですね。もちろん多様なだけでは仕事は進みませんが、多様性が確保された組織で個々人が持つ知識や能力、経験則といったものを積み重ねていくことで、選択肢が増えていったらいいのではないか、それが仕事と人材の両面に拡がりをつけていくことになっていくもの、そのように考えています。

髙橋様:社内のルールも少しずつ変わってきています。特に今年あたりから、プリンシプルベースという言葉が聞かれるようになりました。

ルールを厳格に設けるルールベースから、ルールの背景にある原理原則を理解して組織、チーム、個人が常識的な判断をするという方向へ、大きな変化を感じます。

個々の自律的なふるまいが全体として秩序のある構造を形作っていく様子は、アジャイル開発やスクラムで言うところの自己組織化のイメージに近いです 。 「今まで」も「これから」も、最終的に目指す終着点は一緒なのだという合意があれば、いずれきっと合流していくのだと思います。

講演などの場でよくお話するのですが、DXの活動においてはカイゼンや洗練のためのプロセス、ルール作りは充実していて、ともすれば思考停止したまま進んでいってしまいます。
そこには「選択する」という概念がないわけですが、個々人が、あるいは部や組織単位でも、臨機応変な選択ができるようになることは大事な観点です。
そもそも、一度選択すれば済むような仕事は稀で、多くの場合は複数の選択肢を作り、小さく試しながら選ぶというプロセスの繰り返しが必要です。「今まで」の組織の取り組み方やメンタリティーとは直交する、パラダイムシフトと言ってもいいくらいの大きな発想の転換です。
金融のシステムを作る上で、「大きなものを大きくつくる」考え方と「小さく繰り返しながらつくる」考え方とを両立することは難しいと思うのですが、どのように取り組まれているのでしょうか?

斉藤様:現在は開発するシステムの特性に応じて使い分けていますが、究極的にはすべてアジャイルに置き換えることができると考えています。

我々が扱っているのは、銀行のシステムという所謂ミッションクリティカルシステムですが、だからといってアジャイル化できない理由にはなりません。

とは言っても、ステップを踏んで進めたり、理解者を増やしたり、組織としての成熟度を上げるなど、これからの課題を考えるとなかなか実現に届かないジレンマはあります。

しかし、組織として成果をあげることを考えれば、やはり一番の近道はお客様の満足度を上げるための取り組みから始めることなのではないでしょうか。

ウォーターフォールで開発したシステムでは、お客様の満足度や実際に使われるのかどうかといった疑問がどうしても後に残ります。その点、アジャイル開発では、その手法ゆえに自ずとお客様の満足度が高められることが魅力です。

コストや納期の観点にとどまらず、アジャイル開発の思想を理解すれば、SoE(system of Engagement。顧客や取引先との結びつきや絆を深めること意識したシステム)が求められるようになり、よりアジャイルでの開発がフィットするようになっていくと思います。

石川様:アジャイル開発は、世界的に広がりを見せるローコード開発(Low-Code開発。可能なかぎりソースコードを書かずに、アプリケーションを迅速に開発する手法やその支援ツールのこと)の潮流から見ても、探索のスピードを速めていくという点で適切です。

また、デベロッパーを中心にチームを作っていくという考え方も有用だと思います。

新たな行動基準となった二項動態の学び。

では、今回の講演を通して得られた気付きや学びはどのようなことでしょうか?

髙橋様:今現在アジャイル開発に取り組んでいるメンバーにとっては、自分たちの取り組みを肯定する自信と、さらなる後押しに繋がったと思います。

また、興味は持ちつつも経験がなかった人たちにとっては、あらためて世の中で求められている方法でやれている確信と、一歩踏み出すための後押しに繋がりました。

石川様:私も、大きな後押しをいただいたと感じています。

開発の環境や人員の配置、体制を変えていこうという場面では、我々が立てたプランと現場との間でハレーションも起きやすく、多様性と向き合うなかで自分たちの立ち位置に迷うことがありました。

今回の講演とその後のセッションを経て、自分たちがどういう振る舞いをしていけばいいのか、行動の基準を再確認できたと思います。自ら越境することもそうですし、他の人が越境するのを支えるという役割にも大きな意義があるのだという気付きや、小さなところから突破し、そこから広めていく方法もあるのだという学びがありました。

特に、二項動態という考え方には納得感が大きかったようです。組織、個人の目標・行動計画やメンバー同士の日常会話にもワードとして登場していることからも、新たな行動基準となっていることが分かります。今後に向けて「納得感のある勇気」をいただきました。

斉藤様:我々は事務局をつとめていましたが、社内だけにとどまらずグループ各社にも声をかけたところ、350名程度のメンバーが参加しました。これほどの人数が参加する社内講演は、これまでほとんどありませんでした。それだけ興味関心の高いテーマであったということが分かります。

終了後のアンケートでも、「いろんなヒントをもらえた」「アジャイルに対して前向きな姿勢に視点が変わった」というコメントが見られ、手ごたえの感じられる講演だったと思います。

私個人としては、「全集中」というキーワードでのお話が特におもしろいなと感じました。

全集中してメンバーを集め、一気に成果をあげて、そこで生まれた期待が次の期待を連れてくる、というお話だったと思います。日頃の仕事では、始める前から持続可能性を意識することが当たり前のようになっていますが、あまりに意識しすぎるのも良くないことがあるという指摘が非常に参考になりました。

よく覚えていてくださって嬉しいです。ありがとうございます。
持続可能性を意識することは普遍的に重要ですが、常に最優先かというとそれだけでは突破できないことがあります。まずは全集中して、いかに突破していくかを考える。突破した上で、先のことは先で捉える。そんな風に濃淡をつけながら仕事に取り組む必要があります。
恐らく多くの人にとって新しい仕事のスタイルですから、慣れていない分難しさはあると思いますが、今後いろんな組織で意識し、身につけていかなくてはならないのではないかと強く思います。

取り組みを広めることで、大きな変化への突破口に。

最後に、今後の取り組みとして考えていることや考えたいことをお聞かせいただけますか?

髙橋様:私は、アジャイルの推進です。

引き続き、社内での啓蒙活動としてセミナーや教育、社外向けの発信にも力を入れていきたいと思っています。

既にアジャイルに取り組んでいる人同士をうまくつなげて社内コミュニティを作り、さらに取り組みの後押しをするとともに、今まで取り組んでこなかった人たちにも興味を持ってもらい、取り組みを始める、広めるきっかけを作りたいですね。

また、今回の講演のような社外にも目を向けた情報収集や、情報発信をしていくことで業界全体への貢献もしていけたらと思います。その結果として、MUITに興味を持った人が集まってきてくれたら嬉しいです。

石川様:同感です。そういった活動ができる組織としての体制や文化を追求していきたいですね。

私はIT人材と呼ばれる人たちがこれからの日本を作っていくと信じているのですが、当社やグループの各社と一緒にお仕事をさせて頂いている方々を合わせると、国内のIT人材のおよそ1%が関わっていることになるのですよね。ここが探索と深化を両立させたプラットフォームになっていったら、1%が突破口となって日本の将来を変えていけるのではないかと思います。そういった意味でも、今回のセッションは非常に有意義でした。ありがとうございます。

斉藤様:人材育成という視点では、デベロッパー集団を作っていきたいと思っています。

案件ありきで、そこから人が育つという考え方もあるでしょうが、私としてはまず人を育てることに主眼を置くべきと考えます。

人が育つことで様々な課題を突破することができ、その結果受けられる案件が増え、循環しながら人が増えていくと思います。ですから、まずはアジャイル人材を育てていきたいですね。

また、若手のスクラムマスターを輩出していきたいです。

今回、若手でもスクラムマスターが務まると聞いて自信が持てました。入社6年目くらいでもスクラムマスターとして活躍できる機会を作り、実績として積み上げることで、若手にとっての目標になればいい流れができると思います。

 いいですね。スクラムマスターというと経験豊富な人にしかできないイメージがありますが、若手の人ができないのかというとそんなことはないのではないかと思い始めています。
経験はもちろん大事ですが、一方で今までとは違う開発現場のあり方や取り組み方があってもいいのではないでしょうか。
まさに今の現場でがんばっている若手の人たちが、彼らなりのチーム像やスクラムマスター像を持つことだってあっていい。むしろそういう場面が増えていくといいですね。
1%が突破口になって5%、10%と広まっていく。まさにそういう時代ですよね。最後のお話、非常に心に残りましたし背中を押していただきました。
今日はお時間をいただき、ありがとうございました。